「月ノ石」トンマーゾ・ランドルフィ

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休暇になり、久しぶりに田舎の村・Pの叔父の家を訪れた大学生のジョヴァンカルロは、叔父一家のもてなしの場である台所で歓待されます。ひとしきり話をした頃、ふいに視線を感じるジョヴァンニカルロ。何者かが闇の奥から野生の黒い目でジョヴァンカルロをじっと見つめているのです。やがて家に入って来たのは、グルーと呼ばれる若い女性。その女性の美しさに目が離せなくなるジョヴァンカルロでしたが、ふと気づくと、その女性のスカートからのぞいていたのは女性の優雅な足ではなく、先の割れた山羊のひづめで...。

先日リサさんが読んでらして、表紙のレメディオス・ヴァロの「星粥」の絵に惹かれて、さらに「月と山羊と死者たちが、あなたの恋の邪魔をする。怪異と神秘が田園を包む妖しく美しい異色の名作」という紹介に惹かれて手に取った作品。作者はイタリアの奇才だというトンマーゾ・ランドルフィ。
前半のジョヴァンカルロとグルーの場面は、昼間の太陽の世界。そして満月の夜、ジョヴァンカルロがグルーに連れられて行くことになるソルヴェッロの地は夜の月の世界。その境界線が曖昧で、現実の世界にいたはずなのに、気がついたら異世界に引きずり込まれていたような感覚です。最初にジョヴァンニカルロがグルーを見初めた場面も、その境界線上にあったのかも。
ソルヴェッロの地でジョヴァンカルロが出会うのは、過去の山賊たち。「剥ぎ取りベルナルド」や「赤毛のシンフォロ」、「買い物カゴ野郎アントニオ」... 曾祖父を誘拐して途方もない身代金を要求した「引き裂きヴィチェンツォ」もいるんですよね。この地での山賊の宴の場面は妖しく美しく、そして狂気じみていて、どこか異教的な情景。この出来事は結局のところ一夜の夢だったのかしら... それとも現実だったんでしょうか。そしてグルーとは何者だったんでしょう。山羊の足から連想するのは悪魔か、そうでなければギリシャ神話に出てくるフォーン。グルーはかつてこの地で権力を持っていた一族の末裔で、その一族にはかなり血なまぐさいエピソードが残っているようなので黒魔術... とも思ったんですが、基本的にキリスト教色の強い物語ではないし、これはやはり異教的な神話の世界のように感じられました。人間と動物が入り乱れているところも、死者と生者が入り乱れているところも、3人の「母たち」も異教的。キリスト教に対抗する存在としての異教ではなく、むしろキリスト教が入ってくる前の純粋な異教の世界みたいな感じ...。ちょっぴり翻訳の文章が読みづらかった気もするんですけど、すっかり引き込まれちゃいました。でもなんだか物語を読んでるというよりも、一連の絵画の連なりを眺めているような感覚だったかも。(河出書房新社)

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 トンマーゾ・ランドルフィは20世紀前半に活躍したイタリアの作家。 これは1939年に書かれた作品。幻想的で不気味なオカルト風味の、それでい... » Lire la suite

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ちょっと前に読んだのですがなかなか不気味で印象深い作品でした。
私は、シェイクスピアの「夏の夜の夢」とか、さらにそのパロディでもあるゲーテ「ファウスト」のなかの「ワルプルギスの夜の夢」を連想しました。

>一連の絵画の連なりを眺めているような感覚
なるほど、言いえて妙ですね。装丁のバロの絵がそう思わせるのかもしれませんが。

piaaさん、こんにちはー。
ああ、「ファウスト」は私も思いました。
キリスト教の時代の話だからな、と、結局頭から払いのけてしまったんですが…
でもそうか、そうですよね、ワルプルギスの夜。その時に思った以上にぴったりかも。
しかも「夏の夜の夢」はギリシャの話だし、パックみたいな半人半獣も出てくるし。
しかもパックって山羊の足でしたっけ?!

「ファウスト」は随分前に読んだっきりなので、かなり記憶が薄れてます… ダメダメ。

バロの絵も素敵ですよね。大好きです。^^

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