「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス

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由緒あるレイヴァン家の息子・ホールブライズが愛しているのは、ローズ家のこよなく美しい乙女・ホスティッジ。2人は夏至の夜に結婚式を挙げることになっていました。しかし春もまだ浅いある日のこと、乙女たちと共に海辺で海草を集めていたホスティッジは、海賊たちに攫われてしまったのです。ホールブライズは早速海辺へと向かい、そこにいた男がホスティッジの行方を知っていると知って、男の船で海賊たちの島へ。そして夢の中に出てきたホスティッジが、既にそこから「輝く平原の国」に向かったと言うのを聞いたホールブライズは、今度はその「輝く平原の国」を目指すことに...。

題名の「輝く平原の国」とは、「不死なるものたちの国」。その国は美しく平和で穏やかで、そこでは老人は若返って再び美しくなり、人々は過去を忘れ、死や老い、苦しみや悲しみを知らずに、喜びの中に幸せに暮らす... という、まさに理想郷。でもホスティッジを探しているホールブライズにとっては、そこは全然理想郷じゃないんですよね。探してるホスティッジが見つからないんですから。でもそれを抜きにしても、この理想郷はやけに胡散臭い...。最初は天国のことなのかなと思ったんですが、「輝く平原の国」の王は全然神様という感じではないし... 王はホスティッジのことなんて何も知らないし知ろうともしないし、それどころか、以前からホールブライズに恋焦がれている自分の娘の願いを叶えてやりたいなんて思ってるんです。全ての人間が幸せに暮らしているこの国で、王の娘だけが幸せではないというのもすごく変だし、他の住人たちが人間らしい感情をすっかり失ってるのも気持ち悪い。幸せに暮らす=人間らしさを失う、ではないはずなのに、みんなで幸せに暮らすために余計な感情を排除させられてしまったみたい。そして唯一まともなために誰からも助けが得られないホールブライズは、ホスティッジを探し続けるために、この理想郷を自力で脱出しなくちゃいけなくなります。
主人公が海を渡って異界へ、というこういった物語の形式に則って書かれているのは分かるのだけど、形式的にもどこか詰めが甘いような気がするし、物語としてもどこか中途半端。以前読んだ「世界のはての泉」の方が形式的にも物語的にもずっと美しかった気がするんですけど... と言いつつ、これはこれで私はすごく好きなんですけどね。ウォルター・クレインによる挿絵がても美しい1冊です。(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス

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Commentaires(2)

この作品が、扉であり鍵であるような気がします。
物語になってるけど、ほんとは明確な寓意があって、何らかの神秘思想を形にしたもののように思えます。
英文学の近代は、ブレイクからイエイツにいたる神秘主義の地下水脈があり、むしろそっちがメインストリームといえるくらい、力強い幹。
イエイツは直球ど真ん中の神秘主義者ですが、モリスのファンタジーを高く評価していました。
イエイツがほめるということは、神秘主義なんです、きっと★

この物語は、「不死の国」(竜宮城)に行って、戻ってくる話ですが、これが神秘思想に典型的なイニシエーションの型。
フリーメイソンだと「ロッジ」と呼ぶ場所で、そこでは死と生の区別がなく、時間は流れず永遠のうちに停滞し、対立するものが和合し、すべてが完全であり、名前のあるもの(個物)は存在せず、普遍的一般的な「一」なるものだけで成り立っている。
いわば、個々の商品は存在せず、「価値」という抽象的な一般性(永遠普遍のマネー)だけで成り立っている、完全無欠の富豪の世界。

この手の「永遠世界」と、われわれが暮らしている日常の半端な世界との関係や交渉を、あれやこれやと模索するのが神秘主義…ととりあえず、言ってみていいんでしょう。

モリスのこの作品の特徴は、永遠から出て行くことに力点が置かれていること。
楽園をみずから出て行くアダムであり、出エジプトでもある(こうやって、何でもかんでもつなげていくのが、神秘主義のやり口w)。
浦島太郎ともなぜか似ている(浦島太郎は、蘇民将来とつながっていて、本当に日本の古来の神秘思想が元にあるようなんですが)。
エデンを離れ、死すべきもの、名前のあるものになることを、自ら望む。天人五衰。

