「イリアス」上下 ホメロス

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トロイア戦争が始まって10年経った頃。アカイア軍の総帥・アガメムノンがお気に入り妾・クリュセイスの解放を拒んだため、怒ったアポロンがアカイア軍の陣中に疫病を発生させます。アキレウスらがアガメムノンを説得、ようやくクリュセイスは父親であるアポロン祭司の元に戻るものの、それでは収まらないアガメムノンは意趣返しとして、アキレウスの愛妾・ブリセイスを強奪。アキレウスを怒らせることに。

トロイア戦争をモチーフにした作品のうちでは、これが一番有名な作品でしょう。でもここに描かれているのは、10年にも及ぶトロイア戦争のうち、ごく末期の部分だけなんですよね。それも1ヶ月ほどの短い期間。不和の女神・エリスと黄金の林檎、3人の女神たちとパリスの審判、アプロディーテーにヘレネを約束されたパリスが彼女をトロイアに連れて帰ったこと、戦争の勃発、そしてトロイア陥落の直接の原因となった、オデュッセウス発案のトロイアの木馬などの有名なエピソードについては、全く何も書かれていないんです。中心人物であるヘレネーすら、ほとんど登場しないぐらいですから。(ほとんど話題にもなってないですね) もちろん、実際にこの「イリアス」が歌い語られた時代は、観客も当然トロイア戦争に関する知識を豊富に持っていたわけで、戦争の原因やそれに至る出来事に触れられていなくても全く差し障りはなかったんでしょうけど... それでも、いきなりアキレウスとアガメムノンの反目から物語を始めるなんて、大胆だなあと改めて感心してしまいます。
とは言っても、実際に読んでみると、ホメロスがこの部分を取り上げたのにも納得なんですよね。戦いとしては、やっぱりここが一番の盛り上がりかも。特にアキレウスの親友のパトロクロスが死んだ後が面白い~。極端な話、パトロクロスが出陣する辺りから始めても良かったんじゃないかと思うぐらい。アカイアー軍とトロイア軍の戦いは、そのままオリュンポスの神々同士の争いや駆け引きの場にもなってて、そういう部分も楽しいですしね。というか、まるでRPGに熱中してる子供のようだわ、この神々ってば。

雰囲気は十分出ているとはいえ、散文調に訳されてるのがちょっと残念なんですが、大半の読者は詩なんて読みたくないでしょうし、それもいたし方ないのかな...。以前読んだ時は、詩の形だったような覚えがあるのだけど。そして巻末には、ヘロドトスによる「ホメロス伝」も収録されています。「イリアス」や「オデュッセイア」に、さりげなくホメロスが日ごろ世話になった人の名前を組み込んでるなんて知らなかった。神々が、ある特定の人の姿を取って人間に話しかけたりしてる裏には、そういうこともあったんですね。面白いなあ。(岩波文庫)


+既読のホメロス名義作品の感想+
「イリアス」上下 ホメロス
「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」
「オデュッセイア」上下 ホメロス
「ホメーロスの諸神讃歌」ホメーロス

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Commentaires(4)

四季さん、こんにちは。
僕はお恥ずかしながら、抄訳版でイリアスを読んでしまったのですが、それでも面白かったです。いつかちゃんと完訳で読み直したいと思います。
それにしてもギリシア古典文学って面白いですね。表現は荒削りなのになんだかとても力強いエネルギーに満ちている気がします。
イリアスには部分的にとてもリアルな描写があるのに驚きました。
「槍は~の腹を突きぬけその切っ先は膀胱にまで達した」
「槍を腿に突き刺したまま仲間に引きずられ自陣に戻った」
といったような感じの描写があり、え、この痛々しいリアリズムは何?とちょっとビックリしました。
しかし女神達に愛されるパリスが意外にへなちょこだったのがちょっと可笑しかったです。ギリシア文学を読むと英雄的であるということがギリシア人の尊敬の対象になったんだなと思うと同時にただ美しいだけでそれは価値があり、神に愛される運命にあるのかなと感じました。
ところで、僕は抄訳版でイリアスを読んだ後に完訳のイリアスが押入れに入っていたのを見つけてしまいました。でも購入した覚えが僕には全くなくて狐につままれたようです。
実は同じ本が二冊あるものが他に二冊ありまして、こちらもなぜ二冊ずつあるのか僕には理解できなくて頭を悩ましております。
四季さんはそういう経験・・・ないですよね。僕はボケてしまったようです(笑)

こんにちは。
本のブログ「"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!」管理人ののやぎっちょと申します。
今回ブログにてリンクを紹介文つきで新しく作りましたので、ご確認いただけないかと思いコメントしました。

もし、不都合、紹介文の変更希望などございましたらご一報いただけると幸いです。
リンクを貼らせていただいた皆様に、この同じ文を送らせていただいています。ぎこちないところはどうぞご容赦ください。

>kyokyomさん
抄訳版でも、恥ずかしいなんてこと全然ないですよ!
それで面白ければ、いつか完訳版に進めばいいだけの話ですし~。
やっぱり、はじめのとっかかりとして便利ですよね、抄訳版は。

>表現は荒削りなのになんだかとても力強いエネルギーに満ちている気がします。
本当にその通りですね! パワフルですごく面白いです。
いい機会なので、これから少しずつ古典を読んでいきたいなと思ってます。
あ、リアルな痛々しい場面もありましたね。でも「膀胱」にはびっくりしますよね。(笑)
私が一番面白かったのは、ヘクトルが死んだ後の奥さんの嘆きの場面でした。
自分の夫が死んだということ自体でも、もちろん嘆いてるんですけど
気がついたら、父親がいない子供は他の子にいじめられるから… って、そんなことを言っていて
むしろそっちがメインのように見えてしまったところです。
そりゃいじめられるかもしれないけど… ヘクトルの子といえば、れっきとした王族。
しかも言ってみれば、皇太子がトロイアのための名誉の戦死をしたということで… それでもダメなのでしょうか!(笑)

そうそう、パリスはへなちょこですね。ほんと顔が美しいというだけ。ヘレネもそう認めてるのが可笑しいです。
姿かたちが悪くても心映えが良くて… なんていうより、とにかく顔の美醜が大切?
ギリシャ神話だけでなく、欧米の文学全般に見え隠れしてるような気もしますが…

覚えのない完訳、不思議ですねー。誰かがこっそり入れたということはないですか?
私も、2冊ダブって買ってしまうことはよくありますが、一応身に覚えがあるものばかり… かな?
不思議ですね。kyokyomさんのお部屋には小人さんがいるのかも。(笑)

>やぎっちょさん
はじめまして。お返事はそちらに直接いたしますね。

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