「エクスカリバーの宝剣」上下 バーナード・コーンウェル

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かつてはアーサー王に忠誠を誓っていたダーヴェル・カダーンも、今は年老いた修道士。プロフヴァイル王妃・イグレインの命によって神の敵たるアーサーの物語をサクソン語で羊皮紙に綴り始めます。ダーヴェルがまだ少年だった頃。ドゥムノニアの王・ユーサー・ペンドラゴンは正嗣である息子のモードレッドをサクソン人との戦いで失い、遺されたモードレッド妃・ノルウェンナの出産を待ちわびていました。そしてノルウェンナが産んだのは、足萎えの男の赤ん坊。ユーサーはその子に父親の名を取ってモードレッドと名付け、その子こそが、王国の跡継ぎであることを宣言するのですが...。

冒険小説家として有名だというバーナードコーンウェルの書いた、小説アーサー王物語の第1部。
アーサー王伝説を題材にした作品ということで手にした本なんですが、いわゆるアーサー王伝説とはまるで違っていてびっくり。ここには円卓の騎士たちも優雅な乙女たちもいなくて、騎士道なんかもまるでなし。これは相当泥臭い話になってるんですねー。人物設定もその造形も、ほんと伝説とは全然違っててびっくり。アーサーの人好きのする性格というのはイメージ通りだったんですけど、彼はユーサー・ペンドラゴンの庶子で、しかも正嫡のモードレットを殺したとして父親に憎まれてるし、マーリンはマーリンで本当に魔術が使えるというわけではなくて、基本的には全て薬草の効能と手品と演出みたいですね。(それでも迷信深い人々には、十分超自然的なことが起きているように見える) 伝説ではどちらかといえば好々爺っぽいマーリンなのに、「血も涙もない人間」なんて言われたりもしてるし...。特にびっくりしたのはランスロット。伝説では円卓の騎士の中でも一番華やかで高潔な騎士だったはずなのに、ここでのランスロットときたら! ファンが読んだらがっかりすること間違いなしです。(笑) ついでに言えば、石に刺さった剣も存在せず、キャメロットのような美しい都もなくて、それらは語り手であるダーヴェルによって詩人の作りごとだと断じられています。そしてダーヴェルの書き綴る物語もまた、おそらくイグレインの好みに脚色されてしまうのだろうとも。
著者あとがきには、こうありました。

どんなに徹底的に調べても、史料から確実に類推できることは限られている。おそらく五世紀から六世紀にかけてアーサーという人物は実在したに違いない。その人物は王にはならなかったにしても傑出した将軍で、憎むべきサクソンの侵入軍相手に赫々たる戦火をあげたらしいーーそれ以上のことは闇に包まれている。

確かにこの辺りの出来事に歴史的な裏づけを取るのは困難。そこに工夫を凝らすことは十分可能。とは言っても、ここまで大胆に作ってしまうとはー。
でもその分、歴史的背景や当時の風俗に関しては徹底的に調べてあるんでしょうね。その描写にはものすごくリアルな重みがありました。ローマ帝国風の洗練された都市もあるんですけど、ここに描かれているほとんどは、まだ洗練には程遠い暮らしをしていたブリテンの人々の暮らし。その対比が強烈なんです。戦いと強奪による血なまぐさと、あとは糞尿の臭いが漂ってきそうな... でも実際はこんなものだったのかもしれないなあと素直に納得させられてしまう力がありました。これは先行きどうなるんだろう? 予測ができません。続きも借りてこなくっちゃ。(原書房)


+シリーズ既刊の感想+
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