「最後の吟遊詩人の歌」ウォルター・スコット

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寒空の下、道をゆくのは1人の吟遊詩人。かつてこの地方には多くの詩人たちがいましたが、彼はその最後の1人。今やすっかり年老いて、放浪の竪琴弾きとしての貧しい暮らしに苦しんでいました。時代は移り代わり、古い慣習は消え、最早大広間の上席について、華やかに着飾った領主やその奥方に即興の調べを聞かせることもなくなっていたのです。飢えて疲れきっていた彼は、ヤロウ河畔のニューアーク城のアーチをくぐります。しかしこの城の公爵夫人に思いがけない暖かいもてなしを受けると、彼の中の吟遊詩人としての誇りが甦ります。そして名君と言われたフランシス伯爵のこと、これほどの勇者はないと言われたウォルター伯爵のこと、バックルー一族の古の戦士たちにまつわる古い武勲物語を歌うことに。

ウォルター・スコットの「最後の吟遊詩人の歌」の原文と日本語訳、そして佐藤猛郎氏による作品研究が収められている本。
「最後の吟遊詩人の歌」は、序詩と吟遊詩人が歌う6曲の古い歌からなる作品。英国における吟遊詩人の活躍は、英語が一応成立した13世紀頃から、エリザベス一世に弾圧されるようになった16世紀末ぐらいまでなんだそうで、この作品の吟遊詩人が生きてるのは、まさにその末期の時代。そしてその吟遊詩人が歌う物語は、時代がもっと遡ります。もてなしてくれた公爵夫人の祖先の物語。他の一族の戦い、ロミオとジュリエット的な恋愛、そして魔術。登場するのは実在の人物ばかりで、ここで歌われる出来事にも史実が多いのだそう。ウォルター・スコット自身の祖先で、実際に歌人だった「Walter Scot of Satchells」が書き残した「スコット一門正史」が元になってるんだそうです。
私が一番好きなのは中世に作られた叙事詩なんですけど、でもウォルター・スコットが19世紀に作ったこの作品も、ものすごく素敵でした。吟遊詩人がいた当時の情景が目の前によみがえってくるみたい。今は年老いた吟遊詩人が語るという枠物語の形式を取っているので、尚更そういった印象になったのかもしれません。読みながらもう、静かに熱くなりました!(なんて書くと意味不明ですが...) ああ、こういう作品、もっともっと読みたいなあ。

「作品研究」では、老吟遊詩人に焦点を当ててウォルター・スコットが表現しようとしたものを探っていて、その辺りがとても参考になりました。年老いて疲れ果てた吟遊詩人の姿が、今はもうすっかり衰えてしまったスコットランドを表してるようだ、とかね。それに「Bard(歌人)」と「Minstrel(吟遊詩人)」の違いやその社会的身分について触れられているのも、すごく興味深かったです。「Bard」は、ケルト系の氏族の領主に直属する存在。世襲制で、領主一族の系図や武勲を暗誦する人。饗宴の席で竪琴に合わせて歌うだけでなく、領主の子弟の教育を受け持ち、戦いにおいては使節の役目も果たすとか。身分としては、領主、乳兄弟に次ぐ高いもので、その次に鼓笛手、布告役、一般家臣と続きます。それに対して「Minstrel」は、「中世期において、詩と音楽で生計を立て、竪琴に合わせて、自作の、あるいは他人が書いた詩を歌ってきかせることを職業とする人々」のこと。
北欧系の「Scald(歌人)」のようにゲルマン系諸民族の間でも「Glee」「Jongler」「Minstrel」と呼ばれる歌人と芸人の中間のような人々が存在して、ドイツでは「Minnesinger」、南フランスでは「Troubadour」といった宮廷歌人になっていったんだそうです。でも一時は王侯に仕える身分にまでなった「Minsutrel」も時の移り変わりと共にすっかり落ちぶれることに...。「言い伝える」じゃなくて「書き残す」時代になってしまうんですね。(評論社)


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Commentaires(2)

Cielbleu 様
インターネト・サーフィンをしているうちに、貴兄の記事を見つけました。これほどウォルター・スコット作品を愛好する読者がおられるとは、心強い限りです。スコットの灯火を消さないよう、私も頑張っておりますので、よろしくお願いいたします。スコットの他の歴史小説を翻訳しているのですが、なかなか出版にまで至らないのが悩みの種です。

はじめまして、書き込みありがとうございます。
貴著は何冊も読ませていただいております。
ウォルター・スコットは大好きです! 全著作を読みたいぐらい。
でも日本語訳があまりないという以上に、現状では手に入りにくいという本が多くて…
本当に残念です。
なんと、せっかく訳されても、なかなか出版まで至らないのですか。
例えばアマゾンでは「マーミオン」の中古品に¥63,000という値段がついていて
それはある意味需要があるということなのではないかと思うのですが…

ウォルター・スコットの歴史小説も、ぜひ読みたいです。
出版されるのを心待ちにしております。
これからも頑張って下さい!

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