「砂時計」ダニロ・キシュ

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ランプが1つ灯されただけの薄暗い部屋。隙間風が吹いているのか炎は揺らめき、影もまた揺らめきます。薄闇に目が少し慣れてくると、そこに見えるのは1つのランプ。視線はランプへと向かい、その炎に目が釘付けに。そしてやがて目が光に慣れると、そこに見えるのは天井に渡された3本の長い梁、錆びた黒い鉄板出来た八本脚のレンジ、化粧窓、木の長持ち、横腹の丸い鞄、そしてランプが置かれているテーブル。テーブルに置かれているのは方眼紙の束や二つ折りの新聞紙、2~3冊の薄汚れた雑誌、金文字が押された黒い本、半分吸いかけのタバコ。そして炎に近づいていく1本の手...。

先日読んだ「あまりにも騒がしい孤独」に続いて、東欧の想像力シリーズ2冊目です。読み始めた途端に「好き!」と夢中になった「あまりにも騒がしい孤独」とは全然違っててびっくり... いや、作品によって違うなんて当たり前のことなんですけど、こちらはどうしても読みにくくて... 何度読み返しても全然頭に入ってこなくて、もうどうしようかと思いましたー。プロローグなんて何度読み返したことか! 根性で読み進めましたよ。

ここに書かれているのは全て、E・Sという男のこと。E・S・にまつわる断片がいくつも集まって出来ている物語。それが分かれば少し楽になります。このE・Sというのは、ダニロ・キシュの父親の名前エドゥアルド・サムに由来するもの。ダニロ・キシュの父親はユダヤ人で、1944年にアウシュヴィッツの強制収用所に送られ、そのまま消息を絶ったのだそうです。
物語の中には、「プロローグ」「旅の絵」「ある狂人の覚書」「予審」「証人尋問」という大きな章が繰り返し現れます。その章はそれぞれに雰囲気が全然違うんです。「旅の絵」は詳細な情景描写。「ある狂人の覚書」は一人称の妄想混じりの手記。「予審」「証人尋問」は、まさにそのタイトル通りの言葉のやり取り。読みやすい章もあれば、過剰なほど詳細で難解な章も...。でも一見読みやすい章でも、なかなか簡単には実像を掴ませてもらえないのは難解な章と一緒。物語の進み方はまさしくプロローグに描かれた部屋のようです。暗闇の中に1つの炎が揺らめいてる部屋。最初は何も見えず、徐々に目が慣れてきさえすればその周囲が徐々に見えてくるんですが...。プロローグで触れられている「陰画」と「陽画」のような物語なんだろうなとは思いつつ、実際読んでいてもそこに書かれていることが何を意味しているのか、それ以前にそこには何が書かれているのかがなかなか掴めずに苦戦してしまいましたよ。でもこれこそが、文字によって物語を構築していくという行為なのでしょうね。
残されているたった1通の手紙を元に構築された物語の世界。父親がいなくなったのはダニロ・キシュがまだ9歳の頃、記憶も朧でエピソードもあまりなかったはず。でも想像力さえあれば、1人の人間を作り上げることだって可能なんですものね。必ずしも真実ではないのかもしれませんが、ダニロ・キシュにとってのE・Sが確かにここに存在しています。(松籟社)


+既読のダニロ・キシュ作品の感想+
「砂時計」ダニロ・キシュ
「死者の百科事典」ダニロ・キシュ

+シリーズ既刊の感想+
「あまりにも騒がしい孤独」ボフミル・フラバル
「砂時計」ダニロ・キシュ
「帝都最後の恋 占いのための手引き書」ミロラド・パヴィッチ

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