「フィオナの海」ロザリー・K・フライ

Catégories: / /

 [amazon]
小さな蒸気船に乗ってスコットランドの岸辺から西の群島に向かっていたフィオナ・マッコンヴィル。フィオナは群島の中の小さなロン・モル島で生まれて育ち、4年前、10歳の時に街に引っ越したのですが、街の空気が合わず、島に戻っておじいさんとおばあさんと一緒に暮らすことになっているのです。しかしそれはロン・モル島ではなく、もっと大きい島。ロン・モル島は、今では無人となり、かもめと灰色の大きなあざらしがいるだけの島となっていました。しかし無人のはずの島の小屋に明かりが灯っているのを見た人間がいる、浜から風が吹くと流木が燃えるにおいがするなど、蒸気船の船員が奇妙な話をするのを聞いたフィオナは、一家が島から出ることになった日に失った小さな弟のジェイミーのことを再び思い出します。

古くからあるケルトのセルキー伝説を取り入れた現代の物語。セルキーとはあざらし族の妖精。普段はあざらしの姿をしているのですが、時折その皮衣を脱ぎ捨てて人間の女性の姿になって、人間の男性と結婚することもあるんですね。だから羽衣伝説と同じようなパターンの話もあります。矢川澄子さんの訳者あとがきでも引き合いに出されてましたが、私も「妖精 Who's Who」は読みました。今パッとは思い出せないんだけど、他のところでも読んだはず。あ、でもこの作品を読んでる間は、どちらかというとヨナス・リーの「漁師とドラウグ」(感想)を思い出してたんですけどね。これはスコットランドではなくてノルウェーだし、本当は全然違うのだけど。(汗)

読んでいると、スコットランドの島々での人々の素朴な生活の暖かさがしみじみと伝わってきます。決して裕福な暮らしではないけれど、満ち足りた幸福な暮らし。その暮らしに欠けているものがあるとすれば、かつて行方不明になってしまったジェイミーの存在と、捨ててしまったロン・モルでの生活だけなんですね。おとぎ話では、時々際限なく望みをふくらませて全てを失う人間がいますが、この作品に登場する人々はそうではありません。島のやせた土でわずかながらも作物を作り、海で魚を獲り、困っている時はお互いに助け合う暮らしに満足してます。(フィオナのお父さんは強硬に島を出たがったそうなんですけど、奥さん亡くしてるし、それだけツラい思いがあったということなんでしょう) 日本での生活と比べれば、物質的には遥かに貧しいんでしょうけど、精神的には遥かに豊かな暮らし。木のゆりかごを海に浮かべて赤ん坊を育て、流木を焚いて海草のスープを作り... 作中でフィオナが1人で訪れた時のロン・モル島の情景は、本当に美しいですね。ヒースで紫色に染まった野、その中を緑色の道のように流れる小川、島を取り巻く真っ青な海。その直前の霧の場面が幻想的なだけに、この場面の明るい美しさが目にしみてくるようです。
基本的にとても現実的な物語の中に、かつてイアン・マッコンヴィルがロン・モルの岩礁(スケリー)から連れてきた妻、そして今も尚時折生まれる黒髪の子供、あざらしの族の長(チーフスタン)の賢く暖かい瞳といった不思議なことが少しずつあって、でもこの島の情景を背景にしてしまうと、ごく自然なことに見えてきてしまうのが不思議。そこにあるのは「信じる」ことの大切さなんですね。マッコンヴィル一族が一度は全員島を出てしまうという遠回りはありましたが、あざらしたちは一族がまた戻って来るのを信じていたんでしょうし。終盤のあの態度は、だからこそ、だと思うのです。そしてジェイミーがまだ生きて島のどこかにいると信じ続けていたフィオナ。おじいさんもおばあさんも、心の奥底ではジェイミーがまだ生きているのを信じていたはず。そんな信じる力が集まってこその大団円。種を超えた確かな心の絆が感じられるのが、とても素敵な物語です。

