「翼の帰る処」上下 妹尾ゆふ子

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派閥争いに巻き込まれ、辺境である北嶺へと左遷された尚書官のヤエト。帝国からは放置され、一度来てしまえば二度と都に呼び戻されることはないと言われる北嶺への赴任、しかも都から派遣されるのは尚書官ただ1人とあって、ヤエトは気楽な暮らしを期待していました。病弱で長くは生きられないだろうと言われつつ36歳まできてしまったヤエトの望みは、目立たず静かに余生を送ることだけなのです。しかし10年以上前に帝国に征服されていながら、まるでその意識がなく、毎日朝議で懲りずに怒鳴りあいを繰り返す北嶺人相手に、ヤエトは我慢の限界を試されるような日々を送ることを余儀なくされることに。そしてヤエトの赴任から10日ほど経った頃。都から北嶺にやって来たのは皇帝の1人娘である14歳の皇女。皇女が北嶺にやって来たのは太守として赴任するため。皇家の姫は官職に就かないのが通例の帝国に珍しい人事にヤエトは驚きます。しかもヤエトは、ほかならぬ皇帝の命により、その皇女の副官に任じられてしまったのです。

妹尾ゆふ子さんの作品、一度読んでみたいと思ってたんですよねえ。そんなところにちょうど良く新作が! 思わず買ってしまいましたよ。(と言いつつ、半年ほど積んでしまったんですが) 神話や伝説をよく読んでらっしゃるし、きっと好みの世界なんじゃないかなとは思ってましたが... いや、予想以上でした。骨太な異世界ファンタジー。

この作品でまず目を引くのは、神による「恩寵」というものですね。太古の昔の神との契約が、力を薄めながらも現代にまで受け継がれているんです。現在の皇帝一族の力は、伝達官という存在によって言葉を遠い地に直接伝えることができる能力。たとえば皇帝の伝達官は皇帝専属で、皇帝がその体に乗り移って言葉を直接伝えるんです。もちろん伝達官を通してその場を見ることも可能。時には伝達官を通さずに人と心を繋ぐことができる能力の強い人間もいます。...情報を制するものが世界を制す? 面白いなあ。そして古王国の人間だったヤエト自身が持っているのは、「過去視」という力。これはその場所で過去に起きた出来事を視る力。ものすごく便利だけど、本当はそんなの持ってない方が身のためって感じの能力ですね。全てを暴き出してしまうから。それに権力者にとっては堪らない力だから。
隠居願望のあるヤエトも、金髪の騎士団長・ルーギンも、後半活躍するジェイサルドも、大騒ぎの北嶺の面々もそれぞれに魅力的で、すっごく楽しく読めました。14歳の皇女も頑張ってるし、皇妹も妖しい魅力。という私のお気に入りは... 砂漠の勇者みたいのに弱いので(半月刀だの三日月刀だのを持ってると尚良し)ジェイサルドも捨てがたいんですが(しかもオヤジ好きなんです、ワタシ)... 何かするとすぐ倒れてしまう虚弱体質のヤエト。隠居願望がこれほど強いのに、隠居後の資金作りのために已む無く働いているだけなのに、その給料に見合う程度しか働くつもりがないのに、それでも結局頑張ってしまうなんて、なんて損なお人柄。(笑)
文章のせいか、なんだか翻訳ファンタジーを読んでるような気分になってたんですが、時々「おっ」と思う言葉が使われてて思わず「ふふふ」となってしまいました。「巻き戻し」とか「頭が高い」に「お?」と思っていたら、「乙女心満載の回答」とか「べろんべろん」とか! ウケました。

ものすごく神話を感じる世界で、とっても好み。話はこの上下巻で一応一区切りになってますけど、この世界の隅から隅まで、その歴史や神話も含めて知りたくなってしまうー。その筆頭は、識字率が高いのに記録が一切ない北嶺という土地のことかな。だってこの地にある一番古い記録は、帝国傘下に収まった16年前に帝国の史官が書いたものなんですもん。戸籍だって14年前に作られたっきりみたいだし。北嶺のことも多少は分かったけど、でもまだまだ。そしてヤエトの「ーー古王国は、恩寵を崇めてしまった。神を崇めるかのように。そして自滅した。」という言葉がものすごく気になります。この作品、続きもあるようなのでものすごく楽しみです。(幻冬舎)

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