モリスの場合、表の顔は社会主義者ですから、またややこしいです。
ひとつの考えは、永遠界をマネーがマネーを生むような世界、地上界を個々の物によって価値を造形しようとする世界、と捉えてみること。
マネーという絶対的定義的に「価値」そのものをあらわすものがあるなら(実際はどんな通貨も危機があり、やがては廃れるので、永遠普遍の価値ではなく、お金持ちは株にしたり金にしたり資産の形態に悩むわけですが)、これを集めればいい。
それが資本家で、何が価値であるかを考える必要はなく、「儲かる」なら何をしてもかまわないし、特に何かを生み出したいわけではない。
これに対抗するのがアーツ・アンド・クラフツであり、みずからの手を通じて物を造形し、物を使用して、楽しみ、その「価値」を吟味する。
(でも、それが「自己満足」にすぎず、幻想でないとは言い切れない…ホスティッジを最初と同じようにずっと愛し続けることが、ほんとにできるだろうか?)
hostageは人質を意味する一般名で、「質草」の意味もあり(笑)、受け戻したのはいいけど、それによって物語は原理的に終了してしまいます。

これはひとつの「用法」ですが、神秘思想はいろんな形で現実とかかわっていて、
…というより、市場などの、現実と思っているものが、かなりの程度、神秘主義的思考の産物なんです。
価値に関わるものは、ことごとく神秘主義と表裏一体になると言ってもいいかもしれません。

この物語は、原理原則を典型的に書き連ねただけなので、いろいろ変更可能なプロトタイプ。
鍵であり扉であるのですが、フリーメイソンでは扉はかならず複数形で(doors…ロックバンドのドアーズはここから採られているそうです)、入り口はたくさん見つかるけれど、出口はないかもしれませんw
「ロッジ」は危険な世界で、師匠に先導してもらわないと迷って出られなくなるそうなのですが、たいていの師匠はたんに道に迷うことの先輩であり、迷路への誘惑者なんです☆彡

overQさん、こんにちは!
そうなんですよね、この作品には本当は明確な寓意があると思うんですが
どうもその寓意を私がきちんと読み取れてないせいか、中途半端な気がしてしまって…

あー、あの不死の国は、フリーメイソンでも出てくるような場所なんですか。
>死と生の区別がなく、時間は流れず永遠のうちに停滞し、対立するものが和合し、
この辺りは、まさにあの国の状態ですね。
あの怠惰ぶりというか無気力ぶりを見てると、とても魅力的な場所とは思えないのですが。

モリスのこの作品では、確かに出て行くことに力点が置かれていますね。
創世記といえば、ミルトン(モリスがミルトンを好んでいたのかどうかは疑問ですが)の
「失楽園」で最後に出ていくアダムも、どことなく嬉しそうだったような。
ああ、浦島太郎にも繋がりますかー。中国の民話にもこの系統の話が沢山ありますね。
というか、このパターンは世界中にありそうですが
モリスが直接当たっていたとすれば、ケルト系の伝承かしら。
ただね、そういった作品だと、もっとバランスがいいと思うんですよ。
自ら望んだにせよそうでないにせよ、楽園を出ざるを得なかった主人公がいて
一旦出てしまった楽園にはもう戻れないという現実を突きつけられますよね。
この作品には、それがあまりないからなのかなあ…
それとも、あまりに魅力がなくて、捨てて当然のように思えてしまう楽園だからかなあ…
どこか違和感が残るんです。それが決定的に何なのかはよく分からないんですが。
(と書きながらも、それが本題なのかどうか自分で分かってなかったりするんですが・汗)

アーツ・アンド・クラフツ運動にはずっと良いイメージを持っていたし
この頃に作られた手工芸品には、実際にとても好きなものが多いのですが
モリスの一連の作品を読んでいて、その理解にどうもブレがあったような気もしています。
それこそ「自己満足」による「幻想」を感じてしまったせいなのかも?

いずれにせよ、私の場合、神秘思想や神秘主義ををあまり(というか全然)
よく分かってないのが一番の問題なのかも…
この辺りのことを分かりやすく書いてる本とかありますか?
もしご存知なら、教えてくださーい。
でもそれがある程度理解できたからといって、出口があるものでもなさそうだし…
一体どうすればいいんでしょうね?(笑)

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