「悪魔の霊酒」上下 ホフマン

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フランツィスクスは、父が犯した呪わしい悪行を償うために両親が聖地リンデに巡礼の旅に出ていた時にできた子供。苦行で身体を損なっていた父は、フランツが産まれた丁度その瞬間に他界。その後、母はリンデの修道院で出会った巡礼の言葉に感銘を受け、フランツをシトー会の女子修道院の院長に預けることになります。司祭について様々なことを学んだフランツは、16歳の時に隣町のカプチン会修道院に移って更に勉強し、やがてメダルドゥスという修道名を得ることに。そして、修道院に入って5年が過ぎた時、老齢のキュリルスの代わりに聖遺物の管理をすることになります。ほとんどの聖遺物は偽物。しかしその中には、聖アントニウスを誘惑するために悪魔が使ったという霊液(エリクシル)も入っており、キュリルスはこの霊酒の入った小函だけは決して気軽に開けないようにと注意するのですが...。

「つい、うっかり」「悪魔の霊酒」を口にしてしまったことから、主人公が様々な出来事に巻き込まれていくという物語。先日のたらいまわし企画第46回「つい、うっかり」の時に、overQさんが出してらした本です。(記事) 作者のE.T.A.ホフマンは「くるみ割り人形」を書いた人。以前これを読んだ時に、バレエの可愛らしさとはまた全然違う薄ら怖さにびっくりして、他の作品も読みたいなあと思ってたんです。でもなかなか手に入る本がないんですよね。こんな本が出ていたとは知りませんでしたー。

奇妙な類似や繰り返しが印象に残る幻想的な作品。登場人物に関してもそうなんですけど、ここで起きる出来事も全てが類似と繰り返し... つまりこの主人公にまつわる全ての出来事は、実はその場限りで起きたことではないんですね。最後には5代にわたる大河小説だったということが判明しますし。(このことは巻頭の登場人物表からも分かっちゃうんですが) そう考えると、主人公が悪魔の霊酒を飲んだのは、実は決して偶然ではなかったわけで... 「つい、うっかり」のように見えて、実は巧妙に仕組まれた罠にはまっていたんですねえ。そんなことをするのは、やっぱり悪魔? それが彼の運命(宿命)だった、なんて言い方もできるんですが、それにしては巧妙すぎるんです。読んでいると、まるで悪魔が本当にいて「悪魔の霊酒」が本物だったことを証明されてしまったような気になります。
でもとてもキリスト教色の濃い物語なんですが、何かしら起きる出来事が必ず後々に直接的に影響してるのを見てると、「因果応報」なんて仏教的な言葉が浮かんでしまうー。「因果応報」は、前世の行いが今世に影響してるということなので、ちょっと違うんですけどね。ぴったりの言葉は思い浮かびません... 思い浮かんだのは、せいぜい「業(ごう)」ぐらい。
というのはともかくとして、ものすごく緻密に出来上がった物語でした。全てが夢の中のことみたいなのに、妙に現実的でもあって、最終的に綺麗に収まってしまうのはミステリ的? いやあ、面白かったなあ。(ちくま文庫)


+既読のホフマン作品の感想+
「クルミわりとネズミの王さま」ホフマン
「悪魔の霊酒」上下 ホフマン
「黄金の壷」「スキュデリー嬢」 ホフマン
「ホフマン短篇集」ホフマン
「黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ」ホフマン

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Commentaires(2)

ホフマンは、創土社から全集が出てて、この文庫版も全集版と同じ訳者によるもの。
訳者の深田甫先生は、個人で全集訳をおこなっていて、全集刊行からすでに37年が経過していますが、いまだ完結していません(笑)

ドイツだと、ホフマンはゲーテの次くらいにテキストが充実してて、文学史的に巨大な影響をあたえている存在のようです。
ホラーとか幻想ものを書く作家で、ホフマンの影響を受けてない人はいないといっていいみたい。
神秘主義やオカルトではマストアイテムですね。その手の分野では王様です。
あと、フロイトはホフマンなしにはありえないということも、わかってきました。

