「石さまざま」上下 アーダルベルト・シュティフター

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父の生家の前にあった大きな八角形の石に座っていた「私」は、車軸用の油を売りに来ていたアンドレーアスじいさんに足に油を塗ってもらい、嬉しいような落ち着かないような気持ちのまま母のところへ。しかし綺麗に洗われ磨かれたばかりの床に油の跡がつき、家の中は大騒ぎになります。泣くことすらできないでいた「私」に話し掛けたのは常日頃から優しく寛大だった祖父。祖父は「私」の話を聞くと一緒に隣村へと行くことにして、歩きながらかつてこの土地で起きた出来事を物語ります... という「花崗岩」他、全6編。

「石さまざま」の全編が読める新訳版。以前岩波文庫の「水晶 他三篇 石さまざま」を読んでるので、6編中4編は再読。でもやっぱりいいなあ、と序文からまたじっくりと読んでしまいました。作品ももちろんいいんですけど、この序文が本当に素敵なんです。「かつて私はこう言われたことがある。私が描くのは小さなものばかりで、登場人物たちも、いつもありふれた人間ばかりだと。」という言葉から始まってるんですが、そんな風に批評されたシュティフターの自分の作品に対する姿勢がよく表れていて、すごく好き。シュティフターが描くものは、まず美しくも恐ろしい大きな自然と、その自然と共に暮らす普通の人々なんですよね。もちろん時には全然違うものを描いた物語もあるんですが、根っこの部分は同じ。波乱に満ちたドラマティックな人生とは対極にあるような、ごく普通の日常の積み重ね。
シュティフターは、外的な自然に対して、人間の心を内的な自然と捉えていたようです。自然における「大気の流れ、水のせせらぎ、穀物の成長、海のうねり、大地の緑、空の輝き、星のまたたき」を偉大なものと考え、人間の中の「公正、素朴、克己、分別、自分の領域での立派な働き、美への感嘆。そういったものに満ちた人生が、晴れやかで落ち着いた死をもって終わるとき、私はそれを偉大なものと見なす」と書いています。雷雨や稲妻、嵐、火山の噴火、大地震といったものの方が人目を引くし目立ちやすいけれども、シュティフターにとっては、それらはむしろ小さな現象に過ぎないんですね。同じように、怒りや復讐心、破壊的な精神といった人間の感情の動きも小さな現象。そういうのをじっくりと読んでいると、なるほどなあと思うし、シュティフターの作品の良さが一層見えてくるような気が。

自分が子供の頃好きだったもの、今も好きなものについてもっと気軽に語った「はじめに」もいいし、そしてやっぱり作品も! 訳してらっしゃる方が違うので、また少し印象が違ったところもあるんですが、まるで絵画を見ているような気がしてくる美しくて力強い自然描写は、作家であると同時に画家でもあったシュティフターの特質が良く表れてますね。特に「水晶」での青すぎるほど青い洞穴の場面、その後子供たちが岩室から見上げる夜空の描写は、やっぱり本当に素敵でした♪(松籟社)


+既読のシュティフター作品の感想+
「水晶 他三篇 石さまざま」シュティフター
「森の小道・二人の姉妹」シュティフター
「晩夏」上下 シュティフター
「ナレンブルク 運命に弄ばれた人々の城」A.シュティフター
「石さまざま」上下 アーダルベルト・シュティフター
「森ゆく人」アーダルベルト・シュティフター
「書き込みのある樅の木」アーダルベルト・シュティフター

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Commentaires(4)

ああ、わかる、わかる・・・わかりすぎりほどわかる!
四季さん、こんにちは^^
四季さんの書かれる感想が身にしみて
判るほどに成長できました(´-`).。oO(・・・・・)
続けていればなにがしかの結果は得られるのかあとちょっと感慨深いです。
それにしてもわたくしは晩夏を読んでいるだけですが(あと少し)うん、このシュティフターの描くものは四季さんのイメージにぴったりの世界観だなあと思いました。穏やかで美しいものに満ちていて、でもそれは何か特別なことではなくて身の回りのことに気づきを持てる繊細な感性を持っている人こそが暮らしている世界なんだなあと気づけて。
本て自分が見ているはずのもの・・・しかしそれはただたんに網膜に映っていただけで意識はできていなかったものに対しての目を再度開かせてくれるんだなあと晩夏を読んでいて思わせられます。
僕は今晩夏ごっこ(?)をして遊んでいます。
昨日は古い寺のお堂を見に行ってきました。けっこう楽しかったです。
思い込みで人は見えているはずのものが見えていないということもあるのだけれども、たとえば本を読んで気づきがあって心が変化してはじめて見えてくるものもあるのだなあと思うと心と肉体の関係もこれまた面白いなあとシュティフターを読んでいて得た感想です。
シュティフター、ご紹介して頂きましてありがとうございました^^

