「いつか王子駅で」堀江敏幸

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「私」が昇り龍の刺青を背負う印鑑職人の正吉さんと知り合ったのは、この町に引っ越してきて半年ぐらい経ったある日のこと。偶然立ち寄った「かおり」という小さな居酒屋で声をかけられたのです。それ以来、「かおり」や風呂屋で一緒になると、なんとはない世間話をする間柄。しかしそんなある日、「かおり」で話しているうちにいつの間にか眠り込んでしまった「私」が目を覚ますと、隣に正吉さんの姿はありませんでした。一週間ほどかけて仕上げた実印を大切な人に届けるという話を聞いていた「私」は、椅子の足元に黄色い箱の入った紙の手提げ袋が置き忘れられているのを見て、慌てて都電の駅へと走ります。

先日読んだ「雪沼とその周辺」(感想)に続いて、堀江敏幸作品2作目です。雪沼は架空の場所だったんですけど、こちらは実在の場所が舞台。都電荒川線の走る小さな町を舞台にした物語です。学校で教えたり、実務翻訳をしているけれど、日々の生活としては不安定な生活を送っている「私」が主人公。
まず書かれているのは、ここでの暮らしで「私」が出会った正吉さんや古本屋の筧さん、「かおり」の女将、大家であり町工場を営んでいる米倉さん、その娘で、「私」が時々勉強を見てあげることになる咲ちゃんたちとのエピソード。その合間に、過去の様々な回想や現在のことが浮かんでは消えていきます。競馬のことや読んだ本のこと、その時に目に映る情景など。思い浮かぶままに書き綴られているという印象もあるんですが、きっと実際にはそうではないんでしょうね。この文章、やっぱり読んでるとなんだか落ち着きます~。とても穏やかな心持ちになってきます。特に書かれていなくても、それぞれの登場人物の背後にある、これまでの人生が確かに感じられるような気がしてくるのがいいのかな。ふいと姿を消してしまった正吉さんは、最後までもう現れることなく終わってしまうし、そういう意味では物語がきちんと閉じていないとも言えるんですけど、その不在の存在感はとても大きかったですしね。実は相当な文学的素養を持つ「私」も、どこか魅力的だったし。読んでいて気持ちの良い作品でした。実際に都電に乗って、王子駅の辺りを歩き回ってみたくなっちゃうな。(新潮文庫)


+既読の堀江敏幸作品の感想+
「雪沼とその周辺」堀江敏幸
「いつか王子駅で」堀江敏幸

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堀江 敏幸 「いつか王子駅で 」 各所で好評の堀江敏幸さん、初読みです。 数ある著作の中で「いつか王子駅で」を選んだのは、荒川の風景が表紙に... » Lire la suite

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四季さん、こんばんは!
堀江さん、私も気になっていて、四季さん記事を見て読んでみました。
ほんとに穏やかな気持ちになる小説でしたね~。
こういう風に、じっくりゆっくり読むのも、ちょっと久しぶりの経験だったかも。
登場人物の「手」も魅力的でした。
*トラバいたしました。

つなさん、こんにちは!
TBありがとうございます~。
先日つなさんの記事を見つけてTBさせていただこう!と思ったのに
なんかバタバタしてるうちに、時間が経ってしまいました。(^^ゞ
(TBさといえば、次の「死神の精度」もなんですが…)

ほんと、穏やかな気持ちになれるいい作品でしたよね。
堀江さんの本は2冊目ですが、2冊ともとても良かったので
ゆっくりと読みすすめようかなと思ってます。
(次から次へ、というのもあまり似合わない感じですよね? 笑)
またそちらにお伺いいたしますね。^^

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