「高丘親王航海記」澁澤龍彦

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貞観7年、広州から船で天竺へと旅立った高丘親王。天竺は高丘親王にとって、幼い頃に父・平城帝の寵姫だった藤原薬子に話を聞いて以来の憧れの地、船に乗り込んだ高丘親王は、この時67歳。同行するのは、常に親王の傍で仕えていた安展と円覚という2人の僧、そして出航間際に船に駆け込んできた少年「秋丸」の3人。

澁澤龍彦氏の遺作だという作品。ずいぶん前に、森山さんにオススメ頂いた時から読みたいと思ってたんですけど、その時は本が手に入らなかったんですよね。先日LINさんが読んでらした時(記事)にふとamazonを覗いてみると、なんと「24時間以内に発送」になってるじゃないですか! たらいまわし企画でも何度か登場してたのに、その時は最初から諦めちゃってたんです。いやー、もっと早く気付くべきでした。私のばかばか。
高丘親王という人は実在の人物なんですが、天竺へ向かうこの旅自体は澁澤氏の創作の世界。山海経に登場するような生き物がごく自然に存在している、幻想味の強い物語です。現実世界と幻想世界の境目はもうほとんど感じられなくて、自由気儘に行き来している感覚。これって、一見現実に見えても、実は現実とは言い切れない場面もあるのね... と思っていたら、高橋克彦氏の解説に「一読した限りではなかなか気付かないだろうが、いかにも幻想的な航海記のようでいて、実際はその過半数の物語が親王の夢なのだ」とありました。「親王が現実世界を旅している時は、薬子はたいてい記憶として登場し、親王が夢の中を彷徨っている時は、薬子もまた別の夢となって現れる」とも。そうだったんだ! たとえば最初の大蟻食いの場面とか、これはきっと本当は夢の中の出来事なんだろうなと思っていたんですけど、やっぱりそれで合っていたようです。(よかった) でも読み落としてる部分もありそうなので、もう一度読み返してみなければ~。そしてこの幻想世界と現実世界は、お互いの世界を鏡のように映し合っているかのよう。夢や記憶でしか登場しないはずの薬子の存在感がとても大きくて、まるで薬子を通して様々なものが映し出されてるような感覚も...。
これまで読んだ澁澤氏の作品とは雰囲気がまた少し違っていて、まるで別次元へと昇華してしまったような感じ。おそろしいほどの透明感。途中、高丘親王が欲望を覚えるような場面もあるんですけど、生々しさはまったくなくて、むしろ枯れた味わいです。親王を通して感じられるのは、生への慈しみ。やはりこれは確かに遺作だったんだな... と納得してしまいます。やっぱり高丘親王は、澁澤氏自身ですよね。澁澤氏も、あの真珠を投げたのかしら。今頃、森の中で月の光にあたためられているのでしょうか。澁澤氏が亡くなって19年ですか... 薬子は50年と言ってるし、まだもう少し時間がかかりそうですね。(文春文庫)


+既読の澁澤龍彦作品の感想+
「私のプリニウス」澁澤龍彦
「異端の肖像」澁澤龍彦
「夢のある部屋」澁澤龍彦
「澁澤龍彦初期小説集」澁澤龍彦
「夢のかたち」「オブジェを求めて」「天使から怪物まで」澁澤龍彦
「高丘親王航海記」澁澤龍彦
「東西不思議物語」澁澤龍彦
Livreに「世界悪女物語」「幻想博物誌」「夢の宇宙誌」「フローラ逍遥」の感想があります)

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高丘親王航海記 これはいつか読みたいと思ってたんですが、宇月原さんの「安徳天皇漂海記」を読んだ勢いでいってみました。ものすごい期待とともに本を開いたわけな... » Lire la suite

Commentaires(8)

お読みになったのですね♪
>その過半数の物語が親王の夢なのだ
というのはわかったのですが、
どこがまでが現実でどこまでが夢かというのは
意識して読まなかったので、再読して、
そのあたりをきちんと再確認したいです。
宇月原晴明さんの『安徳天皇航海記』は、
この作品に強い影響を受けていて高丘親王も登場します。
(それが、またすごい登場の仕方なんですが 笑)
機会があったら、読んでみてくださいね♪

四季さん、こんにちは!
「高丘親王航海記」「夢十夜」「冥途」は、私の中でも夢三部作。
涙なしでは語れない愛しい作品たち。
必ず10の指にははいっています。
小説でしかありえないこの世界観、醍醐味がたまらなく好きです。

四季さんの感想を読んで、またあの感覚がよみがえってきました。
LINさんも最近読まれたようですし、これはそろそろ再読しなさいというお告げなのかもしれませんね。
どきどきしてきました。

>LINさん
どこからどこまでが夢なのかは、かなり曖昧ですね。
意識して読み返してみたけど、やっぱりかなり曖昧。
だいぶ分かったと思うんですけどね。
それより、これを読み続けていたら、もう戻って来れなくなっちゃいそうです。(笑)
「安徳天皇航海記」も、いずれ読んでみたいです~。
LINさんが、高丘親王が生々しく書かれていると書いてらしたので
(言葉はちょっと違ったかもしれませんが)
もう少し時間を置いてから、かな。
宇月原さんが影響を受けたという作品群も読んでみたいですし。
ますます樹海状態になりそうですね。(笑)

>picoさん
夢三部作、いいですねえ。
「夢十夜」だけは、かなり早い時期に読んでたんですけど
あとの2作は遅くなっちゃったのが悔やまれます…
もう少し早く読んでいたかったです!
とは言っても、「冥途」を読めたのも、たらいまわしのおかげなので、
ほんとたらいまわしには足を向けて寝られないです。(って、方角はどっちなんだ・笑)
「夢十夜」も、既に何度も読み返してますし、
「冥途」もこの作品も、これから何度となく開くことになりそう。
そういう作品の出会いがあるのって、本当に幸せですね。嬉しいです。
色んな場面を思い出すたびに、どきどきしちゃいますもん。
picoさんもぜひこの機会に、ご一緒いたしましょ~。

四季さん、こんばんわ。
すごく難しい本だと思っていたので、読んでみてこの面白さと軽やかさに驚きました。こういうのすごく好きです。

>親王が現実世界を旅している時は、薬子はたいてい記憶として登場し、親王が夢の中を彷徨っている時は、薬子もまた別の夢となって現れる
なるほど・・そこで見分けをつければいいんですね。夢と現実の境目がいまだにあやふやです。そこもまたいいんでしょうけど。
コメントにでていた「冥途」が、すごく気になります。

juneさん、こんにちは。
風邪でダウンしてたので、お返事が遅くなってしまってごめんなさい。

そうそう、一見難しそうな、すごくとっつき難そうな印象がありますよね。
でも、実際に読んでみると、ものすごーく面白くて! 私もこういう作品は大好きです。^^

「冥途」は、内田百閒さんの作品なんです。
手軽な文庫版もあるんですけど、↓こんな素敵な装丁のもあるので
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4894192500/
一度ぜひ手に取ってみて下さい。^^

「冥途」って、「夢十夜」や「猫町」と同じシリーズで出ていたのですね!
あぁ・・「夢十夜」と「猫町」欲しくて欲しくてたまらなかったんです。
また欲しいものが増えてしまいました。
でもお高いんですよね。でも美しい・・。

あ、パロル舎のこのシリーズ、ご存知だったんですね!
ほんと素敵ですよー。お値段は結構しますが、その価値はあるかと。
宝物です。^^

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