「ロシア英雄叙事詩ブィリーナ」

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ロシア民衆の間に口承で伝わってきた英雄叙事詩・ブィリーナ。18世紀以前は放浪楽師(スコモローフ)のような職業的芸能者によってロシア各地で語られ、18~19世紀半ばにその最良の部分が採録されるようになったのだそう。数々のスコモローフたちに語られた数々の物語から、太古の騎士たち、キーエフの勇士たち、ノヴゴロドの英雄たち、勇士群像という4つの章に分けて、21編を紹介していく本。

ブィリーナとは「実際にあったこと」という意味で、19世紀の30年代にサーハロフという学者が命名したものなんだそうです。普通の昔話とは違って史実に基づくもの、特に先日読んだ「イーゴリ遠征物語」(感想)に由来すると言われていたことからの命名。まあ、実際に史実に基づいていたというより「そう考えられていた」というのがポイントなんですけどね。でも、ここに登場する「太陽の君」と呼ばれるウラジーミル公は、プーシキンの「ルスランとリュドミーラ」にも出てくるんですが、このウラジーミル公が誰だったのか、まだ特定されてないんですって。びっくり。歴史上に名を残したキエフ大公国のウラジーミル公は2人いて、1人は「聖公」と呼ばれるウラジーミル1世、もう1人は「ウラジーミルモノマフ」と呼ばれたウラジーミル2世なんだそうです。

「太古の勇士たち」の章に収められているのは、神話的な物語。スヴャトゴールはヘラクレスのような力持ちで世界を持ち上げようとするし、マルファ姫が踏んだ毒蛇が姫の足に巻きついて尾で太ももを打って宿ったというヴォルフは、まるでヘルメスのように成長が早いです。生まれて1時間半もすると話し始めて、おしめの代わりに鎧と兜を要求するんですから。勇ましいヴォリガーと百姓のミクーラの勝負も、今はパッと思い浮かばないけど、いかにも何か似たエピソードがありそう。
「キーエフの勇士たち」の章で中心となるのは、「太陽の君」ウラジーミルと、彼をめぐる勇士たち。その中でもイリヤーとドブルィニャとアリョーシャの3人が代表格。生まれながらに手足が萎えていたイリヤーは3人の老人の力で健康体になり、ロシア一の勇士となるんです。他の勇士たちの物語は大抵1つ、多くても2つなのに、イリヤーにまつわる物語は5つ。それだけ知名度が高くて人気もあったんですね。
そして「ノヴゴロドの英雄たち」で登場するのは、知らないうちに水の王にグースリ弾いていて、お礼に大金持ちにしてもらった商人サドコと、無法者のワシーリイ。「勇士群像」で登場するのは、ウラジーミル公とアプラクシア妃の結婚に一役買ったドゥナイ、富裕な伊達男のチュリーラ、天竺からウラジーミル公の宮廷にやって来た公子デューク、見事賭けに応じるスターヴェルの妻、たった1人でタタール人の軍勢を退けながら法螺吹きと思われたスフマン、ウラジーミル公の姪。ザバーヴシカ姫と結婚したソロヴェイ。

私が一番気に入ったのは、昔話風の「イリヤーの三つの旅」。旅をしていたイリヤーが、道が三つに分かれる辻に不思議な道標を見つける物語です。石の上には「第一の道を行けば、死を得るべし。第二の道を行けば、妻を得るべし。第三の道を行けば、富を得るべし」なんて書かれていて、それだけならよくあるパターンとなりそうなところなんですけど... でもその後の展開は独特なんです。面白いなあ。あと「イリヤーとカーリン帝」では、タタールの軍勢によって窮地に陥ったウラジーミル公を助けるためにイリヤーは12人の勇士たちに助成を頼むんですけど、その時に、助ける助けないと3度のやりとりをするんですね。これが昔ながらの定型って感じでいい感じなんです。やっぱり定型って美しいなって思いますね。(平凡社)

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