「トールキン神話の世界」赤井敏夫

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神戸学院大学教授の赤井敏夫さんによる、トールキン研究書。トールキンの「ホビットの冒険」「指輪物語」「シルマリリオン」やそれらの作品を巡る評論、キャロル・ルイスやC.S.ルイスとの比較、ルイスやチャールズ・ウィリアムズと活動していたインクリングスでの姿などから、トールキンの創り出した神話世界を考察していきます。石堂藍さんが「ファンタジー・ブックガイド」に、「『指輪』のファンだと言いながらこの本を読んでいないのはモグリであろう」と書いてらっしゃるんですが... すみません、モグリです(^^;。

とにかく膨大な参考資料に目を通した上で書かれたということがよく分かる本です。すごい!
アラゴルンとフロドのこととか、ギムリとガラドリエルのこととか、へええ、そうだったんだ!という部分が色々とあったんですが、この本を読んでる間中、重なって仕方がなかったのは、「ニグルの木の葉」のニグルとトールキン自身の姿。
「ニグルの木の葉」というのはトールキンによる寓話的物語で、この主人公のニグルは画家なんです。大して評価をされているわけではないんだけど、どこか宿命的に絵を描いてる人物。そのニグルは、元々木よりも、1枚の葉を上手く描くタイプの画家で、葉の形や光沢、葉先にかかる露のきらめきなど細部を写すことに拘るんですよね。でもいつかは、それらの葉の絵から木の全体を描きたいと思っているんです。そして、風にもてあそばれる1枚の葉の絵は、木の絵になり、やがて数え切れないほど枝を伸ばして、どんどん巨大な絵になっていく... このニグルの姿は、トールキン自身の姿だったのですねー! 最初、自分の子供たちのために「ホビットの冒険」という物語を作り、それが出版社の人間の目に留まって出版されることになり、そして続編を求められた時。最初は気軽に執筆を始めるものの、トールキンの前には、「中つ国」を中心とした神話「シルマリリオン」が徐々に出来上がりつつありました。時には執筆中の「指輪物語」に合わせて、神話を遡って書き換えたり、「ホビットの冒険」の最後の「それ以来かれは死ぬまで幸せに暮らしました」という言葉になかなか相応しい続編にならないと、いくつもの草稿を破棄したり。1つのエピソードを大きな物語にふくらましたり。そのまんまニグルじゃないですか。執筆するトールキンの姿が見えるようです。「ニグルの木の葉」では、ニグルが、もうすぐ旅に出なくちゃいけないのに時間がないと焦ってるんですけど、その辺りも、亡くなるまでに作品を完成させられなかったトールキンの姿と重なります。そして、この本を読めば「ホビットの冒険」「指輪物語」「シルマリルの物語」といった木の全体の姿が俯瞰できます。

ただ、既に「指輪物語」として広まっている作品を「指輪の王」、「ホビットの冒険」を「ホビット」と表記したなどの拘りは、どうなんでしょうね。原題の「The Lord of the Ring」の「Lord」という言葉は、キリスト教的にも、簡単に「王」なんて訳せるような言葉ではないはず。「指輪の王」なんて訳すぐらいなら、いっそのこと英語の題名のままにしておいた方が良かったんじゃ...。気持ちは分かる気もするけど、わざわざ表記を変えるのは、どうも読者に不親切な気がします。(人文書院)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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