「シナン」上下 夢枕獏

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オスマントルコ時代の著名な建築家・シナンは、1488年にトルコのカッパドキア地方の小さな村に生まれ、24歳の時にデヴシルメという少年徴集制度によってイスタンブールへ、オスマントルコを巨大な帝国としたスルタン、スレイマン大帝の下でなんと477もの建築作品を作ることになったという人物。キリスト教徒だったシナンが、信仰を変えてまでデヴシルメに志願したのは、イスタンブールに出て聖(アヤ)ソフィアをその眼で見てみたかったため。聖ソフィアはその当時でこそイスラムのジャーミー(モスク)となっていましたが、元は1千年前にキリスト教徒が建てた建物。村にいたキリスト教の神父から、聖ソフィアこそが人が造り出した最も神がよく見える場所だと聞いて以来、シナンはそれを自分の眼で確かめたいと思っていたのです。

トルコで最も偉大な建築家と呼ばれるシナンの一生を追った小説。元々トルコにはすごーく興味があるし、この小説もとても面白かったのだけれども... うーん、夢枕獏さんの小説を書くときの癖のようなものが気になった作品でもあったかな。それは小説を通して作者の存在が強く感じられてしまうということ。例えば「陰陽師」や「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」のような、日本もしくはそれに近い環境の小説の中では、それもまたいいと思うんですけど、こちらは舞台がオスマントルコですからねえ。なんだか舞台裏を見せられているようだったし、必要以上に作り物の部分を意識させられてしまって、いつもみたいにすんなり物語の中に入り込めなかったかな... それがちょっと残念でした。それに、歴史小説というのは作者がいかに人物を作り上げるかにかかっていると思っているんですけど、その辺りでも掘り下げ方が少し物足りなかったです。シナンとハサン、ザーティといった人物との友情はあるんですけど、例えばシナンの恋愛観なんかについては全く触れられていないですしね。スレイマンとロクセラーヌ、そしてイブラヒムやハサンの辺りは面白かっただけに、肝心のシナンについてももっと作りこんで欲しかったところ。...とは言っても、やっぱり読みやすかったし面白かったんですけどね。期待しすぎちゃったかな。あ、あとシナンの持ってる神の概念自体には私とかなり近いものを感じたんですが、聖ソフィアの不完全さとサン・マルコ寺院における神の不在についてはすごく意表を突かれて面白かったです。それに最後は感動的。そうそう、こういう物語の色気(?)みたいなのが欲しいんですよ~。(中公文庫)


+既読の夢枕獏作品の感想+
「陰陽師 龍笛の巻」夢枕獏
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」夢枕獏
「陰陽師 鳳凰ノ巻」夢枕獏
「『陰陽師』読本 平安の闇に、ようこそ」夢枕獏
「シナン」上下 夢枕獏
(Livreに「猫弾きのオルオラネ」「羊の宇宙」「大帝の剣」「陰陽師-付喪神ノ巻」「陰陽師-生成姫」「陰陽師-鳳凰の巻」の感想があります)

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夢枕獏「シナン」中央公論新社 タイトルの「シナン」は、オスマントルコ時代の建築家の名前。彼は、それまでのトルコ建築、あるいはイスラム建築の歴史を一変させた... » Lire la suite

Commentaires(2)

四季さん、こんばんは!
そうですねえ、私はかなり面白く読んじゃったのですが、シナンは神と対話しちゃうわけですしねえ。笑
確かに、恋愛観とかそういうのはないかも。
現世的なことは、他の登場人物たちが負ってくれていたのかな、とも思いました。

私の不満はただ一つ。
写真がついていれば良かったのにー!!、ということです~。笑

つなさん、こんにちは~。
あー、確かにそうなのかもしれませんね。>現世的なことは、他の登場人物たちが…
いや、別にシナンの恋愛模様が読みたかったわけではないんですけども(ほんとですよー・笑)
あまりに人間的な肉付けが薄いような気がしてしまって…
でも実際には、そういうのを超越した人間として描こうという意図だったのかもしれないですね。

確かに写真は欲しかった! 外側も内側も。思わず検索してしまいましたよ。
そしてやっぱり実物を見に行きたくなっちゃいますね~。私にも神が感じられるかな…?

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