「サーカス象に水を」サラ・グルーエン

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元獣医で現在90歳、もしくは93歳のジェイコブ・ヤンコフスキは、今は老人ホームに暮らす日々。そんなある日その町にサーカスがやってきたことから、昔のことを思い出します。それは23歳のジェイコブがコーネル大学で獣医になるための勉強をしていた時のこと。両親を突然事故で失い、全財産が銀行に取り上げられることになって帰る場所もなくなったジェイコブは、最後の試験を放棄して町外れを歩いていた時に、咄嗟にやって来た列車に乗り込んだのです。それは「地上最大のベンジーニ・ブラザーズ・サーカス」の列車。ジェイコブはしばらくそのサーカスに同行して、動物たちの面倒をみることに。

聖月さんに教えていただいた作品。「抱いて眠りたいような、そんな後味でした」と仰ってたんですが、その言葉に納得! ものすごく良かったです~。
ええと、殺人現場のプロローグから始まるのでミステリ小説とも言えそうなんですが、これはミステリという枠に押し込めたくない作品ですね。主人公は、90歳(もしくは93歳)のジェイコブ。自分の記憶の不確かさを不安に思いながらも精神的に自立した1人の人間でいたいと思っている誇り高い男性で、幼児食のような日々の食事にも、親切なようでいて本人の意志を無視している介護にも我慢ならず、ついつい癇癪を起こしてしまいます。そんな現在の物語もいいんですけど、この作品のメインは、70年前のサーカスで暮らした濃密な4ヶ月間の物語。
サーカスという世界にいる人々は、名門大学の獣医学部では到底会えないような個性的な面々。馬のショーをしている美しいマーリーナ、気分の変わりやすい演技主任兼動物監督のオーガスト、独裁的なトップのアンクル・アル、気難しいけれど教養のあるピエロのキンコー(ウォルター)、飛び込んできたジェイコブを列車から放り出さなかった、キャメルやグレイディといった気のいい裏方の男たち。純真なジェイコブは、猥雑なサーカスの中で揉まれて大きく成長することになるんです。今まで見たことのない世界に驚き、次第に適応しながらも、それでも決して擦れてしまうことのないジェイコブ。動物に対しても変わることのない愛情を注ぎます。そんな愛情を、動物たちもしっかり感じ取ってるんですよね。そんな中で特に魅力的なのが象のロージー。動物好きに悪い人間はいない、というのは必ずしも真実ではないかもしれないんですけど、そんなことを思いたくなる暖かさ。サーカスの表向きの華やかな顔と、観客からは隠されている裏の顔のバランスも絶妙です。
でも若いジェイコブの物語だけなら、これほどの作品にはならなかったのではないかしら。年齢を重ねたジェイコブの存在があってこその物語という気がします。

これは古き良きアメリカの物語ですね。列車のサーカスが来るのを見て育ったアメリカ人には、もう本当に堪らないのでは! という私も、サーカスは子供の頃に2~3度見に行った覚えがあるんですけど... そういう小綺麗で現代的なサーカスとはまた全然違うんですよね。この時代を直接知ってる人には、もっとこう何ていうか圧倒的に迫ってくるんだろうなって思います。知らない私にもぐいぐい来ましたもん! 読みながら、時には息を潜めたり、時にはページをめくる手が早くなったり、時には同じ箇所を反芻してみたり。一緒になって怒ったり笑ったりほっとしたり。そしてこれ以上ないほど素敵なラスト。いやあ、ほんといいお話でした。これはまさに「読むべし」です!(ランダムハウス講談社)

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 どんなに華やかな舞台にも、裏方の仕事は付き物で、例えば評者はある時期ホテルマンなんぞをしていたのだが、7階ある建物の廊下もフロントロビーも各部屋も、当た... » Lire la suite

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四季さん こんにちは

読者メーターのほうから覗きながら、四季さん読了まだかな?と思っていました。

高評価かどうかは別にして、四季さんのテイストに合うことは自信がありましたので、
抱いて眠ってくれるかな?が気懸かりでしたが(^^ゞ

愛すべき耄碌爺さんのパートがあってこそ、全体が映える作品でしたね。

ひとつわからなかったのが、サーカス象に水をやったという昔話に、なんであそこまで“ウソだ!”とむきになって怒ったのかというところが・・・
四季さんには、その真意汲めましたか?私は、浅読みだったのかな。

こんにちは!
読んでみたいです~^^
四季さんに「読むべし」なんて言われたら、手をださないわけにはいかないわ!(笑)
図書館で借りてみま~す♪

>聖月さん
やや、すみません、おまたせしまして~。
これはほんと、抱きしめて眠りたくなる本ですね!
最初から面白かったんですが、「抱いて寝る」方は半信半疑だったんです。(笑)
でも、気がついたらすっかりやられてしまってましたよー。
ほんといいお話でした。うふふ、テイストを掴んで下さっててありがとうございます♪

象の水の件は確かに…。
元弁護士さんが水をやったっていうのは、別に嘘ではないんじゃ?って思うんですが
あのレモネードの話とかそういうのから「そんなのやったうちに入んないんだよ!」って感じで
老人の頑固さが出たのかなーなんて思ってました。
別に到着した時は水をやったらいけないとか、そんなことは何もなかったですよねえ。
謎です。何か読み落としたのかしら。

>ことりさん
こんにちは!
この本を教えて下さった聖月さんが良かった本の感想に
よく「読むべし」を使われてるので、ちょっと真似してみました~。(笑)
でも真似というだけでなく、ほんといいお話だと思うのです。
ことりさんもぜひぜひ読んでみて下さいね。^^

こちらにもこんばんは。
本日もまたトラバが通らないので、URLに私の感想を入れちゃいました。
そうそう、これ老人となったジェイコブの生がきちんと重なって来る所
がいいんですよね。
ラストも良かったですよね~。
読んでて予想外のラストだったんですが、快哉を叫びたくなりました。笑

つなさんも読まれてたのですね~!!
そうそう、老人となったジェイコブと若いジェイコブと
その2人がいるからこそ、ここまで良かったんだろうなと思いますね。
そしてあのラストには、もうすっごく幸せな気分になっちゃいましたよ。
あのラストが2人のジェイコブを緩やかに結びつけてくれて
物語としても綺麗に閉じたなって感じですよね。^^

四季さん、
この本、読みました。とってもとってもよかったです。
四季さんのレビューを読みながら、頷いてばかりいます。
 >小綺麗で現代的なサーカスとはまた全然違う、
うんうん。
 >読みながら、時には息を潜めたり、時にはページをめくる手が早くなったり、時には同じ箇所を反芻してみたり
はいはい、そうですそうです。
 >そしてこれ以上ないほど素敵なラスト
まさにまさに同感です。予想もしていなかったすばらしいラストシーンにため息です。
「抱いて眠りたい」ですか? 私も仲間にいれてください。私も抱いて寝ます。

>ぱせりさん
わあ、ぱせりさんも読まれたんですね!
うふふ、何度も頷いて下さってありがとうございます。^^
ほんと素敵な物語でしたよねえ。
サーカスの物語にも、老人ホームの物語にもそれぞれの良さがあって
それぞれがお互いに欠かすことの出来ない物語だったんだなあって思いました。

ではでは、ぱせりさんも一緒にこの本を抱いて眠りましょう♪
また後ほど、ゆっくり感想を拝見しに伺わせていただきますね。^^

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