「あまりにも騒がしい孤独」ボフミル・フラバル

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水圧式のプレスで故紙や本を潰してキューブにしては、再生工場に送る仕事をし続けているハニチャ。35年間で潰した本はおそらく3トン以上。しかしそんなハニチャにも楽しみはありました。それは送られてくる紙の山の中から美しい本を救い出すこと。そしてそんな本を読みふけること。そして文字にまみれ、心ならずも教養が身についてしまったハニチャにとって、どの思想が自分のもので、どの思想が本で読んで覚えたものなのか既に分からない状態...。

ナチズムとスターリニズムに踏みにじられている時代のチェコが背景なので、当然チェコの人々の暮らしは大変な状態だし、本来なら本好きの読者にとって、本が次々と処理されていくという現実は直視するのがツラいはずなんですけど、どこかあっけらかんとした明るさと、飄々としたユーモア感覚があるので、悲惨さを全然感じずに読めてしまう作品。焚書に対する怒りとか哀しみみたいなのはまるでなくて... ここで潰されるのは主に本や紙で、時には複製画もあったりするんですけど、きちんとしたものばかりじゃなくて、時には肉屋から送られてきた血まみれの紙がどさっと投げ込まれて、血にたかっている蝿ごとプレスしてしまったりもするんです。でも主人公が自分なりの儀式として、読み終わった美しい本を心臓部に入れて、時にはその側面を複製画で飾った紙塊に、グロテスクな美しさを感じてしまうー。
主人公は年金生活まであと5年のオジサン。日々浴びるようにビールを飲んでるようなので、まさに「オッサン」のはずなんですけど、その中身は孤独で繊細な少年。仕事をしながら思い出すのは、美しいマンチンカと恋をしていた時のことや、ナチスに連れ去られたジプシーの恋人のこと。ジプシーの恋人は結局強制収容所から戻ってくることはなかったし、こんな風にふとした拍子に当時のチェコの現実が見えてくるんですが...。そして彼は自分の仕事を誇りを持ってます。この仕事につくには普通の学校での勉強だけでなく、神学校で教育を受けた方がいい、なんて言ってるぐらい。(笑) 
東欧の作家さんって、やっぱりそれぞれに独特な雰囲気がありますね。少なくとも今まで読んだ東欧の作家さんは、他の欧米圏の作家さんよりも持ってる色合いが濃いような気がします。

先日のキアラン・カーソン「琥珀取り」「シャムロック・ティー」は本を見た瞬間ピピピッときましたが、これは読み始めた瞬間「うわ、これ好き!」でした。いやあ、今年は本の当たり年かも。
これ、松籟社の「東欧の想像力」というシリーズなんです。今まで3冊出てるんですけど、これが2冊目。1冊目は「砂時計」(ダニロ・キシュ)、3冊目は「ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし」(エステルハージ・ペーテル)。そして5月に4冊目の「帝都最後の恋」(ミロラド・パヴィッチ)が出るのだそう。

1作ごとに物語の語り方に工夫を凝らすパヴィッチ。『帝都最後の恋』は、各章がタロット・カード(大アルカナ)の寓意画一枚一枚に対応。タロットを広げながら、出たカードに対応する章を読む、そんな多様な読みに読者をいざないます。

カルヴィーノの「宿命の城」ですか?(笑)
でもこれがまた面白そうなんだわー。これは追いかけてしまいそうです。(松籟社)

 


+シリーズ既刊の感想+
「あまりにも騒がしい孤独」ボフミル・フラバル
「砂時計」ダニロ・キシュ
「帝都最後の恋 占いのための手引き書」ミロラド・パヴィッチ

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あまりにも騒がしい孤独 ボフミル・フラバル 石川達夫・訳/松籟社 ナチズムとスターリニズムの両方を経験し、過酷な生を生きざるをえないチェコ庶民。そ... » Lire la suite

Commentaires(2)

四季さん~こんにちは♪
四季さんの感想楽しみにしていました!
しどろもどろの私の感想よりもずっとずっと伝わってきて何度も読んでますわ。
何というのでしょう、時代背景を考えると決して明るいものではないし、実際内容もグロテスクな描写が多いのですけど、それ以上に魅力的な表現が散らばっていて一気に惹きこまれてました。
読み始めてすぐ「好き!」って思えるのって幸せ。
読んでいる間中幸福感に満ちてましたわ。

「東欧の想像力」シリーズはどれもこれも読みたい!という気持ちにさせてくれます。次は『砂時計』を読む予定です。
そしてどんどんと刊行してもらって、よちよちとですが追いかけていきたいです。
またぜひぜひこんな話で盛り上がりましょうね!

リサちゃん、こんにちは~。
感想、楽しみにして下さってただなんてありがとうございます。
えーーでも「しどろもどろ」だなんて全然ですよ!
すごくいいなあと思って読ませていただいてたんですもん。
私は、なんだかイマイチ核心を突けないままの感想になってしまって…。
でもでも伝わるだなんて言っていただけて嬉しいです♪

ほんとグロテスクだし、時代背景はほとんど真っ暗な状態だというのに
一気に引き込まれてしまいますよね。
うんうん、読んでる間幸せでしたよ~。
でもなんだかドキドキしてしまって、最初はなんだかじっくり読めなくて
ざざーっと読み終えてから、また改めてじっくり読み直した私です。(^^ゞ

「砂時計」も読んだとこなんです。まだ感想は書いてませんが。
これもすごかったですよ!
最初は読みにくくて、もうどうしようーと思うほどで、挫折寸前だったんですが
それでもなんとか読み続けてたら、いきなり視界が晴れました。
まさに「東欧の想像力」という作品です! 第一回配本にに相応しいー。
リサちゃんの感想も楽しみにしてますね。^^

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