ホフマンは、くるみ割り人形に出てくるような幻覚が、ほんとに見えてしまう人だったようです。
だから若いころは、自分が精神病になるんじゃないかと恐れてたらしい。
で、幻覚を冷静に観察・分析する…ということをやっていくうち、小説や音楽を生み出すんですが、それはもうほとんど精神分析を先取りしています。

神(悪魔)は、直接語るんじゃなくて、象徴や偶然を通じて、「つい、うっかり」人に語りかける。
精神分析だと、欲望(無意識=神の声)は直接表現されず、別なものにさりげなく偽装されて、あらわれる…という理屈になってます。
同じ運命が反復するというのも、同じ言い間違いやミスを繰り返してしまうのが、偶然なんかじゃなく、じつは無意識からの強力なメッセージなんだという、精神分析の理論とつながってるし。
フロイトはそうとうホフマンからパクっています(゚ー゚;

国書刊行会から「ドイツロマン派全集」という妖しいシリーズが出てて、ホフマン的な作家がむしろドイツでは…というより、文学というものでは、主流なんだという気がしてきます。
カントからグリム兄弟にいたる幅広い文脈で、「真理が直接ではなく、間接的に(象徴を通じて)表現されたものが、この世界だ」というような考え方が見られます。

霊酒=エリクシールは、卑金属を黄金に錬成する妙薬で、賢者の石と同じもの。
たしかにこの作品では、悪魔的な業をもった転生が、最後は豪快なやりかたで黄金に至る。
あの終わり方の力技は、すごいというか、あぜんとするというか、わけがわからないものを見せられた感じです(^▽^)

overQさん、こんにちは。
ホフマンの全集があったんですか!
創土社というのが、いかにもそれっぽい感じですね。
しかし37年も経つのに未だ完結していないというのがすごいです…
それは作品がそれだけ多いというのもあるんでしょうけど
それだけ難物だったりするのでしょうか…。
全集と同じ訳者さんでちくま文庫から出たということは、
まだ他の作品もちくま文庫で出る可能性があるんですかね? 出るといいなあ。
「カロ風幻想作品集」が、とても気になってるんです。
1つ前の記事に書いた「夜のガスパール」は副題が「レンブラント、カロ風幻想曲」で
どうやらホフマンの影響を受けてるようなので。
…と思ったら、やっぱり幻想系の作家さんはホフマンの影響下にあったんですね!
そうか、王様だったのですかー。それは知らなかったです。
まず押さえておくべきだった作家さんだったのですね。(私の場合は特に)
きっと音楽の方でもかなり影響を与えてるんでしょうね。
シューマンの「クライスレリアーナ」なんて例もあるし…

ドイツロマン派全集も気になります。
でもまずはホフマンから、でしょうか。色々読んでみたいです。
ドイツの比較的新しいファンタジーはあまり好みではないかもと思っていたのですが
この辺りだと相当楽しめそうです。
あ、この辺りを押さえておくと、新しいファンタジーも楽しめるようになるのかしら。
…幻想が実際に見えていたというのにもびっくりしてしまいますが
見えている幻覚を自分で冷静に観察して分析してしまうというのもスゴイですね。
でもだからこそ、王様の風格なんですね。

神の見えざる手… となるともっと経済的な言葉になってしまいますが
それが働いていたとしか言いようのないものでしたね。>メダルドゥス他の運命
神も悪魔も、ヤヌスのような感じで1つの存在の2つの面なんだろうな…
フロイトや精神分析が分かってると、さらに深く理解できるんですね。

感想は全然まとまらないままアップしてしまったんですが…
というか、このコメントのお返事も全然まとまらないままなんですが…
圧倒的な作品でしたね。いや、ほんと面白かったです。

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