「死者の百科事典」ダニロ・キシュ

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去年、演劇研究所の招きでスウェーデンを訪れた時のこと。その晩、案内役のヨハンソン夫人に連れて行かれたのは王立図書館でした。夜の11時頃に図書館に入った「私」は、その一晩を一人っきりで図書館の中で過ごすことになります。そして、その図書館で私が見つけたのは、かの有名な「死者の百科事典」。「私」は2ヶ月前に亡くなった父に関すること全てが書かれている本を見つけ、読みふけることに... という表題作「死者の百科事典」他、全9編の短篇集。

先日読んだ、同じくダニロ・キシュの「砂時計」は、実はとても読みにくくて、もうどうしようかと思ったほどだったんですけど(挫折寸前でした)、でも読み終えてみればすごく印象に残る作品だったんですよね。こちらも全てを理解したとは言いがたいし、短編は苦手なので途中で集中力が途切れてしまったりはしたのだけど、逆に短編のせいか「砂時計」の時のような読みにくさは感じなかったです。全体的にとても濃厚な味わいの、愛と死をテーマにした幻想的な作品群。

9編の中で気に入ったのは「魔術師シモン」「死後の栄誉」、そして「祖国のために死ぬことは名誉」かな。表題作も良かったです。死者の百科事典というのは、無名の人々の生涯が事細かに書き綴られている百科事典。「私」が見つけて読むことになるのは、亡くなった父に関する部分なんですけど、その出生から生い立ち、起きた出来事、出会いや交友関係などが正確に細々と書き綴られています。そんなのが全て一々書かれていたら、到底一晩で読みきれるような量じゃないでしょう、なんて突っ込みはナシの方向で、なんですが(笑)、この本文を追っていく作業もいいんです。読んでるはしから、父親像が色鮮やかに形作られていく感じ。でもそれだけなら、ただ追憶に浸る物語となってしまうところなんですが、それが最終的には思いがけない方向へいくのがいいんですよね。これがとても圧倒的。そして視覚的にも鮮やかで。

「魔術師シモン」は伝説、「死後の栄誉」は回想、「死者の百科事典」は娘が語る父の生涯、「眠れる者たちの伝説」はコーランのような聖典風、「未知を映す鏡」は幻想小説、「師匠と弟子」は文学論、「祖国のために死ぬことは名誉」は歴史書、「王と愚者の諸」は推理小説、「赤いレーニン切手」は書簡、「ポスト・スクリプトゥム」はメタ・テキストと、それぞれに形式が違うのは、レーモン・クノーの「文体練習」(感想)によるところも多いとのこと。キシュ自身、「文体練習」をセルビア語に翻訳してるんだそうです。とってもとっても感想が書きづらくて、今まさに困ってるんですが(笑)、でも確かに「文体練習」みたいな万華鏡的な味わいのある作品集だったな、なんて思いますね。(東京創元社)


+既読のダニロ・キシュ作品の感想+
「砂時計」ダニロ・キシュ
「死者の百科事典」ダニロ・キシュ

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