「琥珀捕り」キアラン・カーソン

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アイルランド語の物語を独特の口上で語り始めるのが好きだった父のように話を語り起こせたら。...父が得意だったのは船長もののお話。そのお話は、しばらく聞き入っていて始めてそれが単なる前口上に過ぎず、肝心の物語はまだ始まってないと分かるものだったり、果てしない入れ子構造だったり... 「嵐の夜、ビスケー湾でのこと、船長と船乗りたちが火を囲んで座っていた。突然、ひとりの船乗りが、船長、お話をしてくださいよ、と言った。そこで船長がこんなふうに語りはじめた。嵐の夜、ビスケー湾でのこと、船長と船乗りたちが火を囲んで座っていた。突然、、ひとりの船乗りが、船長、お話をしてくださいよ、言った。そこで船長がこんなふうに語り始めた...」 果てしない入れ子物語の拷問が続くのか、それとも7番目か8番目の船長がお話の中に乗り出していってくれるのか、それは誰にも分からないのです。

AからZまでの章題の元に書かれていく物語。そこに書かれているのは堤防の決壊を食い止めたオランダ人の少年の物語だったり、フェルメールの絵に関する薀蓄だったり、チューリップ狂時代のことだったり、中世の聖人たちの物語だったり、様々な民話だったり、ギリシャ神話やローマ神話のエピソードだったり... アイルランド生まれの作家であり詩人でもあるキアラン・カーソンなので、アイルランドの神話や民話も登場します。そして、それらの物語の語り手も様々。一番の語り手は「わたし」なんですけど、「わたし」の父親が語った物語、その父親の語った冒険王ジャックの物語などなど、どんどん入れ子になっていくという構造。訳者あとがきに「物語の尻取りゲーム」という言葉があるんですけど、まさにその通りですね。ほんのゆるやかな繋がりで物語は広がり発展し続けていきます。作中に出てくるアテネとアリアドネが織り上げる織物のように、様々な物語がそこには描き出されて... そしてそこに点在しているのが、道しるべのようにばら撒かれた琥珀。様々な色彩に溢れた物語を琥珀がゆるやかに結びつけていきます。
これは千夜一夜物語のように一夜に一章ずつ読んでいくのが相応しい作品かも。私も読むのに結構時間をかけたんですが、もっともっとゆっくり読んでも良かったかもーっ。1つの中心となるストーリーがあって展開していくタイプの作品ではないですしね。だからといって、途中から読んでも構わないというタイプの作品ではないのだけど。一旦この世界に迷い込んでしまったら、もう抜けられないというか抜けたくないというか... いつまでも読んでいたかった。ということで、一度読み終わってしまったんですけど、もう一回、26夜かけて1章ずつ読み返していくつもりです。(東京創元社)


+既読のキアラン・カーソン作品の感想+
「琥珀捕り」キアラン・カーソン
「シャムロック・ティー」キアラン・カーソン

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Commentaires(2)

四季さん、おはようございます。
凄い本らしい、と思っていましたが、ほんとに凄い本でした。
ほかの本と同時進行で読んでいたのですが、それでやっと読めたって感じでした。
この本一冊かかりきりで読んだら、とても読破できなかったと思います。
なんていったらいいのか、この読み応えは、読んでみて初めての実感でした。
一章一章にこれだけの充実、これだけの複雑なつながりのおもしろさ、まさに千夜一夜物語ですね。
最後まで読んで、さらに圧倒されて、ああ、ほんとに一夜に一章がちょうどいいんだ、と思いました。
わたしももう一回読みます。もっとゆっくり大切に、細かなディテールに気をつけて読み返したいと思っています。

ぱせりさん、おはようございます~。
読まれましたか。これは本当に凄い本ですよね!
もう普通の小説本とは密度が全然違うというか何というか…
1章1章にみっしりと中身が詰まってますものね。
ほんとすごいです。1冊読んだだけで26冊分ぐらいの満足感。(笑)

同じ作者による「シャムロック・ティー」もすごく良かったですよ。
この作品に負けないぐらい… というか、むしろそちらの方が一層好きなんですが…(笑)
こちらをじっくり読み返されたら、そちらもぜひ手に取ってみて下さいね。

ぱせりさんの感想を拝見するのが楽しみ~。
後ほどゆっくりお伺いします。^^

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