「理想の書物」ウィリアム・モリス

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19世紀のイギリスを代表する装飾芸術家・ウィリアム・モリスにとって最も重要な芸術は「美しい家」であり、次は「美しい書物」。中世の美しい写本を愛したモリスはヴィクトリア朝の本粗悪さを嫌い、晩年、私家版印刷所ケルムスコット・プレスを設立します。そこでは良質の紙やインク、行間や語間、余白、挿絵と調和する活字作りに拘った、モリスの理想の書物作りが追求され、自著やチョーサー作品集など53点の書物が刊行されることに。この本はそんなモリスのエッセイや講演記録、インタビュー記事などを1冊に集めたものです。

実際にケルムスコット・プレスでの本造りが行われていた期間に書かれたり語られたりしたものだけあって、ここに収められたモリスの書物芸術論はとても具体的。そして、美しい本を作るのも醜い本を作るのも手間と費用の面から言えばほとんど同じなんだから、それなら美しい本を作りたいというモリスの考え方はとても印象的。...でもね、粗悪本と手間と費用がそれほど変わらないとは言っても、良質の紙やインクを使用する以上、それなりの代金がかかりますよね。字間や行間が広い方が読みやすいと信じていた頑固一徹な植字工たちに自分の考えを浸透させるのも、きっと相当大変だったはず。...苦労した甲斐あって、ケルムスコット・プレスの本は本当に素晴らしいし、書物史の中で重要な役割を果たしてると思いますが!

そしてこの中に付録として「ウィリアム・モリスの愛読書」というのもあって、「良書百選」というアンケートに対する回答が収録されていました。モリスが中世の騎士道ロマンスが好きだったというのは知ってたんですけど、ここまで好きな作品が重なるとは! いえ、もちろんモリスの方が遥かに幅広く読んでますけど、モリスにとってバイブル的存在だという本は私もかなりの確率で読んでて、しかも好きな作品ばかり! バイブル的存在の中で全然読んだことがないというのは、ヘロドトスと「ヘイムスクリングラ」の2つだけですね。ヘロドトスは丁度読みたいなと思ってたところだし、ヘイムスクリングラも日本語訳さえあれば...です。これは、モリスのリストから未読本を選んで読めば、かなりの確率で私好みだということだなあ。(にやり)
折りたたみのところにブックリストを載せておきますので、興味のある方は「Lire la suite」をクリックして下さい。ここのブログに感想があるものに関しては、右側に作品名を書いてリンクしておきます。...それにしても「ヘブライ聖書」(旧約聖書のこと)がバイブル的存在って... あまりにそのまんまだわ!(笑)

ケルムスコット・プレスから刊行された53冊は、福岡大学のサイトでもリストと一部画像が見れます→コチラ。モリス自身の作品と、あとはモリス好みの作品って感じですね。1冊でいいから、こういう本を自分の物にしてみたいー。(一番欲しいのは中世の写本だけど)(ちくま学芸文庫)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス

 
<モリスにとってバイブル的存在>
  ヘブライ聖書(重複部分や単なるユダヤ教会主義部分は除く)
  ホメロス      ...「イリアス」「オデュッセイア」
  ヘシオドス      ...「神統記」「仕事と日」
  エッダ      ...「エッダ・グレティルのサガ」「エッダ 古代北欧歌謡集」
  ベーオウルフ      ...「ベーオウルフ 中世イギリス英雄叙事詩」
  カレワラ      ...「カレワラ物語 フィンランドの国民叙事詩」「カレワラ」
  シャー・ナーメ、マハーバーラタ      ...「王書 古代ペルシャの神話・伝説 」
  グリムや北欧民話を筆頭とする民話集      ...「太陽の東 月の西」
  アイルランドとウェールズの伝承詩集

(以下「*」マークがついているものも、バイブル的存在)
<真の古代の想像力に富む作品群>
  ヘロドトス*
  プラトン
  アイスキュロス      ...「ギリシア悲劇I」
  ソポクレス      ...「ギリシア悲劇II」
  アリストパネス      ...「女の平和」
  テオクリトス
  ルクレティウス
  カトゥルス

<伝統的な歴史書>
  プルタルコスの英雄伝
  ヘイムスクリングラ*(ノルウェイの王たちの物語)
  アイスランド・サガ*      ...「エッダ・グレティルのサガ」
  アングロサクソン年代記
  ウィリアム・オヴ・マームズベリ
  フロワサール

<中世の詩>
  アングロ・サクソンの抒情詩群(例えば「廃墟」とか「放浪者」)
  ダンテ      ...「神曲」
  チョーサー      ...「カンタベリー物語」
  農夫ピアズ      「農夫ピアズの幻想」
  ニーベルンゲンの歌*      ...「ニーベルンゲンの歌」
  デンマーク及びスコットランド・イングランド辺境地方の伝承バラッド*
  オマル・ハイヤーム      ...「ルバイヤート」
  その他のアラブとペルシアの詩
  狐のルナール      ...「ローランの歌・狐物語」
  最良の韻文ロマンス

