「昨日のように遠い日 少女少年小説選」

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13編の「少女少年小説」+2編のアメリカの新聞漫画。柴田元幸さん編集のアンソロジー。

なんで「少年少女小説」ではなくて、「少女少年小説」なのかはよく分からなかったんですが... 今現在の「少女少年」よりも、かつて「少女少年」だった人々への小説といった方が相応しい作品群かも。って、なんだか講談社ミステリーランドの「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」って惹句みたいですが。(笑)
いやあ、良かったです。基本的に短編集やアンソロジーが苦手な私なんですが、ここに入っている作品はどれも好き。これって私にはとってもすごいこと! もちろん短編でも好きな作品はあるし、作家さんによっては短編の方がイイ!ってこともありますが、短編集って読んでるうちにだんだん集中力が途切れてしまいがちなんですよね。それが全然なかったなんて、それだけで感動しちゃいます。(笑)

収められているのは13編。
■バリー・ユアグロー「大洋」は、大洋を発見し、夕食の席で報告する弟の話。「大洋を発見した」なんてことがごく日常的な出来事のように語られるのが楽しいんです。人間の小さな諍いと、それを嘲笑うかのように大きく広がる海の情景と。穏やかで、でも哀しい海。
■アルトゥーロ・ヴィヴァンテの「ホルボーン亭」「灯台」は、どちらも自伝的な作品。「ホルボーン亭」の少年の目に映った魅惑の世界とその微笑ましさ、「灯台」のわくわく感とその後の微苦笑が印象的です。でも具体的にはほとんど何も書かれていないんですけど、それ以上に作品の背後に深い哀しみが潜んでるのも感じられて...。
■ダニイル・ハルムスの作品は、ごくごく短いのが5つ。これがもうどれも良くて! 一度に大好きになってしまいました。特に「おとぎ話」は、最後にくすっと笑わせてくれます。うふふ。
■スティーヴン・ミルハウザー「猫と鼠」は、「トムとジェリー」を文字だけにしたような作品。これだけは、もうちょっと短くても良かったかなって思ったんですけど、この長さだからこそ、鼠の孤独感が際立って見えてくるのかも。
■マリリン・マクラフリン「修道者」は、大人になることに拒否反応を示す主人公、という辺りは正直あまり好きではないんですけど、彼女の祖母や家の庭、アイルランドの海の情景が素敵。これを読んで梨木香歩さんの「西の魔女は死んだ」を思い出す人、多いでしょうねー。
■レベッカ・ブラウン「パン」は寄宿学校を舞台にした物語。圧倒的な魅力を持つ完璧な「あなた」に魅せられている「私」の物語。ほんの一瞬の気の緩みが(でも実は小さなことが積み重なっていっているのだけど)、それまで積み重ねてきたものを崩れ落ちさせてしまうその苦さ。読みながら胸が痛くなってしまいます。さすがレベッカ・ブラウン。
■アレクサンダル・ヘモン「島」は、背景が「青い空・白い雲」という感じなだけに、ユリウス伯父さんの語る話が生々しく迫ってきて... その影が濃く感じられます。
■ウォルター・デ・ラ・メア「謎」は、デ・ラ・メアらしいとてもとても幻想的な作品。見てはいけない、と目をそらそうとすればするほど、そこに目がいってしまうものなんですよね。そして、どうなったんだろう...?

折り込みでウィンザー・マッケイの「眠りの国のリトル・ニモ」とフランク・キングの「ガソリン・アレー」というアメリカの新聞漫画も付いてて、これがまた素敵なんです。こんなのが新聞についてるなんて! そしてこのマッケイがミルハウザーの「J・フランクリン・ペインの小さな王国」(感想)の主人公のモデルになっていたとは~。なるほど~。

13編+αの中で特に気に入ったのは「大洋」「ホルボーン亭」「灯台」「パン」「謎」、そしてダニイル・ハルムスの作品。ダニイル・ハルムスと出会えたのは大収穫ですね。他の作品もぜひ読んでみたいです。(文藝春秋)

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 <少女少年時代にはもう戻れないけど、この作品集の中ではプレイバックすることができます。永年、翻訳小説を読んでない私みたいな人には入門編... » Lire la suite

Commentaires(7)

四季さん、こんばんは。
すごく気に入られたご様子で、何だかわたしも嬉しくなります。
わたしもなぜ「少年少女」じゃなくて「少女少年」なのかは、
いまだによくわかりませんでした。
でも、どちらかというと「少女」の方が鮮烈な印象だったからかしら…と、
身勝手に解釈しております(笑)

