「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス

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バーダロンは、幼い頃に魔の森の魔女にさらわれて、奴隷として育てられた少女。日々の忙しい仕事をこなしながら、時間ができると湖や森で過ごしていました。そして17歳になった夏、美しく成長したバーダロンは森のオークの木の下で見知らぬ女性に出会ったのです。鏡を覗いたことのないバーダロンには分からないものの、その女性・ハバンディアはバーダロンに瓜二つ。彼女は森に住む聖女でした。2人はすぐに親しくなり、バーダロンはやがてハバンディアに授かった知恵により、魔女の小船に乗って魔女の元から逃げ出すことになります。

「ジョン・ボールの夢」「ユートピアだより」は、ファンタジーながらも社会主義的思想が色濃く出てた作品なんですが、これは「世界のはての泉」や「輝く平原の物語」系列の中世風ロマンス。やっぱりこういう作品が好きだなあ。話の筋書き云々というより、この世界の雰囲気がほんと好きなんですよね。魔女の元を逃げ出したバーダロンが、「無為豊穣の島」「老若の島」「女王の島」「王の島」「無の島」と魔法の小船で巡る不思議な島々の様子は、まるで「ケルトの古歌『ブランの航海』序説」(感想)にも載っているようなケルトの古い航海譚のよう... そしてたどり着く「探求の城」は、アーサー王物語の世界のよう。ウィリアム・モリスがこの辺りの作品を読んでないとはまず考えられないので、おそらくその辺りを踏まえてるんでしょう。
でも、それ以外には不思議な部分が多々目につきました。まず、バーダロンは魔の森の魔女の元で奴隷として育てられてて、その生活をすごく嫌がってるんですけど、「奴隷」という言葉から想像するような生活ぶりとは思えないんですよね。魔女はバーダロンをたっぷり食べさせてるし、酷く折檻することもないようだし、バーダロンの仕事というのは森の中で生きていくために必要な日々の基本的な仕事みたい。バーダロン自身、かなりの自由時間を持っているようです。もちろん魔女が邪悪で、いずれ邪悪な目的に利用されるだろうというだけでも嫌う理由としては十分なんですけど(自分が幼い頃に母親の元から攫われたというのは、バーダロンにとってさほど重要な問題でないらしい)、その邪悪な目的というのも特に具体例が挙げられてるわけじゃないので、魔女の言いなりに嫁がされる程度のことのように思えるし。(それが嫌な相手だったら、もちろんものすごく嫌なことなんですが) それと、魔女の元から逃げ出してたどり着いた無為豊穣の島で、囚われている3人の貴婦人に出会うんですが、その3人の恋人たちを探して連れて来て助ける約束をするのはいいんですけど... その3人の恋人たちに実際に会えた時に3人が3人ともバーダロンに一目惚れしちゃうんです。最初の2人はそれでも流せる程度なんですけど、一番親切にしてくれた貴婦人の恋人とは決定的に両思い。いくらバーダロンが世間知らずだからって、これはマズイでしょー。しかも城中の男たちが皆揃いも揃ってバーダロンの美貌に心を奪われてしまうんです。神に純潔を誓っているはずの司祭までもが。それをバーダロンは何気に利用してたりして... 美人だったら何でもアリなのかーっ。

基本的には中世来の物語の形式に則ってるのに、そこから意図的に外されたらしい部分もすごく目につく作品。ものすごーく楽しめたし、こういう作品は大好きなんですけど、つきつめて考え始めると不思議な部分もいっぱい。きっと私には読み取りきれてない部分があるんでしょうけど... 誰か解説プリーズ。(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス
「アイスランドへの旅」ウィリアム・モリス

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Commentaires(2)

「輝く平原」では神秘主義のことを書いたのですが、こちらでは打って変わって、下世話な問題について触れねばなりませぬ。
どれくらい下世話かというと、ワイドショーの芸能人スキャンダル連日トップニュースのレベルです☆

まず、モリスの奥様ジェーン。
ttp://en.wikipedia.org/wiki/Jane_Burden

そう。あのロセッティの絵にあまた登場する、夢見るようなハイパー美女。
彼女がモリスの妻ジェーン。(「モリスの妻ジェーン」と書くとフェミニズムの人に怒られるらしいのですが…)

夢見るような天界の乙女…という風情ですが、もう、当然、三角関係ですわ…それも、ぐちょぐちょ泥々メラメラの…。
この話を知ってしまうと、ウィリアム・モリスについてのイメージが一変してしまいますから、気をつけて読んでくださいね(* ^ー゚)ノ

そもそもロセッティ君が16歳のジェーンを見つけてモデルにする。
ロセッティという人はたいへん困った人で、絵を描く時は、モデルに恋する。
恋すれば、その女性の美は、ダンテにおけるベアトリーチェのように絶対のもの。
天界に通じる圧倒的荘厳的美となり、そのあふれんばかりの妄想は、実際にあふれ出て、まわりの人々に感染するんです。
モデルはもちろん、まわりの男たちもみんな、虜になってしまう。

まわりの男たち。
モリスもその一人ですが、いわゆるラファエル前派の面々。
彼らはギルドを想定しながら、「商会」=生産販売共同体を作っていく。
そして、この集まりに近づいた女たち、妻や姉妹は、ロセッティ君のモデルになっていく。