kyokyomさん、こんにちは~。
えっと、こんなのでいいのでしょうか…
と、申し訳なくなってしまうような感想なんですけど
(何というか、なんだか「序文」の紹介記事という感じなので)
しみじみ分かって下さって嬉しいです。ありがとうございます♪
シュティフター、いいでしょう?
「晩夏」、楽しんで読まれてるようで、嬉しい!
そうなんです、この世界なんですよ、シュティフターの描いているのは。
そしてこの本の「序文」で言ってるのも、そのことなんです。
kyokyomさんも、ぜひぜひこの序文を読んでみてくださ~い。
私の感想を介するよりも、沁みこんでくるように感じられるのではないかと思います。^^

でもkyokyomさんはいつも謙遜なさってますけど
私よりも、ずっと深く受け止めてらっしゃるなあって思いますよ!
私はほとんど感覚的に受け止めてるだけなので…
kyokyomさんのように深く考えてらっしゃる方を見るととても反省します…

でもほんと、本ってそもそもは文字がただ並んでいるだけのはずなのに
そこに様々な意味合いが含まれていて、そこに色んなことを感じることができて
世界が改めて目の前に開かれていくんだからすごいですよね。
しかもその開かれる世界は、本の中でけのことに留まらないわけで…
シュティフターでそれに出会われたというのが、とても嬉しいです♪

四季さん、たびたびすみません、また・・・来てしまいました。
ほんとはひつこいかなあと思いつつ危惧しつつでもまた書かせて下さいまし。。

心の底から楽しいんでいる様子がまわりに伝わってくるように読める方がいらして、それはその方の人間性に触れえてまたあらたな読書の世界への扉を開ける人が出てくるのだと思います。僕も最近やっと読書を楽しめるようになったのは、四季さんのように純粋に楽しめている方が楽しい光線を四方にふりまいていらして、その楽しんでいる様子から、それだけ本の世界は素晴らしいものなんだと予感できたし信じられたから・・・だから読書を続けてこれました。
おそらく僕のブログを読んで本を読みたいと感じる人っていないと思います。
でも四季さんのブログにはそういう人は何人もいると思います。僕もその一人です。
深い浅いは自分では判断できないのですが、より純粋に楽しんでおられる方の存在の方がはるかに、深いよりも高いよりも鋭いよりもステキなことだと思っています。
深いというのは読みの解釈によって知れると思うのですが、でもそういうのは自分の思考の道具として本を利用している場合もよく見受けられるように思います。
僕自身そういうのに躍らせられてやたらとうらやんでいた時期もありましたが、頭が良くて鋭い読みを展開するひとはゲップがでるくらいこの世にいて(そしてそれらの解釈というのはあぶくのように消えていって)も、純粋に本を愛しているような人はそれほどいないと知りました。
そしてそのような付き合い方をされている四季さんのブログを好きになれたことは、密かに自らの感性のあり方を誇れるものだと喜んでいます。普段はやたらとネガティブなのですが^^
あの・・お手数ですがこのコメントは読んで頂けたらどうか削除なさって下さいませ。
ほんとはメールで送らせて頂きたかったのですが、わたくしも普段ブログで言いたい放題言っていても・・・そこまで馬鹿なんじゃないというアピールを(誰に?^^)
では、失礼いたしました!

kyokyomさん、こんにちはー。
全然しつこくなんてないですよ! それどころか大歓迎です♪
しかも私のことをそんな風に仰っていただけるとは…
いや、ほんと、本を楽しむことにかけては自信があるんですけど、それだけなので!
そんな風に捉えていただいてたなんて、嬉しいです~。
そうか、じゃあ深くなくても鋭くなくても、私はこのままでいいんですね!
深く読めないから、鋭い意見を吐けないからって、別に落ち込んだりはしないんですが(だから成長しないのか・笑)
やっぱり時々考えてしまうんですよね。overQさんとかkotaさんとか、すごいですもん。
私がどれだけ本を読んだって、あんな風にはなれないし!
でも私は私なんですものね。無理に背伸びをしようとしてもできないし。

以前、overQさんに、本を愛してるし本にも愛されてる気がしますって言って頂いたことがあるんです。
言って下さったoverQさんは忘れてらっしゃるかもしれませんが~。(笑)
その言葉を宝物のように大事にしている私です。(^^ゞ

あ、削除しなくちゃダメですか?
私としては、問題なければ置いておきたいんですけど… 大丈夫ですよね?(笑)

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