レベッカ・ブラウンは、やはりさすがですよね。
もっともっと作品を読みたいという気持ちにさせてくれます。
これは新刊の「犬たち」も読まねば!です。

ましろさん、こんにちは~。
なんだかとても気に入ってしまいました!
短編が苦手と言いつつも、それでも時々こういうことがあるので
やっぱり読まなくちゃだめですね。良かった、読んで。

>「少女少年」
んん、それもありますね。「修道者」や「パン」のインパクトが強いですものね。
…たった今、私がなんとなく思ったのは…
男の子よりも女の子の方が、精神的に大人になるのが早いって言うでしょう?
そんな感じで、少女の感受性の鋭さの方が際立って見えるってことなのかなあ、と。
感受性の欠片も持ち合わせなかった私なので、言ってみただけですが。(笑)

レベッカ・ブラウンは、やっぱり只者ではないですね。
私ももっと読まねばー。バリー・ユアグローも!

四季さん、おはようございます。
四季さんの感想、ああ~、いっしょいっしょ♪といちいち頷きながら読んでしまいました。
一話目の「大洋」を読み始めた瞬間から「この本好き!」と思ってしまいました。ほんとよかったですね。
ミルハウザーの「猫と鼠」もそうなんですよ~。おもしろかったけど、ちょっと長すぎるかな、と感じました。でもそう思いながら、やはりこの長さが必要なのかな、と思ったり・・・。
「巡礼者」は、うふ、まさに私、「西の魔女が死んだ」を思い出していたんですよ~。
どれもよかったけど、あえて好きなのは・・・と言われたら、わたしも四季さんと同じチョイスをしたいと思います。あ、あと「巡礼者」もつけたしてください♪
「少女少年」について、↑のましろさんと四季さんの考察、おもしろいです。特に深く考えず、読み流してしまいましたが、なるほど、です。

↑すみません。「巡礼者」ではなくて「修道者」でした。

ぱせりさん、こんにちは~。
ほんと「大洋」で、おおっ!ときますよね。
私もこれを読んだ時、これは最後まで楽しめそうだなって思いましたよ。
比喩だとばかり思ってたら!なんですもん。衝撃的でしたよね。(笑)
ミルハウザーのこの詳細ぶりは、彼の描く人物にも似てますね。
あ、「三つの小さな王国」ぜひ読んでみてくださいね。
という私も他の本を読まなくちゃ。既読は白水uブックスの3冊だけなんですよ。
ぱせりさんとこを拝見すると、まさに私が読んでないのを読んでらっしゃるようで~。
「イン・ザ・ペニー・アーケード」も、もしまだならぜひぜひ。
短編集で色々混ざってる感じなんですけど、最初と最後が最高なんです。^^

「修道者」も良かったですよね。好みよりも微妙に生々しかったので(序盤が)
上のチョイスからは外してしまったのですが、途中からは大好きでした。

「少女少年」は、やっぱり謎です。(笑)

四季さん、こんにちは♪
TBさせていただきました。

女性読者の大半はダニイル・ハルムスの詩に酔いしれられたみたいですが、その詩以外は私も自分の中でうまく消化できてホッとしてます。

正直、読む前は凄く不安だったのですが少しだけですが自信がつきましたね。

私は「パン」が一番好きでレベッカ・ブラウン読み進めたい気持ちが強くなりましたよ。
ポール・オースターほど著作がないみたいですね。

付録の漫画のうちの一つが図書館本、挟まってるだけで返す時に落とさないようにしなくちゃと言い聞かせています(笑)

少し話は変わりますが、もうすぐカズオ・イシグロの新刊も出るのでその前に『わたしを離さないで』は読もうと思ってますが、なかなか手に取れません(爆)

『f植物園の巣穴』読まれたのですね。日本の作家の感想があると少しホッとします。

それでは、また。

トラキチさん、こんにちは~。TBありがとうございます。
ダニイル・ハルムス、トラキチさんはあまりピンと来なかったのですね。
あ、そうなんですか。男性読者よりも女性読者なんだ。
でもそれ以外は楽しまれたようで良かったです~。

レベッカ・ブラウン、いいですよ!
という私は「体の贈り物」しか読んでないんですが、これは本当にすごくいいです。
柴田元幸さんの訳が多いので、その辺りもいいですよね。
ポール・オースターよりも、一般的に読みやすいのではないかと思います。
という私は、バリー・ユアグローの本を手元に用意してるんですが
これまたなかなか手に取れなくて… 一緒ですね。(笑)
「わたしを離さないで」の感想も楽しみにしてますね。

「f植物園の巣穴」も良かったですよ!
やっぱり日本語の本の方がずーっと読みやすいです。(笑)

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