「ホスローとシーリーン」ニザーミー

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年ごとに美しく賢く、そして強く育っていく、ホルムズド王の1人息子・ホスロー。ある晩、ホスローは不思議な夢を見ます。その夢で彼は、甘美なことこの上なき美女とシャブディーズ(闇夜)という俊足の黒馬、順正なる王座、そしてバールバドなる楽士を与えられることを約束されていました。お気に入りの側近・シャープールから、アルメニア女王の姪で月をも凌ぐ美しさをもつ乙女・シーリーンのことを聞いたホスローは、いても立ってもいられなくなり、シャープールにその美女を手に入れてくるよう命じることに。

先日「ペルシアの四つの物語」(感想)でも読んだ「ホスローとシーリーン」。あちらは抜粋版だったので、完全版も読んでみました。ペルシャのロマンス叙事詩人・ニザーミーの2作目に当たる作品。この物語のホスローは、6世紀末から7世紀初にかけて実在していたササン朝ペルシャのホスロー2世のことで、物語の前半はかなり史実に基づいているのだそう。この作品でアルメニアの王女とされているシーリーンに関しては、ギリシャの女奴隷であったとか侍女であったとか色んな説があるようですが。
大筋としては、この2人の恋物語。会う前からお互いに気になる存在で、初めて会った時から恋に落ちる2人なので、特に問題はないはずなんですが、シーリーンがホスローに王位についてくれなくちゃイヤと言ったり(その頃ペルシャでは反乱があって、ホスローはしばらく王位を追われていた)、結婚してくれなくちゃ深い関係にはならないわとか色々あって、すったもんだの紆余曲折となってます。ホスローは自国の反乱を収めるためにビザンチン帝国の皇帝の力を借りたものだから、その娘を正妃にしなくちゃいけなくなったり。

で、この作品、とにかく描写が凄いんです。美辞麗句のテンコモリ。たとえば、側近のシャープールが初めてシーリーンの話をした時。彼女が「月をも凌ぐ美しさ」というのはいいんですけど、それに続いて

ヴェールの下に冠をいただき、新月のように夜に映え、黒い瞳は闇の底にある生命の水さながら。なよやかな姿は白銀の棗の木、その木の頂で二人の黒人(下げ髪)が棗を摘んでおります。
この甘き唇の女人ーー棗の実さながらの彼女を思い出すだけで口には甘いつゆが満ちるほど。まばゆく輝く彼女の歯は真珠とも紛うばかり。その鮮かさは真珠貝を遥かに凌駕しますが、この歯をくるみこむ唇は艶やかな紅玉髄の色をしております。
両の捲髪はさながら円を描く輪縄で、それが、人という人の心を惹きつけます。緑なす黒髪は、バラの頬にうちかかり、捲髪から立ち上る芳香に、その水仙の瞳は夢見るように悩ましげ。彼女の眼は魔術師をも邪視をも呪文で封じてしまいましょう。
蜜のように甘い百の言葉を秘めているのか、彼女の唇は、魔術で人々の胸の火をさらに燃え立たせますが、爽やかに微笑むときの唇もまた魅力的で、塩は甘くないのに彼女の塩(魅力)は甘美なのです。

実際に抜き出してしまうと、ここはそれほどでもなかったような気もしてきますが...(汗)
この後も鼻が「銀の小刀」だとか(?)、「林檎を二つに割ったようなまろやかな頬」とか、「林檎の頤」、「レモンのような二重顎」(相当ふくよかなのか?)、「ルビーの唇」だとか、彼女の美しいうなじを見て「羚羊も恥らって首を垂れ、鹿は嘆きの涙で裳裾をぬらすほど」だとか、手を変え品を変え褒めまくり。作者のニザーミーがシーリーンを描く時のモデルとなったのは、彼自身の最初の妻だったそうで... きっと熱愛しすぎていて、いくら褒めても褒めたりなかったんですね。(笑)
しかもこの作品の訳は散文訳なんですけど、さすが元は叙事詩と思わせる言葉遊びも盛ん。引用した最後の部分も「爽やかに微笑むときの唇もまた魅力的(ナマック)で、塩(ナマック)は甘く(シーリーン)ないのに彼女の塩(ナマック)は甘美(シーリーン)なのです」といった具合。

話としては紆余曲折の末のハッピーエンドということで、特になんてことはないんですけど、そういった細部が面白いし、紆余曲折の過程で盛大な口喧嘩があったり(シーリーンの舌鋒は相当鋭いです)、ホスローの若い頃の行いが因果応報的に返ってきちゃったり、楽しめるポイントは色々ありました。一度結婚してしまえば、それまでの喧嘩は嘘みたいに、シーリーンはホスローの良き妻・良き理解者となっちゃうんですけどね。(東洋文庫)


+既読のニザーミー作品の感想+
「ペルシアの四つの物語」岡田恵美子編訳
「ホスローとシーリーン」ニザーミー
「ライラとマジュヌーン」ニザーミー

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