「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ

Catégories: / /

 [amazon]
上海の租界に生まれ育ったクリストファー・バンクスは、10歳の時に両親が次々と謎の失踪を遂げ、イギリスにいる伯母に引き取られます。両親を探すために探偵を志したクリストファーは、やがてイギリスで数々の難事件を解決し、名探偵としての名声を博すことに。そして消えた両親の手がかりを探すために、日中戦争のさなかの上海に戻ることになるのですが...。

クリストファーの一人称による語りなんですけど、これがものすごく不安定。同じくハヤカワepi文庫のパット・マグラアの「スパイダー」(感想)解説に、「日の名残り」(感想)の執事は「信頼できない語り手」だと指摘されていたんですけど、それ以上ですね。クリストファーは、自分がイギリスに帰る船旅を、いかに希望に満ちた明るい態度で過ごしていたか、イギリスに着いてからは、いかに寄宿学校の生活にすぐに順応したか、自分がいかに本当の感情を表に出さないまま相手に対しているか、その都度強調するんですけど、ゆらゆらゆらゆら、今にも足場が崩れてしまいそうな感じ...。とは言っても、もちろんそれは意図的なものなんですよね。相手の意外な言葉にクリストファーが驚いたり反論したりする場面が何回かあって、それを裏付けてると思います。
物語前半の上品で華麗なロンドン社交会の描写は、いつのまにか日中戦争の戦火へ。そしてクリストファーが無意識に目をつぶっていた真実が明らかに。クリストファーの記憶が、彼にとって都合の良い方向に少しずつズレていたのは、きっと自己防衛本能だったんでしょうね。前半では輝いて見えた人々も、後半ではその光を失い、真の姿が見えてきます。
でも、こちらも悪くなかったんだけど... 好きという意味では、やっぱり「日の名残り」の方が段違いに好き。あちらの方が全体のバランスも良かったし、何より完成されていたという感じがします。

本の紹介から、ミステリ的要素の強い冒険譚かと思って読み始めたんですけど... 確かにそういう面もあることはあるんですけど、それは単に物語の形式といった印象です。ミステリ目当てに読むのは、やめておいた方が無難かも。(ハヤカワepi文庫)


+既読のカズオ・イシグロ作品の感想+
「日の名残り」カズオ・イシグロ
「遠い山なみの光」カズオ・イシグロ
「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ
「浮世の画家」カズオ・イシグロ
「私を離さないで」カズオ・イシグロ
「充たされざる者」カズオ・イシグロ

| | commentaire(0) | trackback(1)

Trackbacks(1)

「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ へのトラックバック一覧:

URL TrackBack de cette note:

現在と過去が行ったり来たりする語り口と、 挿入の多い文章になかなか慣れず、 最初の方は困難しました。 1章を読み終えたところで、「あれは○年のことだっ... » Lire la suite

コメントする(要JavaScript)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.