「華氏451度」レイ・ブラッドベリ

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近未来、書物が禁止されている時代。焚書官のガイ・モンターグはその日も通報を受け、仲間たちと共に現場に駆けつけていました。大蛇のような巨大なホースで石油を撒き散らし、本だけでなく家に火をつけて全てを焼き尽くすのです。そして仕事から帰る途中、彼は隣の家に引っ越してきた少女に出会います。少女の名前はクラリス・マックルラン。クラリスはモンターグに色々と奇妙なことを話し、本を焼いているのは幸せなのかと尋ねます。

レイ・ブラッドベリも少しは読んでるんですけど、SFが基本的に苦手なのであんまり読んでないんですよね... これは美結さんにオススメされた本です。いや、これがすごかった。読んでる間中、ずっと頭にあったのは「時計じかけのオレンジ」(感想)。そして伊坂さんの「魔王」(感想)の「考えろ考えろマクガイバー」という言葉。

壁面をテレビにしていつも映像に囲まれ、海の貝と呼ばれる小型ラジオ受信機を耳に入れている人々。街中で車を運転する時は最低制限時速(「最低」です、最高じゃありません)が55マイル(約88km)で、時速40マイル(約64km)なんかで運転しようものなら、即刻刑務所行き。徒歩運動(って何なのかよく分からないんですが)をしても逮捕され、学校で疲れた子供たちは遊園地に行ったり「窓割り遊技場」で窓を割ったり、「自動車破壊場」で車に大きな鋼鉄ボールをぶつけたり、車で正面衝突ごっこをして気分転換。本は基本的に禁止。許されるのは漫画や性風俗の雑誌程度で、聖書ですらも処罰の対象。人々には、ひたすら何も考えないことが求められてるんですね。そして何も考えない人々は、日々提供される娯楽に身を任せるだけ。何も考えないことに慣れすぎてしまって、いざ戦争がおきて身近な人間が動員されても、何も考えられない状態なんです。「考えない」だけでなく「感じない」ですね。いくら巧妙に操作されていても、そんな生活、知らず知らずのうちにストレスが溜まるのではないかと思うんですが、そのストレス解消の手段までもがさりげなく提供されているというのが恐ろしい...。
でもそんな世界を恐ろしいと思いながら読んでいると、それが実は現代社会を如実に映し出していることに気づかされます。全然未来の話じゃない、まさに今のこの状態! ...モンターグの妻のミルドレッドが夢中になっているのは、テレビの中の人々と一緒になって自分の役割を演じること。RPGのゲームをしているようなものですね。海の貝は、今はiPod? 家ではテレビやパソコン、出かける時は携帯電話を手離せず、耳には常にイヤホン。心の底から満たされることがなく、精神的に不安定になっている人々の姿も同じ。本も映画もどんどんスピードアップしてジェットコースター状態になってるし、特に作中で署長のビーティがモンターグに語るこの言葉!

『ハムレット』を知っているという連中の知識にしたところで、例の、<これ一冊で、あらゆる古典を読破したのと同じ。隣人との会話のため、必須の書物>と称する重宝な書物に詰め込まれた一ページ・ダイジェスト版から仕入れたものだ。わかるかね?(P.111)

まさに今流行りだという「あらすじで読む世界文学」のような本のことじゃないですか。この作品が発表された当時は突拍子もなく感じられたのかもしれないけど、今やすっかり現実となってます。焚書官という存在がなくても同じ状態になってる分、ブラッドベリが書いたこの作品よりも酷い状態へと向かっていると言えるのかも。

冒頭の火の場面がものすごく印象的です。素晴らしい...。あと、まるでアンドロイドのように無機質な人々の中で、モンターグとクラリスの場面だけが色鮮やかで引き込まれました。華氏451度とは摂氏233度、紙が自然発火する温度なのだそうです。色々考えさせられるし... 色んなことを感じ続けたいですね。人間であり続けるためにも。(ハヤカワSF文庫)

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Commentaires(4)

こんにちは四季さん。ご無沙汰してマス。

ブラッドベリはおもしろいですね。短編集の『火星年代記』もいいですよー。
この作品あたり、太平洋戦争後の、冷戦構造がどんどんシビアになっていく時代に書かれたものでしょうか。オーウェルの『1984年』もそうですが、怖くて、なんか現代でもシャレにならないくらいだと思います。。

shosenさん、こんにちは! こちらこそご無沙汰しております~。

ブラッドベリね、実はほとんど読んでいないのです。
「たんぽぽのお酒」は、新井素子さんの影響で手に取ったのが確実なんですが(笑)
それ以外は何を読んだのかもよく覚えてないというテイタラク…
でも「火星年代記」は読んでないです。確実に。
そうですか、面白いですか。SFも短編も苦手な私なんですけど、大丈夫でしょうか。(どきどき)
今度手に取ってみますね! ありがとうございます。^^

「1984年」も、すごい作品らしいですね。村上春樹さん効果で、今年は読む人が多いかも?
「華氏451度」を読みながら思ってたんですけど、たとえば星新一さんの「声の網」といい
素晴らしいSF作家が書く作品って、未来を恐ろしいほど見通してますね。

『華氏451度』面白く読んでいただけてよかった。
SFというより、21世紀を予言した感じがありました。
たしかに『1984年』と通じるものがあり、こちらもお勧め。
さらに『1984年』の姉妹編といわれている『侍女の物語』を読んでいます。
拙い感想をTBしますね。

美結さん、おすすめありがとうございました!
ほんと、ここに書かれているのは21世紀のことでしたね。
最初ちょっと入りづらかったんですけど(やっぱりそこにはSF苦手意識が…)
これって今の世の中のことじゃないの、なんて思ってからは、没頭して読めました。

「侍女の物語」は読みましたが、「1984年」の姉妹編といわれてるとは知らなかったです。
そうなんだ! そしてどんどん繋がっていくのですね。

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