「シェル・コレクター」アンソニー・ドーア

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8歳の時にケニアの北の海辺に移り住んだ盲目の老貝類学者は、小さな海洋公園でひたすら研究を続ける日々。しかし2年前、その生活に予期せぬねじれが出来たのです。老貝類学者の生活に迷いこんできたのはアメリカ人のナンシー。日射病にやられて錯乱していた彼女が貝の毒によって全快してしまうと、それを知った人々が老貝類学者のもとに押し寄せて... という「貝を集める人」他全8編の短編集。

まるでアリステア・マクラウドとかベルンハルト・シュリンクとか、そういうある程度以上の年齢を重ねた人の書いた作品のような雰囲気なんですが、これがまだ20代の新人作家の作品だと知ってびっくり。アメリカの大学院の創作科出身という、いまどきの作家さんのようです。
ここに描き出されているのは、アメリカはもちろんのこと、ケニアやタンザニア、リベリアといったアフリカの自然の情景だったり、北欧の原野だったり... 様々な自然の情景が描きあげられていました。大きく静かな自然の圧倒的な美しさと厳しさ、そしてもっと身近にある小さな自然のさりげないけれど確かな美しさ。自然に畏怖を感じたり、愛情を感じながら、寄り添って生きる人々の姿。これらの人々に共通するのは、深い喪失感。どれほど大事にしていても、大切な物が指の間からすり抜けて落ちていってしまう哀しみ。でも確かな希望もそこにはあるんですよね。
特に印象に残ったのは、上にあらすじを書いた「貝を集める人」と、あと「ハンターの妻」。「貝を集める人」での、盲目の老貝類学者が少年の頃に初めて貝の美しさに開眼した場面や、現在の「貝を見つけ、触れ、なぜこれほど美しいのか言葉にならないレベルでのみ理解する」のがいいんですよねえー。目は見えなくても、貝類の美しさを全身で感じ取っている、むしろ目が見えていた時よりもはっきりと見て取っている老貝類学者。色んな貝の美しさや怖さが伝わってきました。そして「ハンターの妻」は、山の中で狩猟のガイドとして暮らす男と、死んでいく生き物の魂を感じることができる妻の物語。2人が暮らしていた冬の山の情景がとても印象に残ります。冬眠する動物たちの美しさ、そして簡単に凍死・餓死させられてしまう冬の厳しさ。そしてそんな現実の情景とは対照的な、彼女の感じ取る幻想的な魂の情景。命が身体の中から外に流れ出る時に見えるのは、とても美しくて豊かで、暖かい情景なんです。この「ハンターの妻」や「ムコンド」はどちらも、まるで違う存在だからこそ惹かれ合い、でもまるで違う存在だからこそ同じ場所では幸せにはなれない夫婦を描いた物語なんですね。哀しい話なんだけど、素敵でした。(新潮クレストブックス)

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Commentaires(4)

わたしは「ハンターの妻」や「ムコンド」が好きだったのですが、四季さんの「まるで違う存在だからこそ惹かれ合い、でもまるで違う存在だからこそ同じ場所では幸せにはなれない夫婦を描いた物語」に、頷いています。悲しい話ですけど、素敵ですね。そしてとっても美しくて。
「貝を集める人」もよかったです。四季さんの文章から美しい海の描写が蘇ってきました。
作者の年齢にも驚かされました。これからが楽しみですね。

ぱせりさん、こんにちは~。
「ハンターの妻」や「ムコンド」もいいですよね。私も大好きです。
「ムコンド」の走ってるナイーマのあの野生の獣のようなしなやかな力強さとか…
彼女がカメラで切り取った景色も、見えるような気がしてなりませんでしたよ。
そんなナイーマがオハイオの住宅地で幸せになれるはずがないのにね!
でも彼にはそうしかできなかったんでしょうねー。

またクレストブックスで出るかしら? ほんとこれからが楽しみな作家さんですね。

私もこれ、読みました!
どれも良かったのですが、私は特に「世話係」が印象に残りました。
絶望の後の静かな昇華と大きな歓喜、再生みたいなのに私はめっぽう弱いです。
最後にメロン食べるところでは涙が出そうでした。
ただ、自分が作ったメロンを食べてるだけなのに・・・こうまで書くか!と脱帽です。

「7月4日」なんかも微笑ましかったですねー。

Mrs.Holmesさん、こんにちは~。
「世話係」は、リベリアの話でしたよね。
なんでアメリカ人の、しかもまだまだ若いアンソニー・ドーアが
これほどまでにリアルなアフリカを描けるんだろう… と思いましたよ。
うんうん、最後のメロンの場面、良かったですね。
ほんと、自分の作ったメロンを食べてるだけなのにね。
なんて書くと身も蓋もないですが(笑)、すごいですよね。

「7月4日」は、突然コミカルな作品が入ってきてびっくりでした。(笑)

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