「アーサー王ここに眠る」フィリップ・リーヴ

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紀元500年頃。ブリテン島南部で、アーサーことアルトリアス・マグナスの軍勢が、バン卿の領地に攻め込みます。アーサーはバン卿の保護と引き換えに多大な貢物を要求したのですが、バン卿はその申し出を拒否したのです。館には火がかけられ、男たちの怒号や馬蹄の音が響き渡っていました。命からがら館から飛び出した下働きの孤児の少女・グウィナは、剣を振りかざした若者から逃げるために川に飛び込み、下流に向かって泳ぎながら逃げ、冷え切った体で陸に上がり、失神。そこに現れたのは、アーサーに仕える吟遊詩人・ミルディンでした。ミルディンはグウィナを近くの小屋に運びこみます。

アーサー王伝説をテーマにした作品はものすごく沢山あって、その描き方は多種多様なんですが、その中でも「伝説はこうだったけど、真実のアーサー王の物語はこうだった」というスタンスの作品といえば、真っ先に思い出すのがバーナード・コーンウェルの「エクスカリバーの宝剣」(感想)に始まるシリーズ。あちらも相当泥臭い生臭いアーサー王物だったんですが、こちらも相当ですねえ。こちらは臭いが漂ってきそうな感じはなかったですけどね。そしてバーナード・コーンウェルの作品と、この「アーサー王ここに眠る」の違う点は、あちらはそういった真実の物語を淡々と綴っているというスタンスなのに対して(主人公が書き綴る物語が、きっとその依頼主によって好きなように脚色されるだろうという予想はあるのですが)、こちらはそういった様々な現実的なエピソードが、生きた物語に変わる瞬間を目の当たりにすることができること。

ということで、真実のアーサー王の言動をその目に見ながら、物語や伝説が生まれていくところも同時に見ることができるという楽しさのある作品です。アーサーが何をしようとも、どんな人物であろうとも、吟遊詩人であるミルディンが作り上げた単純ですっきりした、それでいて魅力的なエピソードの数々によって、人々はアーサーを好きになっていっちゃう。日頃生身のアーサー王を見ている人ですら、それらの物語が本当は真実からはずれた所にあるものだと分かってるはずなのに、それらの物語を真実の上にかぶせてしまいます。それは「人は自分が見えると思うものだけを見て、信じるように言われたことだけを信じる」というミルディンの言葉通り。(塩野七生さんの「ローマ人の物語」のカエサルの部分を思い出す!) そして「おれはあいつの名声をいい健康状態に保ってやってる語り部の医者ってとこだな」という言葉通り。アーサーの生い立ちのことも、エクスカリバーのことも、湖の貴婦人のことも、例えば緑の騎士のことも、大抵はミルディンがお膳立てをした出来事だったり、ミルディンが作りあげた物語。でもミルディンがほんの少し細工をするだけで、あとは人々が作り上げていってくれるんですねえ。実際のアーサーは粗野で乱暴な男だし、グウェニファーもそれほど若くも美しくもなかったのに、人々の記憶の中のアーサーは気高く聡明で勇敢な王者であり、グウェニファーは若く美しい貴婦人となってしまうのです。そういった物語のカラクリを私だって知らないわけでもないのに(笑)、ミルディンの「手品」がものすごく面白くて読みながらワクワクしてしまいました。物語ができていく裏側をこっそりと覗き見ているという感覚が、またいいんですよね。まるで自分もこの作品に参加して、一役買っているような気がしてきちゃう。

「アーサー王、ここに眠る」という題名は、アーサー王の墓碑銘「HIC IACET ARTHURUS, REX QUONDAM, REX FUTURUS(ここにアーサー王眠る。かつての王にして来るべき王)」から。「かつての王にして来るべき王」といえば、T.H.ホワイトの「永遠の王」(感想) を思い出す... 原題が「THE ONCE AND FUTURE KING」なんです。これは相当ぶっとんだアーサー王伝説で、面食らってるうちに終わってしまった感じなんですが、そうと分かって読み返したら、今度はもっとずっと面白く読めるかもしれないですねえ。また今度読み返してみようっと。(創元ブックランド)

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本書の主人公はアーサーではない。主人公はアーサーの軍勢の末端にいる少女グウィナ。グウィナは戦乱の中でアーサーに近しい吟遊詩人のミルディンに拾われたみなしご... » Lire la suite

Commentaires(2)

四季さん、ご無沙汰しています。YO-SHIです。

この本を私も読みました。塩野七生さんの「ローマ人の物語」
を私も思い出しました。
私としては異色のアーサー王の物語だったんですが「真実の
アーサー王はこうだった」という作品は、他にもいくつか
あるんですね。

アーサー王伝説の起源がこの本のようだったとしても、
それを、現代まで伝えてきたのは名もない多くの人々。
そういう意味では、四季さんも私も、伝説の継承に一役
買ってることになりますね。ちょっと楽しいです。
 

YO-SHIさん、こんにちは~。お久しぶりです!

バーナード・コーンウェルの作品も面白いですよ。
あと、そういえばマーク・トウェインも「アーサー王宮廷のヤンキー」
なんていうのも、異色のアーサー王伝説といえそうです。
アーサー王物は大好きなので、見つけると読むようにしてるんですが
きっとまだ知らない異色作品がいろいろあるんでしょうね。
とは言っても、この作品もそうだったというのが驚きでしたけど!
表紙のイメージから、なんとなくもっと幻想的な作品なのかと…(笑)
確かに「ローマ人の物語」的ですね~。

ふふふ、そうやって考えると楽しいですね。>伝説の継承に一役買ってる
作品そのものは作らなくても、読んで、そして伝えて。
そうか、ブログにはそういう意義もあったんですね。^^

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