「晩夏」上下 シュティフター

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ある夏、自然科学の研究をしながら高い山脈から丘陵地へと向かって歩いていたハインリヒは、西の方に雷雲が拡がるのを見て、近くにある薔薇の花に覆われた家に雨宿りを求めます。その家に住む老人に雷雨は来ないと断言されながらも、自分のこれまで観察してきた自然科学を信じるハインリヒ。しかし結局、老人の言った通り雷雨は来なかったのです。その理由を解き明かす老人の言葉に深く感銘を受けたハインリヒは、その夏から足しげくその薔薇の家を訪れることに。

「水晶」(感想)を読んで以来大好きになってしまったシュティフターの作品。第15回のたらいまわし企画「私の夏の1冊!!」で、The Light of the Worldのnyuさんが出してらした作品でもあります。(記事) 「晩夏」という題名なので、本当はもっと時期を合わせて読もうと思っていたんですが、まだ初夏のこの時期に読んでしまいましたー。でも作品の中に終始漂う爽やかな空気は、今の時期の爽やかな空にもぴったり。というよりむしろ、日本で読むなら秋よりも今の気候の方が合ってるような気もします。

そしてこの作品は、劇作家フリードリヒ・ヘッベルには、この小説を終わりまで読み通した人には「ポーランドの王冠を進呈しよう」とまで酷評され、一方、ニーチェには「ドイツ文学の宝」と絶賛されたという作品。トーマス・マンにも高い評価を受けていたようです。きっと今も昔も、絶賛されるか酷評されるかどちらかなんでしょうね。そしてその酷評された理由は、まずこの作品の起伏に乏しさにあるのではないかと。文庫の上下巻で丁度1000ページほどあるんですけど、確かにこの長さには不釣合いなほど、ほんと何も起きないんです。ただ淡々と物語が流れていくだけ。話がようやく動き始めるのは、かれこれ3分の2も読み終えた頃。あと、人間が描けていない、なんてことも言われちゃうのかも。ここに登場する人たちは皆、嫉妬や傲慢といった悪感情には縁がない人ばかりなんです。特に主人公の家族は凄いです。この時代でも、本当にこんな家族は存在してたのかしら... なんて思ってしまうほど。(ちょっと羨ましい) そして恵まれた環境に生まれ、自らたゆまぬ努力を続け、挫折を知ることなく成長していく主人公は、この先、例えば逆境に陥った時とか、本当に大丈夫なのでしょうか?(挫折を知らない人って、どうも信用できなくて・笑)
でもそんな風に、酷評された理由を想像することもできるんですけど、それらは私にとっては、全然マイナスではなかったです。薔薇の家の主人の話はどれも興味深かったし、負の感情がないからこそ際立つ部分もあったし、高地と丘陵地、そして都会という対比も面白かったし... それにこの作品は、読んでいること自体がとても気持ちがいいんです。この世界に、そして薔薇の家にずっと居続けたくなっちゃう。一気に読んでしまうのが勿体なくて、2ヶ月ほどかけて少しずつ読んでました。シュティフターの作品をいくつか読んだ中では「水晶」が一番好きなんですが、この作品もなかなか良かったです。

ということで、ポーランドの王冠は私が頂いておきましょうかね?(要らないけど・笑)(ちくま文庫)


+既読のシュティフター作品の感想+
「水晶 他三篇 石さまざま」シュティフター
「森の小道・二人の姉妹」シュティフター
「晩夏」上下 シュティフター
「ナレンブルク 運命に弄ばれた人々の城」A.シュティフター
「石さまざま」上下 アーダルベルト・シュティフター
「森ゆく人」アーダルベルト・シュティフター
「書き込みのある樅の木」アーダルベルト・シュティフター

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Commentaires(2)

こんばんは、
ふふふ、ポーランドの王冠は四季さんのものですね(要らないですか?やはり
でも、ポーランドって周辺国に占領されたり分割されたりと、王冠といっても本当にいいものではないようです。だから誰も欲しがらない。
そのことも含めて皮肉ったのかな?とも思っています。
主人公のハインリヒは資産のある家の後継ぎだし、家庭環境も理想的(すぎるぐらい)。でも独学で自然科学を修めようとするところはどうしても世捨て人っぽいかんじもします。ちょっと頼りないかもですね(笑
>読んでいること自体がとても気持ちがいい
同感です。『晩夏』という言葉には「老いらくの恋」というような意味もあるようですが、
描かれる自然や舞台となる高原の家が色彩豊かで、ああ、行きたい(笑

nyuさん、こんにちは。
やっぱり要らないですよねえ。>ポーランドの王冠
と思ったんですけど、そっか、そういう「誰も欲しがらない」も含めてだったんですね! それは気づかなかった。
教えてくださってありがとうございます。なんでいきなりポーランドなんだろうって思ってたんです。
王冠というのが、文字通りの物としての冠だけなら欲しいですが(笑)、土地とかそれに付属する権利や義務は要らないですね。

ほんとあの舞台となる場所に行きたいですね。
登場人物が「ここは本当に美しいですね」とか何とか言うたびに、そう言える場所にいることが羨ましかったです!
私もあの大理石の床を、フェルトの靴で歩きたい~。男爵の話を色々と聞かせてもらいたい~。
それよりも「薔薇の家」に住み込んで、薔薇作りのお手伝いをさせてもらいたい~。
ポーランドの王冠よりも、そっちの方がずっと魅力的です。(笑)

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