「兎とよばれた女」矢川澄子

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196x年秋の夜更け。権田原から外苑の並木道にそって車を走らせていた男は、行く手のヘッドライトの明るみの中におぼろなすがたが浮かび上がるのを見かけます。それはスウェーターもスラックスも白ずくめの小さな後ろ姿。そしてその姿は宙に浮かんでいたのです。濃い霧のために一瞬でその姿を見失い悔やむ男。しかしその時、その白ずくめの姿をした女が、男の車に乗り込んできたのです。

不思議な女の語る不思議な物語。でもすごく自伝的な作品なんですね。人妻だという彼女が語るかつての「主人」との話は、矢川澄子さんが結婚していた澁澤龍彦氏のことに重なります。私はこのご夫婦のことについては全くといっていいほど知らないんですけど、それでも読み始めてすぐにピンと来たほど。夫婦のやりとりの1つ1つに納得してしまう...。その中でも特に分かる気がしたのは、「主人」が子供を欲しがらないというくだりですね。子供に妻を奪られないために、妻をひとり占めしておくために、「いっそのこと、ぼくが子供になってしまおう。」と言う「主人」。時には夫と妻、時には子と母、そして時には兄と妹を演じながら、幸せな「おうちごっこ」に明け暮れる夫婦。そしてそんな生活に徐々に疑問を感じるようになりつつも、「主人」のことが好きで堪らなかったという「妻」の思い。
この作品に登場する人妻の女、そして「神さま」と1つの家に住んでいる兎は、明らかに矢川澄子さんご本人。「かぐや姫」についてのノートを書いたのは誰なのでしょう。それも矢川澄子さん? そしてそのノートの中で考察されている「かぐや姫」と、オデュッセウスの妻・ペネロペイアもまた矢川澄子さんなのでしょうか。入れ子構造になっているだけでなくて、捩れて螺旋になっているような物語なんですが、ただ伝わってくるのは、「女」である矢川澄子さんの思い。あまりに正直な気持ちの発露に、読んでいるこちらまで痛くなってしまいます...。(ちくま文庫)


+既読の矢川澄子作品の感想+
「わたしのメルヘン散歩」矢川澄子
「兎とよばれた女」矢川澄子

+既読の矢川澄子翻訳作品の感想+
「七つの人形の恋物語」「スノーグース」ポール・ギャリコ
「トンデモネズミ大活躍」「ほんものの魔法使」ポール・ギャリコ
「小鳥たち」アナイス・ニン
「フィオリモンド姫の首かざり」ド・モーガン
「風の妖精たち」「針さしの物語」ド・モーガン
「ザ・ロンリー」ポール・ギャリコ
「「きよしこの夜」が生まれた日」ポール・ギャリコ
「ゴッケル物語」クレメンス・ブレンターノ
「妖精の国で」W.アリンガム&リチャード・ドイル
「クリスチナ・ロセッティ詩抄」クリスチナ・ロセッティ
「タイコたたきの夢」ライナー・チムニク

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