「ギリシア悲劇III」上 エウリピデス

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エウリピデスのギリシャ悲劇集。エウリピデスは、アイスキュロス、ソポクレスと並ぶギリシャ三大悲劇詩人の1人です。ここには「アルケスティス」「メデイア」「ヘラクレスの子供たち」「ヒッポリュトス」「アンドロマケ」「ヘカベ」「救いを求める女たち」「ヘラクレス」「イオン」「トロイアの女」の10編が収録されています。

この中でエウリピデスの代表作といえば「メデイア」や「ヒッポリュトス」「アンドロマケ」辺り。特に「メデイア」は有名ですよね! 蜷川幸雄演出の「王女メディア」の元本でもあります。簡単な筋としては、伝説の黄金の羊の毛皮を取りに行ったイアソンは、コルキスの王女メデイアの助けを借りて目的を達成。その後メデイアとの間に2人の子供もできるんですけど、心変わりして他の王女と結婚しようとするんですね。で、怒ったメデイアはその王女と父親、自分が生んだ2人の子供まで犠牲にして、イアソンに復讐するというもの。怖いです。

でも、私がこの中で一番気に入ったのは「メデイア」ではなくて、悲劇と呼ぶには少々微笑ましすぎるような「アルケスティス」。これはペライの王アドメトスに死が迫った時、「代わりに死ぬ者さえあればアドメトスは救われる」という約束をアポロンが運命の女神たちから取り付けてくるんです。でも誰も身代わりに死のうなんてせず、ただ1人申し出たのは王妃のアルケスティスでした、という話。

最初は、老い先短いアドメトスの両親が、なぜ我が子のために死のうとはしないのか!という部分が強調されるんですね。王妃アルケスティスもそんなことを言いながら死んでいきますし。確かに親が子の身代わりになるという話はよくありますし、ほんの数年早くなるだけなのに、そんなに死ぬのが嫌なの? という気にさせられます。でもそれぞれの人物のやりとりを読んでいると、様々な人間の思惑が見えてきて面白いんです。やはり人間は死を恐れるもの。いくら年を取ったからといって、それが薄れるわけではなく。

アドメトス王の父親・ペレスが王妃の葬儀にやって来て、息子と激しい口論になるんですが、その時のペレスの「この世の生は短かろうと思うにつけ、その恋しさはひとしおなのだ。」「もしも御身に自分の命が愛(かな)しいなら、皆も同じく愛(かな)しかろう」という言葉に説得力があります。身代わりに死ぬのを拒否するペレスは、親らしいとは言えなくても、とても人間的ですよね。そして逆にこの2人のやり取りから浮かび上がってくるのは、アドメトスの身勝手さ。親が老い先短いからといって、親の死を望む息子っていうのは、如何なものでしょうか! 天の理を曲げてまで、自分が生き残ろうとしてる時点で、既におかしいんです。今は妻の死を盛大に嘆いてるんですけど、こういった人は、1年もすれば新しい妻を迎えるんだろうなあ...。(しかも妻相手に嘆く言葉は、「こんなことしなければ良かった」ではなくて、「捨てないでくれ」「置いていかないでくれ」「私はこれからどうすればいいのだ」ばかり・笑)
そして、妻自身も純粋な愛情から死んだとも思えないのがポイント。死に際の言葉を読み返してみると、生き続けようとアドメトスの両親への恨みを口にして、まるで当て付けに死んでいくみたいでもあるし、世間体を気にしての行動のようでもあるし(賢妻はかくあるべき?)、「父なし児となった和子たちと一緒に生きながらえて行きたいとは思いませず」という言葉は、もしかして夫が死んで貧しい惨めな暮らしをするぐらいなら死んだ方がマシ、と思ってるのでしょうか?! 自分の死後、子供がいつか継母にいじめられるんじゃないかと心配してるんですけど、子供たちの行く末が本当に心配だったら、生き続けたいという思いもあるものなのでは...? こちらも自分のことしか考えてないです。死に際だから仕方ないのかもしれないですけど、そういう時こそ本質が出るとも言えますね。

...と、そんな感じで人間の内部を抉り出されていくのが楽しい作品。でも最後の展開は打って変わって可笑しいんです。ヘラクレス、いい人ねっ。八方丸く収まってめでたしめでたし。馬鹿夫婦は勝手にやってくれ、と笑えます。(悲劇じゃないじゃん)

3大詩人の中では、一番とっつきやすいのがエウリピデスのような気がします。どこかに「昼メロみたい」という評がありましたが、そうでしょうか! まあ、今の時代に読めば、そう思う人もいるかもしれないですけど、こちらが本家本元でしょう。人間の本質をすごく見抜いいて楽しいです。既存の神話に結構大胆な解釈を加えてるところも面白いですし。このシリーズは全4巻で、1巻がアイスキュロス、2巻がソフォクレス、3巻4巻がエウリピデス。比べて読めば、もう少しはっきり掴めてくると思います。
と言いつつ、文庫で700ページ以上という分厚い本なので、続けざまに読むのはちょっとしんどい...。休み休み行きますね。(ちくま文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ギリシア悲劇I」アイスキュロス
「ギリシア悲劇II」ソポクレス
「ギリシア悲劇III」上 エウリピデス
「ギリシア悲劇IV」下 エウリピデス

+既読のエウリピデス作品の感想+
「タウリケーのイーピゲネイア」エウリーピデース
「ギリシア悲劇III」上 エウリピデス
「ギリシア悲劇IV」下 エウリピデス

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Commentaires(3)

四季さん、こんにちは。
わあ、この本面白そお。
ちくまはなかなか良い仕事してくれますね~。
今、オデュッセイア読んでいます。読み終えたらまた遊びにきますね~。

kyokyomさん、こんにちは!
この本、面白かったですよー。
ギリシャ悲劇、以前いくつか読んだ時は、あまり面白さが
分からなかったんですが、最近は面白くてたまらないんです。
その時は、エウリピデスを読んでなかったからかしら?(笑)
ぜひまた続けて読みたいと思います。
ちくま文庫はほんといい仕事してますね。
お値段は、ちょっと高いけど…(笑)

四季 様

突然、お邪魔いたしました事をお許し下さい。
私は演劇制作会社で制作を担当しています。
この度、弊社(株式会社メジャーリーグ)で「王女メディア」を上演することになりました。
上演台本は、弊社の代表でありプロデューサーの笹部博司が4人バージョンを作りました。

ギリシャ文学をご研究なさっておられる方に是非、ご観劇を頂ければと思いまして書き込みをさせて頂きました。
ご興味をお持ちになられましたら、 弊社のHPにて詳細をご覧下さい。

内容が不適切でしたら、削除して下さいます様、お願い致します。

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㈱メジャーリーグ
〒170-0005
東京都豊島区南大塚3-6-5
第二市川ビル3F
Tel&Fax:03-5949-4690

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