その結果、ロセッティのまわりで、女たちは次々、発狂、自殺、病弱、中毒、流産…と、ものすごいことになっていきます。

16歳で、ダンテ・ガブリエル・ロセッティ氏のモデルに採用されたジェーン。
馬丁の娘で、ジプシーの血が流れていたとも。両親は文盲だそうです。
ロセッティには当時、愛人がいて、ジェーンは放置され、ま、とりあえず、18歳でモリスと結ばれる。
モリスの死後、ジェーンは、「モリスには一度も男として愛情を感じたことはない」と断定していますから。

そんな結婚生活がうまくいくはずもなく、読書の習慣すらないようなジェーンに、いらちのモリスは絶えず当り散らす。
モリスからすれば、いつもどこか遠くを見つめているような、結婚しているのに「独りきり(=バーダロン)」なジェーンに耐えられなかったのでしょう。

で、ロセッティ君のほうで、愛人たちが発狂したり自殺したりして、ロセッティ当人も、家でシマウマとか飼うような発狂生活に入って、ジェーンにヨリを戻す機会が訪れる。
そして、子供たちを連れて、ロセッティと同棲生活を始めてしまう。。。うう。

芸能リポーターの思うツボのような、すさまじい世界が展開します。

ラファエル前派というのが、結局、ロセッティ画伯の異様な妄想…騎士道やアーサー王伝説からの過剰な思い込みや、女性を人間ではなく神として崇拝する性癖…に発していて、しかもロセッティの絵は実際すごいものだし、感染力はいまだあるとさえいえる代物。
まわりの人々は、男も女も、みんな巻きぞえになっていく。。

若いころ、モリスやロセッティたちは、レッドハウスという邸宅の内装をおこなう。
これが彼ら「ラファエル前派兄弟団」の始まりで、色とりどりの騎士たちが集って、アーサー王伝説に基づいた、室内装飾を施工した。
ロセッティの描いたアーサー王の壁画は、漆喰の技術を知らなかったせいで、数ヶ月後にははがれ落ちてしまう。
モリスは、特注の騎士の鎧を身にまとい、それが小さすぎて、出られなくなる。
…異様なまでに、象徴的な出来事。。

ロセッティは魔術師であり、みんなを魔法で魅了した。当人自身が、いちばん魔法の毒にやられていたのですが。

モリスの人生は、ロセッティの呪縛からいかに脱出するか、ということに尽きるのかもしれません。
「不思議なみずうみの島々」は、その努力の総決算…と見ることもできるはず。
自分の実人生を物語に仮託して、再話している。モリス自身は、司教とか、家主の親方に近い…そして、それを客観的に振り返ることができている。
ジェーンはこの物語を読んではいないでしょう。
バーダロンはジェーンがモデルですが、もはや実在のジェーンには投影されておらず、むしろモリス自身がのりうつることのできたもの…とみるべきかもしれない。

…と長々と書きましたが、この話、やっぱり面白くて。そして下世話。。
始めて知ったとき、愕然としました。そういうことだったのか。。
もはや二度と、モリスやロセッティの作品は、このドロドロぐちょぐちょを抜きには、考えることができなくなってしまいました。。

ジェーンも何とも難しい人生を生きた女、彼女には選択肢がほとんどなかった。モリスやロセッティに会わなければ、貧しい名もない人生を送ったでしょう。
イギリスではよく知られた事実で、「運命の女」「魔性の女」といわれ、逆にフェミニズム的な興味も抱かれたりするのですが、ほんとはそんなに特別な人じゃなかったような気がします。
バーナード・ショーは、「平凡な女でしたよ」と言ってる。バーナード・ショーは、魔法にかからない体質なので、実際、そうだったんじゃないでしょうか。
みんなロセッティの視点で彼女を見ている、いまだにw

モリスは、ロセッティ=ダンテな絶対的荘厳な美に対して、14世紀のギルド職人の、名もなき平凡な日用の美を見出そうとしたんだと思います。
自分の手で作り、自分の手で消費する、品々の、美。
うまくいったかなあ、どうかなあ。。

overQさん、こんにちは!
ウィリアム・モリスとその奥さんとロセッティの三角関係に関しては
私もどこかでちらっと読んだことがあるんですけど
overQさんが書いて下さったことを読んで、私が知っていたのは
せいぜい電車の吊り広告で週刊誌の見出しを見る程度だったということが分かりました!
これほどまでのドロドロの話があったとは知りませんでしたよー。
ええと、そもそもはモリスに問題があったというよりも、ロセッティがぐちょぐちょの人だったということですね。(笑)
世間一般の芸術家というイメージを地でいってた人なんだなあ。

>天界に通じる圧倒的荘厳的美となり、そのあふれんばかりの妄想は、実際にあふれ出て、まわりの人々に感染するんです。

この辺りはまあ芸術家としていいかもしれませんが…

>その結果、ロセッティのまわりで、女たちは次々、発狂、自殺、病弱、中毒、流産…と、ものすごいことになっていきます。

これがいかんですね。いくら凄い絵を描いているとはいえ、なんてはた迷惑な!

あのバーダロンのモデルは、ジェーンだったのですか。
そして、この作品自体がモリスの実人生を反映したものだったのですね。
あの司祭や親方は、モリス自身だったのかあ。
そうかー、それを知ると、この作品もかなり納得できる気がしてきますね。

そしてジェーンが意外と普通の女性だったというのも
そう考えると本当にありそうな気がしてきます。
でも実際、私もロセッティの絵を見てしまうと、その視点で見てしまうし…
…だって、まさに「夢見るような天界の乙女」なんですもん。
バーナード・ショーだけが魔法にかからない体質だったというのが面白いですね。

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