「ヘンリ・ライクロフトの私記」ギッシング

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ヘンリ・ライクロフトは、純粋に作家として暮らしたいと思いながらも、長い間、貧乏のためにブック・レヴューや翻訳や論文といった詰まらない下請けを引き受けることを、余儀なくされていました。しかし50歳の時に知人から年間300ポンドの終身年金を遺贈され、突如悠々自適の生活を送ることができるようになったのです。ライクロフトは早速ロンドンの家を引き払い、イギリス中で最も愛しているデヴォン地方へ。そして5年余りの穏やかな生活を経て急逝。ライクロフトの死後、デヴォン地方に移ってからの日記らしき原稿ノートが出てきて、ギッシングがその遺稿を整理して出版することになります。

長年の貧乏暮らしから、思いがけない遺産相続を境に生活が一変したヘンリ・ライクロフトという作家の遺稿を出版した、という形式の小説。先日読んだ「読書の腕前」(感想)に、「およそ読書人と呼ばれる人の本棚に、これがないことはありえない」なんて書かれていた本です。引用されていた文章に惹かれるものがあったし、南イングランドの美しい自然の中で散歩と読書に明け暮れる日々だなんていいなあ、と読み始めたら、これが本当に良かった! 何が良かったって、私にとって一番良かったのは、ヘンリ・ライクロフトという人物の存在感ですね。いやね、読み始めてかなりの間、実在の人物のことを書いているのかと思い込んでいたんです。でもそう思って読んでもまるで違和感のないほど、造形がしっかりと立体的。多分周囲の人には、それほど個性的に感じられない、どちらかといえば全然目立たない人物のはずなのに、過去の出来事や現在考えていることを通して、ヘンリ・ライクロフトという人物像や人生観が浮かび上がってくるようで、これがすごく良かった。
もちろん、自然とのふれあいや本の話もすごく楽しかったです。こんな風に季節の移り変わりを敏感に感じながら、好きなだけ本を読む生活ってほんと羨ましいー。万事心得た家政婦さんがいるので、日常の瑣末なことには全然煩わされないで済むんですよね。その分ライクロフトは、毎日の散歩の中で見かけた花の名前を本で調べて、その美しさや香りを十分楽しんでます。「私は昔ほど本を読まない」という言葉も印象的でした。そうそう、そうなんだよね、今はどんどん新しい本を読んでる私もじきに読み方が変わって、好きな本だけを毎日読み返すようになるはず...。その日が来た時、ライクロフトみたいに自然に親しみながら毎日を心穏やかに暮らせるといいなあ。でも南イングランドじゃないし、今ひとつ雰囲気が出ないかもしれないな。(笑)(岩波文庫)

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Commentaires(6)

四季さん、こんにちは^^
ライクロフトの穏やかな生活に憧れました。
と、同時にこの人がこれだけ豊かな感情生活を送れるのもかつての苦闘の日々の中でも読書と思索することを求めてやまなかったからかな
あとも思えまました。

でも作者のギッシング自身は作中のライクロフトとは対照的に経済的には不如意な生活を送っていたんですね。ギッシングの強烈な願望がこの作品を創作する動機を与えたのでしょうか。彼は創作活動で作中のライクロフトのような生活を送れるような富は得られませんでしたが、それでもやはりこれだけの作品を残したその人生は幸せだったと言えるのかなあと思ってしまいます。
心穏やかな生活を送れるヘンリ・ライクロフトと生活のために書き続けねばならなかったギッシング。
どちらの生活の方が楽しいのかなあって考えてしまいました。。。

あ、『ヘンリ・ライクロフトの私記』を読まれたらあとは『紙つぶて』ですね^^
僕は、先月旅行先の広島の古書店で、苦節二年、どうにか落手することができました。
安心してしまってまだ読んでいないです^^

ところで『ヘンリ・ライクロフトの私記』は渡部昇一の『知的生活の方法』で知って興味を持ったのですが、この人の書く読書論も面白かったです。

kyokyomさん、こんにちは~。この本、既に読まれてたんですね。
ほんと、あの穏やかな生活には憧れてしまいますね。
>かつての苦闘の日々の中でも読書と思索することを求めてやまなかったから
確かにその通りだと思います。もしあの苦悩の日々の中に、読書や思索がなかったら
これほどまでに穏やかな、しかも精神的にも豊かな生活を送れなかったと思います。

でもギッシングとライクロフトの生活のどちらが楽しいか比べるのは、それほど意味がないような気もします…
ライクロフトの生活って、ギッシングにとって理想の生活だったんでしょうし…
本来なら自分が得られたはずのもの、そして将来得られればと願うものという位置づけだったのではないかと思うんですよね。

そうそう、「紙つぶて」、入手なさってましたよね!
これも読みたいんですけど、私には少し早いかもしれないな~という気も。
もう少しそこに載っているであろう本を読んでからでないと、宝の持ち腐れになってしまいそうで…。
もちろん「紙つぶて」を読んで読みたい本が増える、というのもアリなんですけどね。
最近そっちのパターンが多すぎるので。(笑)

渡部昇一さんの本は大学時代に何冊か読んだんですけど
英語関係ばかりで、読書論は読んでなかったかも…?
読むなら「知的生活の方法」がいいですか? 今度探してみますね!

四季さん☆こんばんは
ライクロフト氏が架空の人物とは思えないほど生き生きと描かれてましたね。
「私は昔ほど本を読まない」というフレーズは、わたしも気になりました。
そんな境地になるのはいつの事やら。(^_^;

Rokoさん、こんにちは~。
あ、Rokoさんも気になりましたか。>「私は昔ほど本を読まない」
ほんと、いつのことなんでしょうね~。
でも、こんな風に好きなことばかりできる生活ができる日が来たら
案外自然にそういう境地になりそうな気もしてます。

四季さん、こんにちは。
「私は昔ほど本を読まない」という言葉に篭められた四季さんの言葉を読みながら、読んでは忘れ、読んでは忘れ、している自分を反省しています。(これが長く続かないんですけど^^)
大切な本の大切な部分を大切に読み返す日々・・・なんて豊かな日々。いつかそんな老後に恵まれますように(願望)

そして、「読書の腕前」、感想を拝見してきました。
なんとなんと魅力的な本!
また読みたい本が増えてしまいました。
四季さんのところを訪問するたびにあれもこれもと読みたい本が増えてしまいます~。好きな本だけ読み返す日々はなかなかに遠いかもしれまいです~。

ぱせりさん、こんにちは~。
いや、読んでは忘れ、読んでは忘れ、してるのは、私もですよ!
もう自分のザル頭が悲しくなっちゃいます。
でもそれだけ再読の楽しみもあるということですし! 何度読んでも新鮮というのもある意味幸せなことかも?
…と、無意味に前向きな私ってば。(笑)
本当に大切な本だけに囲まれて、その本だけを読み返す日々、いつかきて欲しいですね。
そのためにも、今から本棚の中身は厳選していかなくちゃと思いつつ、なかなかうまくいかないのですが~。
まあ、今は自分の読書力を養う時期だから、と言い訳をしておきます。(笑)

「読書の腕前」は、すごいですよ! 特に1章。(しか覚えてません・笑)
ぱせりさんも、ぜひ読んでみてくださいね。^^

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