<中世の物語本>
  アーサー王の死*
  千夜一夜物語*
  ボッカッチョのデカメロン
  マビノギオン   ...「マビノギオン 中世ウェールズ叙事詩」「シャーロット・ゲスト版 マビノギオン」

<近代詩人>
  シェイクスピア      ...「夏の夜の夢・あらし」「ジョン王」
  ブレイク(彼の内で生身の人間に理解できる部分)
  コウルリッジ
  シェリー
  キーツ
  バイロン

<近代の物語>
  バニヤンの天路歴程
  デフォーのロビンソン・クルーソー、モル・フランダース、ジャック大佐、船長シングルトン、世界周遊旅行
  スコットの小説群(死にかかっていた頃に書いた一つか二つは除く)   ...「アイヴァンホー」「湖の麗人」
  デュマ・ペール(彼のすぐれた小説)
  ヴィクトル・ユゴー(彼の小説)
  ディケンズ
  ジョージ・ボロー

<分類不能>
  サー・トマス・モアのユートピア
  ラスキンの著作(特にその倫理的部分と政治経済部分)
  トマス・カーライルの著作
  グリムのドイツ神話学

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モリスの考えていた「本」。
このリストで面白いのは、いわゆる小説はほとんどなくて、ディケンズくらいだということ。
文学の概念が、だいぶちがっています。

小説は、書物の大量生産が可能になった時、出現した文学ジャンル。
でも、その時、「本作り」も大きく様変わりしてしまった。
どんな言葉を本にするべきか…という判断に、
「売れる言葉」「儲かる言葉」が入り込み、これが支配的になる。
すると、物体としての「本」も、それにシンクロして、
物体としての価値じゃなく、
商品としての価値を追求するようになる。

モリスは「英国最初のマルクス主義者」。
人間にとって本当に値打ちのある書物とは何か。
市場の価値決定とどうしてもウマが合わないモリス。
そのあたりが出発点なんだと思います。

あと、モリスのリストを見るとよくわかるのは、
書物がマイナーな存在だった頃の「文学」のこと。
文字が読めない人のほうが多く、文学が声としてカタられていた時代。
その頃、文学とは、「声」。
書物は、音声においてしか「生きて」いない文学を、なんとか物体に留めようと、苦心惨憺した、いわば、まがい物。
でも。それは、愛する人を亡くしたものが、そのお墓を作るような行為。
生き返りはしないけれど、なんとか「生きている」時の最高の形をそこにとどめることはできないか。
そのあがきが、書物になる。
これは死物だけを記録保存し満足するコレクターとは、ずいぶんちがう態度なんです。

モリスのリストで、あと思ったのは、ボルヘスの文学観とものすごくよく似てるってこと。
まったく同じといってもいいです。小説中心史観から離れると、こうなるってことなんだと思う。
面白いのは、ミルトンへの全面否定(笑)
じつはボルヘスもミルトンを否定しきっています。表現もすごくよく似てて、興味深いです。

あらら、小説はディケンズぐらいですか!
近代の物語に分類されてるところは、小説ばかりなのかと思ってました…^^;
でも考えてみれば、「天路歴程」はちょっと小説とは言いがたいかもしれないですねえ。
スコットもユーゴーも小説は書いてるけど、小説家としてよりも詩人として好きだったのかも?
デフォーとかデュマは小説しか知らないんですが…(ジョージ・ボローに関しては、全くの初耳)
って、overQさんが仰ってるのは、そういうことじゃないんですね、きっと。

モリス自身はみんながいつでも見られるよう、公共図書館に置かれるような本を作りたかったようなのに
結果的にはものすごく高価な本が出来上がってしまったようなのが何とも言えないです…。
モリスとしては、「書物」の軌道修正をしたかっただけなんでしょうに。
でも妥協を知らない人のようだから。
現実問題としてやっぱり問題山積みですね。本作りもマルクス主義も。(笑)


ミルトン、嫌われちゃったんですね。(笑)
天使の場面はともかく、悪魔がかっこいいじゃないですかー。
いや、その感想は、キリスト教社会では許されないかもしれないですけど。(笑)
でも、モリスとボルヘスが似てるということは、モリスが好きならボルヘスもということになりますが…
「伝奇集」、なかなか進みませんー。なぜなんでしょう。
語り部の文芸は好きなはずなのに。
語り部が好きだと思いつつ、私が好きなのは所詮は紙の上の小説でしかなかったのかしらん。(涙)
(お墓、とは考えたこともありませんでした。目からウロコ!)

私には何か決定的に欠けてるものがあるのかも、なんて、ボルヘスを読んでると思います。
でもこれを読みきった時は、もひとつ別の視野が開けそうな予感もあって、それも楽しみなんです。
とりあえず、まだまだ時間がかかりそうです。(^^ゞ

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