「日の名残り」カズオ・イシグロ

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35年もの間ダーリントン卿に執事として仕え、卿が亡くなった今は、屋敷を買い取ったアメリカ人のファラディの執事となっているスティーヴンス。父親の代からの執事であり、執事としての高い矜持を持っています。しかし多い時には28人の召使がいたこともあるというこの屋敷に、今はスティーヴンスを入れて4人の人間しかいないのです。そんな時に思い出したのは、ダーリントン卿の時代に女中頭として働いていたミス・ケントンのこと。結婚して仕事をやめ、ミセス・ベンとなっている彼女は今はコーンウォールに住んでおり、先日届いた手紙では、しきりに屋敷を懐かしがっていました。丁度ファラディがアメリカに一時帰国することになり、その間、何日かドライブ旅行をしたらいいと勧められたスティーヴンスは、彼女に会いに行くことに。

ああ、なんて美しい作品なんでしょう。要はドライブしながら色々なことを回想していくだけなんですけど、良い小説とはこういうもののことを言うのかも、なんて思いながら読みました。
華やかななりし時代のスティーヴンスの仕事ぶり、執事としての誇り、執事に大切な品格の話なども興味深いですし、気さくにジョークを飛ばす今の主人に戸惑い、ジョークを言うことも自分に求められている仕事なのかと真剣に考えてしまうスティーヴンスの姿が楽しいです。慇懃でもったいぶっていて、少々頑固な、古き良き英国の執事の姿が浮かび上がってきます。一番楽しかったのは、スティーヴンスとミス・ケントンのやりとり。最初はことごとく意見が対立し、冷ややかなやり取りをする2人なんですが、かっかしてる2人の可愛いこと~。
最後の夕暮れの場面もいいんですよねえ。この場面にスティーヴンスのこれまでの人生が凝縮されて、重ね合わせられているようでした。最高の執事を目指し、プロであることを自分に厳しく求めすぎたあまり、結局、自分自身の人生における大切なものを失ってしまったスティーヴンス。老境に入り、些細なミスを犯すようになったスティーヴンスは、おそらく今の自分を亡き父親の姿とダブらせていたことでしょうね。もちろんスティーヴンスの中で美化され、真実から少しズレてしまっている出来事も色々とあるのでしょうけれど、無意識のうちにそうせざるを得なかったスティーヴンスの人生の斜陽に、イギリスという国の斜陽も重なってきます。第二次世界大戦が終わって10年(という設定)、アメリカがどんどん台頭し、現在の主人もアメリカ人。こうなってみると、戦前に屋敷で行われた重要な会議の場面でのやりとりも皮肉...。イギリスでは最早、本物の執事が必要とされない時代になりつつあります。
そんな中で、「ジョークの技術を開発」するなどと言ってしまうスティーヴンスの姿が、切ないながらも可笑しくて、また良かったです。(ハヤカワepi文庫)


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品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった... » Lire la suite

Commentaires(2)

四季さん、こんばんは♪
TBさせていただきました。
今年の今のところナンバーワン作品ですね。
『悪童日記』よりちょっと上ですね。
意外と重厚な作品が好きで(笑)、土屋さんの訳も本当に巧みですね。
土屋さんの『エデンの東』も読んでみたいですね。
初イシグロなのであと5冊楽しめますが、全部土屋さんの訳だったらと思います。情報によれば今年新作出るみたいですね。

自分の感想には書けませんでしたが本当に亡父をダブらせてたと思います。
DVD明日借りてきますね。

オススメありがとうございました。

トラキチさん、こんにちは~。
おお、トップに躍り出ましたか。それは嬉しいな。
トラキチさんといえば、まず「ハートフル」なイメージなんですけど
そこに「重厚」も付け加えておきます。^^
亡きお父さまを重ねて読まれていたら、一層心に響いたことでしょうね。

「エデンの東」も、すごく面白かったですよ! 全4巻と長いですが、ぜひぜひ。
映画の「エデンの東」が有名ですけど、あれは最後の部分だけなんですって。
映画には出てこない人物もいるみたいだし(それがちょっと面白い人なんです)
もったいないなーって思っちゃいました。

DVDもいいらしいですね。
そちらの感想もまた聞かせてくださいねー。

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