そしてこの本自体も、青緑色の表紙や栞の紐、鈍い緑がかった色の文字といった、細かいところにまで気を配っているのが分かる、とても素敵な本です。この青緑色がスコットランドの海の色なんですね、きっと。(集英社)

| | commentaire(6) | trackback(0)

Trackbacks(0)

「フィオナの海」ロザリー・K・フライ へのトラックバック一覧:

URL TrackBack de cette note:

Commentaires(6)

四季さん、こんにちは。
素敵な本ですよねー。
>物質的には遥かに貧しいんでしょうけど、精神的には遥かに豊かな暮らし。・・・
ああ、そうなんですよね。明るい美しさというのもとてもわかります。
ほんとにこの雰囲気にほっとして和んでしまうんですよね。
今の生活が真逆に近いので、余計に惹かれてしまうんですけど、せめて、気持ちだけでも、こういう世界の方を向いてゆったり暮らしたいです。

そして、また関連本のご紹介^^
こちらもとても気になります。
「アイルランド民話紀行」読んで(うふふ、お先に。四季さんの感想楽しみに待っています♪)、ますますアイルランド民話に心惹かれていますので「妖精 Who's Who」読んでみよう♪

ぱせりさん、こんにちは~。
ほんと素敵な本ですね。
ずっと気になりつつ見つけられなかったんですが、ようやく読めました。
いや、児童書かと思ってたんです。でも市内の図書館では一般書になってて…
思い込みってイヤですね。(笑)

以前に、おとぎ話での水の場面は異界への転換点、なんて書かれてる本を読んでしまったので
あの霧の場面ではものすごく妙な気分になってしまったんですが(笑)
でもあの幻想的な情景のあとの、明るくて美しい島の情景はとても印象的ですよね。
確かに今の日常生活にないからこそ、一層憧れるというのはあります。私も。(いやん)

「妖精 Who's Who」は、妖精事典って感じの本なので、物語ではないんですけどね。
(というか、実際に「妖精事典」という本があって、その簡易版なんですが)
こんなに色んな妖精がいるのか!!」とびっくりするかも。(や、しないかも?)
「アイルランド民話紀行」も近いうちに読みますので!待ってて下さいね~。

四季さん、はじめまして。
オーストラリア在住のJohnnycakeと申します。
しばらく前からこちらのブログを楽しく拝読させていただいております。
多くの本の粗筋や感想がきちんと書かれていてすごいなぁ、と感心してます。

さて、このフィオナの海ですが、粗筋を読みながら、あれ???どこかで聞いた様な?
と思っていたら、しばらく前に見た映画でした。

原作があったとは知らず、神秘的なお話でいいなぁ、と思ってみた記憶があります。

ご存知かもしれないと思ったんですが、念のため

題名:The Secret of Roan Inish 
映画制作:1994年
IMDB 英語版のエントリー:
http://www.imdb.com/title/tt0111112/


Johnnycakeさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
楽しく見てくださってるなんて嬉しいです。
しかもオーストラリアから! なんだかドキドキしてしまいます。

フィオナの海、映画化されてたんですか! それは全然知りませんでした。
調べてみると、どうやらアイルランドに舞台が移されていたようですね。
幻想的な映像の素敵な映画になっていたようで~。
それは観てみたいですねえ。どんな海なのかしら! 島も!
今度探してみますね。教えてくださってありがとうございます。

本もとても素敵なので、もし機会があったら手に取ってみてくださいね。^^

四季さん、こんにちは。
「フィオナの海」の映画、私も見ました。
原作があったのですね、しかも舞台はアイルランドではなかったとは。
私も原作を読んでみます。

きゃろるさん、こんにちは~。
おお、きゃろるさんも映画を観てらっしゃるのですね。
そうなんですよ、本当はスコットランドなんです。なんで変えたのかしら…
ロケ地の問題でしょうか。(笑)
本、ぜひぜひ。素敵ですよ。^^

コメントする(要JavaScript)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.