「英語になったニッポン小説」青山南

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古典文学ではなく、比較的最近英訳された11編の日本の小説を元に、原作とその英語版の対比をしながら考察していきます。ここで取り上げられているのは、吉本ばなな「キッチン」、村上龍「69」、小林恭二「迷宮生活」、李良枝「由煕」、高橋源一郎「虹の彼方に」、津島佑子「山を走る女」、村上春樹「象の消滅」、島田雅彦「夢使い」、金井美恵子「兎」、椎名誠「岳物語」、山田詠美「トラッシュ」。

翻訳家の青山南さんの本だけあって、翻訳家としての立場からの意見も沢山。翻訳家志望の人にとても勉強になりそうな1冊です。面白かったー。翻訳作業って、単に言葉を別の言葉で置き換えるだけでなくて、その言葉が背負ってる文化を伝えることでもありますよね。この本の中でも、単に言葉の対比だけでなく、日本語版と英語版の雰囲気の違いやその原因、日本特有の固有名詞やその言葉によって伝わるもの、その訳し方など様々な部分に着目していくんですが、もう「なるほど」がいっぱい。
ただ、私がこの中で読んだことあるのは、「キッチン」と「69」だけだったんです。実際に原文を読んでいたら、きっともっと理解できたろうなと思うと、ちょっと勿体なかったり... と言いつつ、「キッチン」だけは、英語版も読んだことがあるんですが! というか、実は吉本ばななさんの作品を初めて読んだのは、英語版「キッチン」だったんですが!...と書くと、なんだか凄そうなんですけど、英語の本とは言っても、「キッチン」の英語自体は全然難しくなくて、中学生レベルの英語で読めそうな感じです。当時、読まず嫌いだったわけでもないんですが、吉本ばななさんに特に興味もなく素通りしていたら、友達が英語版をプレゼントしてくれて... しかも入院中で暇にしていた時だったもので、あっさりと読むことに...。(笑)
で、その「キッチン」なんですが、英語の文章を読んでいるのに、なんだかするんと身体の中に入ってくる感覚だったんです。原文は一体どんな感じなんだろう? と、退院後に日本語版も読むことになったのでした。ということで、「キッチン」だけはどちらの雰囲気も分かっているわけで、この章が一番面白かったです。この「キッチン」に関しては、青山さんは、翻訳されたからこそ分かりやすくなった部分があると指摘されてますし、確かに私もそう思いました...。日本語版も英語版も雰囲気としては同じなんですけど、英語の方が論理的で分かりやすい文章。逆に日本語の表現を見て、へええと思った覚えがあります。

他の作品では、例えば村上龍さんの「69」で、「林家三平そっくりの男」という言葉を単なる容貌を説明するような言葉に置き換えたことから、失われてしまった日本語のニュアンスのこととか、島田雅彦さんの「夢使い」で、日本語と英語がちゃんぽんになってる部分がきちんと英語に訳されていることによって、伝わらなくなってしまった会話の雰囲気とか、椎名誠さんの「岳物語」でも、文章の順番が緻密に入れ替えられて端正になった分、椎名さん特有の「勢いのままだらだらと書いた」雰囲気はなくなってしまったとか、そういう話が面白かったです。なるほど~。
行間のニュアンスまで上手く訳されているものがあれば、まるで違う雰囲気の作品になってしまっているものもあり、やっぱり翻訳者の方って大変ですね。とても興味深かったです。(集英社)


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