「私小説 from left to right」水村美苗

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本格小説」(感想)がものすごーく良かった水村美苗さんの作品。これは筋らしい筋はほとんどなくて、ほとんどが2歳年上の姉との電話の会話です。両親に連れられて渡米して20年、それからあった様々な出来事が、電話での会話の合間に語られていくという形式。タイトルの"from left to right"というのは、日本語文学に特有の「縦書き」に対する「横書き」のことですね。日本語と英語、時にはフランス語も登場する「本邦初の横書きbilingual長編小説」。

日本語と英語が入り混じった会話、とは言っても所詮は日本語の本なので、英語の量は少ないんですけど、大学のゼミを思い出して懐かしかったです... 私の入ってたゼミ、先生は日本人だったんですが、当然のように英語を話してて(専門の授業自体、9割9分が英語で行われていたので)、生徒にも、母国語が日本語なのか英語なのか分からないような人たちが揃ってたんですよね。雑談は、その時に応じて日本語だったり英語だったり。彼らの会話が英語から日本語、日本語から英語と切り替わるのは、自分の言いたいことがその言葉では上手く伝えられなくなった時。英語と日本語でそれぞれ補完してるんです。
それ自体は全然構わないんですけど... 一見立派なバイリンガルな彼らの姿が、どうしようもなく中途半端に感じられてたんです。日本人の顔立ちで日本語を話していても、その日本語はちょっと怪しいし、日本人なら誰でも当たり前のように知ってること、子供の頃から当たり前のように体験してること、例えば「桃太郎」を聞いて育つ、みたいなことが、その根底に存在してるのかどうかも疑問だったし、だからといって西欧人として育っているのかといえば、それも疑問。この人たちの立ってる位置は、一体どこなんだろう、どちらにいても違和感を覚えるなんてことはないのかしら、なんてことを思ってて。子供を日本と海外2つの環境で育てるのって、親が余程しっかりしてないと難しいですよね。
そして読んでると、そんな彼らの姿が、水村美苗・奈苗という姉妹の姿にものすごく重なってきました。水村美苗さんは、中学から高校時代に何かに憑かれたように明治の文豪の文学作品を読み耽ったようですが、あの時の彼らにも、そういう拘りはあったのかしら。

この本から感じたのは、圧倒的な孤独感。どれだけアメリカにいて英語が上達しても、所詮は「アメリカにいるアジア人」に過ぎない2人。「帰国子女」として日本でもてはやされるには長くアメリカに居過ぎ、恋人のいない独身女性にとっては30代前半という不安定な年頃。既に帰るべき「HOME」はないのに、そこそこ良い家のお嬢さんとして生まれ育ってしまったプライドだけが今も彼らの根底にあって...
物語としての筋は特にないのに、これだけ読ませてしまうっていうのは、やっぱり凄いです。

水村美苗さんの作品は、次はデビュー作の「続明暗」を読む予定。なので先に本家の夏目漱石「明暗」を読もうと思ってます。「明暗」、読んだことあったかしら? それとも初めて? 読んだとしたら中学の頃だと思うんですけど、いわゆるその手の文豪の作品って、読んでるのか読んでないのか分からなくなっちゃったのが結構多いんですよね。水村さんの作品を読んでると、そろそろ初心に戻ってその辺りもぼつぼつと読み返していきたいなあって、そんな気になってきます。(新潮文庫)


+既読の水村美苗作品の感想+
「本格小説」上下 水村美苗
「私小説 from left to right」水村美苗
「手紙、栞を添えて」辻邦生・水村美苗
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Commentaires(2)

四季さん、こんばんは。
一日に2度も書き込みにきてしまいました(^^;)お邪魔でなければいいのですが・・・。
四季さんの『本格小説』の感想をみて、私も読みたくなってしまったのですが、なんと今月末文庫が発売されるらしいのです!なので、それまで待って入手しようと思っています(^^)。ちょうど水村美苗さんの話題だったので、ちょっとご報告まで☆

彩水仙さん、再びこんにちは。
そうそう、「本格小説」が文庫になるんですよねー!
実は私にしてはものすごく珍しく(!)知ってました♪ でもお知らせありがとうございます。
父が単行本で持ってるのに、手元に文庫も欲しい… と思ってしまった私です。(^^ゞ
彩水仙さんも、この機会にぜひぜひ。いいですよぉ。

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