「新トロイア物語」阿刀田高

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その地方では珍しいプラチナブロンドから、「銀」と呼ばれて育ったアイネイアスは、美しく利発な少年。父・アンキセスらの薫陶を受け、年毎に俊敏な若者として成長していきます。そしてアイネイアスが12歳の時、トロイアに10年前に現れたのは、ずっと行方不明となっていた王子・パリス。10年ぶりに現れたパリスは失踪した当時とは違い、見るからに立派な若者に成長していました。そして数年後、パリスが父・プリアモス王の命を受けてギリシアへと旅立つことになり、アイネイアスも同行することに。そしてその旅の途上で立ち寄ったスパルティで、パリスはメネラオスの妃・ヘレネに出会うのです。

アイネイアスの視点から描くトロイア戦争。以前、ギリシャ物を読み始めた頃に、風待屋のsa-ki さんに教えて頂いた本です。
いや、面白かったです。一気に読んでしまいましたー。全体的な構成としては、主にホメロスの「イリアス」「オデュッセイア」、そしてウェルギリウスの「アエネーイス」を繋げて、その合間にギリシア悲劇などに描かれている細かいエピソードを丹念に掬い取っていっているようですね。
でも、読み始めてまず目につくのは、そういった本家作品とは違って、こちらはあくまでも人間が主体の物語であること。神々に関しては名前のみの登場で、「イリアス」のように戦局を左右したり、人間を助けたりはしません。ギリシア神話では愛と美の女神・アプロディテの息子とされるアイネイアスなんですが、ここではイディ山の神官がそういう託宣を下しただけ。しかも宣託は「愛と美の女神の息子」というだけで、アプロディテの名前は出ていないんです。これは、当時のトロイアがギリシャと同じ神々を信じていたとは、阿刀田さんには考えられなかったから。そしてトロイア戦争の発端となる「パリスの審判」に関しても、パリスの夢の中の出来事を耳にした人間が噂として広めただけ。さらに「イリアス」では、トロイア戦争の期間は10年間、千艘を越したギリシャの軍勢は10万とされていますが、この作品の中ではかなり縮小されています。トロイア城址の規模から考えても、実際10万もの大軍が10年もかけて攻めるほどの城砦ではないのだそうです。戦争は戦争として現実にあったにしても、やっぱりホメロスが描くトロイア戦争は、あくまでもホメロスの時代の知識を基にしていますものね。トロイア人とギリシア人は同じ民族ではないのだから、同じ言葉を話し、同じ神々を信じていたわけではないだろうというのも、私も以前から感じていたことです。
そういう意味で、この「新トロイア物語」は、とても現実的な物語となっています。阿刀田さんご自身が書かれている通り、「古代史を舞台にした、現代の日本人アイネイアスの物語」というのが相応しいかも。この作品が書かれた頃は、まだ外国の歴史的ヒーローを小説化した作品がほとんどなかった時代だったそうで、時々妙に武士道的な匂いがするのが可笑しいんですけどね。(笑)

「ホメロス」や「オデュッセイア」みたいな、神々が当たり前のように登場するのも夢があって大好きなんですが、こういうのもいいですね。神々を登場させないために阿刀田さんが凝らしている工夫も、とても面白かったです。特に印象に残ったのは、残虐なアガメムノンのやり口。トロイアに首尾よく攻め込むための策略や様々な計算、そしてその挙句自分自身に降りかかってきた災難など、ギリシャ悲劇に描かれているアガメムノン関係を複数読んだ上でも、すごく説得力がありました。説得力があるといえば、パリスとヘレネの末路も。いかにもあり得そうです。あ、でもパリスが意外といいヤツだったなあ。哀愁漂ってたし。(「パリス=あほ男」がすっかり定着してたので)

やっぱりここまで来たら、「アエネーイス」も読まねばー! 岩波文庫版が絶版なので、古本で探してたんですけど、やっぱり図書館で借りちゃおうかな。ちょっと迷い中です。それにしても、こういう古典作品を絶版にするのは、やめて欲しいですね。爆発的に売れることは、まずないでしょうけど、需要はなくならないんですから。って、それだけじゃあ全然ダメなのかな、やっぱり。(講談社文庫)


+既読の阿刀田高作品の感想+
「新トロイア物語」阿刀田高
「ギリシア神話を知っていますか」「私のギリシャ神話」阿刀田高
「ホメロスを楽しむために」阿刀田高
「旧約聖書を知っていますか」阿刀田高

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