「西洋書物学事始め」「アーサー王伝説万華鏡」高宮利行

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先日古い「ユリイカ」を読んだ時に高宮利行さんの記事や対談が面白かったので(感想は書いてません)、図書館で借りてきました。
「西洋書物学事始め」の方は、中世写字生の仕事ぶりや写本という作業、様々な蔵書票、活版印刷と当時の印刷所の様子、図書館に寄贈した蔵書を永遠に維持させるための方策、古書の価値に大きく差が出るハーフ・タイトル、文人・パトロン・出版社の力関係など、本にまつわるエピソードを集めた本。
「アーサー王伝説万華鏡」は、文学のみならず、絵画やオペラ、演劇、バレエ、映画、音楽、ゲームなど様々な媒体のモチーフになっているアーサー王伝説を、伝説そのものからではなく、その多様な受容と発展ぶりから紹介していく本。
本当は「アーサー王物語の魅力 - ケルトから漱石へ」が読みたかったんですけど、これは市内の図書館に蔵書がないようで残念。今回借りたこの2冊は、どちらも文学というより書誌学寄りの内容でした。でも中世の写本の話も大好きなんですよね~。

「西洋書物学事始め」の方で特に面白かったのは蔵書票のこと。蔵書票には、図案の中に所有者の氏名や紋章、標語などを配したブックプレート(ex libris)と、飾り枠の中に名前だけが書いてあるブックラベルと、2種類あるのだそうです。様々な蔵書票のデザインが各時代の趣味を反映していていて興味深いし(こういうのにはほんとソソられます)、そこに書かれた文章から、貴重な写本を手に入れた人々の執着振りが伝わってくるそうで、ほんと面白いです。穏やかに持ち主を名乗るものや、本を手にした人間に持ち主まで返却してもらうよう頼んでいるものもあれば、本を盗んだ人間への呪いの言葉まで様々。せっかく本を借りても呪いの言葉なんて書かれていたら、怖くて早く返却してしまいそう。実は蔵書票には子供の頃から憧れていて、先日も小学校低学年頃の自作の蔵書票もどきを発見してびっくりしたほどなんです。最近は素敵なデザインをほおっと眺めるだけになってたので、蔵書票に関するもっと詳しい本も読んでみたくなっちゃいました。そして、15世紀に活版印刷に成功したのはグーテンベルクなんですが、グーテンベルク聖書が印刷されたのには、活版印刷は黒魔術や悪魔の仕業だという非難に対する対抗策という意味合いがあったとは知りませんでした。へええ。
さらに、ウィリアム・モリスやダンテ・ゲイブリエル・ロセッティら、ラファエル前派たちの話も結構出てきたんですが、その中で可笑しかったのは、「ウィリアム・モリスの『地上楽園』は、英米の専門家が読破できなかった英文学の傑作としてあげる作品十指に入る」という文章。専門家が読破できないような作品が傑作って一体...?(笑)

「アーサー王伝説万華鏡」では、ダンテ「神曲」のパオロとフランチェスカの絵とか(ランスロット繋がりですね)、フランス人作曲家ショーソンのオペラ「アーサー王」、グラストンベリの修道院にあるアーサー王の墓やウィンチェスター城にある円卓のこと、映画「エクスカリバー」についても書かれてるんですが、やっぱり興味を引かれるのは、本にまつわるエピソード。ラファエル前派のエピソードなど「西洋書物学事始め」と重なってる部分も結構あったんですが、一応こちらはアーサー王に特化してるんですよね。サンゴルスキーによるテニスン「アーサー王の死」の写本は目を奪われるような美しさ。チヴァース工房でヴェルーセント製本されたグローブ版「テニスン詩集」もものすごく素敵。マロリーの「アーサー王の死」の挿絵を描くようになったビアズリーのエピソードも面白かったです。本家のアーサー王伝説に関しては、もっと基本的な文献を当たった方がいいと思いますが、既にある程度知識がある人には応用編的楽しみがある本かと。(青土社・中央公論社)


+既読の高宮利行作品の感想+
「西洋書物学事始め」「アーサー王伝説万華鏡」高宮利行
「アーサー王物語の魅力」高宮利行

 
「西洋書物学事始め」
 ・ペンと剣は両立する? - 写字生のイコノグラフィー
 ・「大破門」から蔵書票へ - 中世人はいかにして本を守ったか
 ・鵞ペンから鉛活字へ - 中世ヨーロッパの写本生産と初期印刷技術について
 ・活版印刷所のイコノグラフィー - グーテンベルク革命の終焉をみつめながら
 ・樽詰め輸送の書物 - イギリスでも装飾されたグーテンベルク聖書
 ・本を寄贈するのもむずかしい - ピープス図書館に入れてもらえなかったキャクストン写本
 ・これがないと古書の価値も半分に - ハーフ・タイトルの歴史的考察
 ・文人、パトロンと出版者 - だれが一番強いか
 ・歴史をもてあそんだ男 - 十八世紀イギリスの偽作者チャールズ・バートラム
 ・閉ざされた図書館? - カーライルとロンドン図書館百五十年
 ・一○九年後にやっと日の目を見た木版画 - ケルムスコット・プレス以前の出版人モリス
 ・若きモリスと『アーサー王の死』 - 書物史的観点から
 ・書誌学者ジェフリー・ケインズの誕生 - 学術書の出版を考える
 ・物惜しみしない偉大なコレクター - アーサー・ホートン・ジュニアの一周忌に
 ・稀覯書よりワインに淫して - あるビブリオフィールの一日
 ・本・本・本 - ケンブリッジの書物人

「アーサー王伝説万華鏡」
 ・見る写本の再現 - 中世趣味とサンゴルスキー
 ・黒白の世紀末 - ビアズリーの『アーサー王の死』
 ・手作りの装丁 - セドリック・チヴァースの「ヴェルーセント」製本
 ・死の口づけ - 十九世紀のパオロとフランチェスカ
 ・脱ワグナー化の歌劇? - エルネスト・ショーソンの『アーサー王』
 ・政治に利用された伝説 - グラストンベリーとウィンチェスター
 ・絵の中に入りたかった画家 - バーン=ジョウンズの『アーサー王の眠り』
 ・伝説の脱神話化 - 映画『エクスカリバー』鑑賞の手引き
 ・聖杯の騎士ガラハッド - イギリス帝国主義に利用された伝説
 ・現代に生きるシャロットの女 - シーラ・ホーヴィッツと葛生千夏
 ・アストラットからアスコラットへ - 五00年の眠りから覚めた乙女
 ・軍艦から医療器具まで - アーサー王伝説我楽多市
 ・アーサー王伝説により親しむためのガイド

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