「天使の記憶」ナンシー・ヒューストン

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1957年5月のパリ。フルート奏者のラファエル・ルパージュのアパートを訪れたのは、ドイツからパリにやって来たばかりの20歳のサフィー。ラファエルが新聞に出した家政婦募集の広告を見てやって来たのです。会った途端、ラファエルはサフィーの現実に対する無関心な態度に魅了され、翌6月には2人は結婚。しかし1人息子のエミールが生まれても、サフィーの無関心さには変化がなかったのです。そんなある日、ラファエロのバス・フルートを修理に持って行ったサフィーは、そこで出会った楽器職人のアンドラーシュと突然激しい恋に落ちてしまい...。

第二次世界大戦が終結して12年という、まだまだ戦争の傷の生々しい時代に出会うことになった、3人の男女の物語。
ラファエルは、父親をドイツ人のせいで亡くしているフランス人。ハンガリー系ユダヤ人のアンドラーシュも、多くの血縁をナチスのせいで失っています。そしてドイツ人のサフィーの父は、ナチスの協力者。それだけでも十分すぎるほどなのに、サフィーは母親と一緒にロシア人兵士に陵辱された経験があって、そのために母を失っていて、ロシアに代表される共産主義者は忌み嫌うべき存在だというのに、アンドラーシュはアルジェリア戦争を支持す共産主義者。そしてこの物語の背景となるシャルル・ドゴール時代は、かつてドイツにやられたことを別の相手にやり返そうとしているかのように、フランスはアルジェリア人を大量に虐殺してるんです。本来なら、問答無用で憎み合ってもおかしくない3人なのに、惹かれあってしまうんですね。でも相手に惹かれるということは、その背景をも一緒に受け入れるということに他ならないわけで。
そんな重い愛が描かれていながらも、同時にとても静かで透明感のある作品でした。それにとても映像的。特にサフィーがアンドラーシュに恋した後は、それまでのモノクロームな画面がいきなりフルカラーに変わってしまったような鮮やかさがありました。いそいそと乳母車を押して楽器工房へと向かうサフィーの姿、アンドラーシュと散歩をするサフィーの姿などがとても鮮やかに印象に残ります。そしてそんな場面を眺めていると、ラファエルの奏でるフルートの音色や、アンドラーシュの工房での音楽が遠くから聞こえてくるという感じ... 美しい。

ちなみに原題「L'EMPREINTE DE L'ANGE」は、「天使の刻印」という意味だそうです。ユダヤ人には、赤ん坊が生まれる時に天使が鼻と唇の間に指をおいて天国での記憶を消し去るから、赤ん坊は純粋で無垢なまま地上に生れ落ちるのだという伝承があるのだとか。そんな風に無垢に生まれついたはずの人間がいつの間に無垢でなくなってしまうのだろう... というサフィーの言葉もとても印象に残りました。(新潮クレストブックス)

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