「絵のない絵本」アンデルセン

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とても貧しい絵描きの卵の「わたし」が住んでいるのは、とても狭い路に面した建物の小さな部屋。光がさしてこないということはなく、高いところにある部屋からは、周りの屋根越しにずっと遠くの方まで見渡すことができました。引っ越してきたばかりのある晩、まだ友達もおらず、あいさつの声をかえてくれるような顔なじみもおらず、とても悲しい気持ちで窓のそばに立っていた「わたし」は、そこに良く知っている丸い懐かしい顔を発見します。それは昔ながらの月でした。月はまっすぐ「わたし」の部屋に差込み、これから外に出かけるときは毎晩「わたし」のところを覗きこむ約束をしてくれたのです。そして、わずかな時間ではあるものの、来るたびに空から見た色々なことを話してくれるようになります。

全部で33の月の小さな物語。夏目漱石の「夢十夜」か稲垣足穂の「一千一秒物語」か、はたまた「千一夜物語」かといった感じで、月が自分の見た情景を語っていきます。月は毎晩「わたし」の部屋に来られるわけじゃないし、来られたとしてもいられるのは、ほんのわずかな時間だけ。なので1つ1つのお話はどれも2~3ページと短いのです。でもこれがなんと美しい...!
恋人の安否を占うためにインドのガンジス川で明かりを流す美しいインド娘のこと、11羽のひなどりと一緒に寝ているめんどりの周りで跳ね回っている綺麗な女の子のこと、16年ぶりに見かけた、かつては美しい少女だった女性のこと... 様々な時代の様々な場所での出来事が語られていきます。その眼差しは、全てを静かに見守る母のような暖かさ。そして1つ1つの物語は短くても、その映像喚起力が素晴らしいんですよね。挿絵がなくても、どれも目の前に鮮やかに情景が浮かんできます。そして読み進めるほどにさらに鮮やかな情景が夢のように浮かんできて、それらが一幅の美しい絵となっているような...。「絵のない絵本」という題名も素晴らしいですね。この本って、きっと読者自身の想像力で仕上げをする絵本なんですね。
おそらくこの画家の卵は、アンデルセン自身なんでしょうね。訳者解説によると、この作品にはアンデルセン自身が様々な都市に滞在した時の情景が描き出されているのだそうです。そして、北欧生まれのアンデルセンは明るい南の国イタリアに憧れてやまなかったとのこと。童話集を読んだ時に感じたイタリアへの憧憬は、やっぱり本物だったんですね! この33編、どれも素敵でしたが~。その中でも特に印象に残ったのは、第16夜の道化役者の恋の物語。切なくて、でも暖かくて... 大切に読み続けていきたい本です。^^ (岩波書店)


+既読のアンデルセン作品の感想+
「アンデルセン童話集」1~3 アンデルセン
「絵のない絵本」アンデルセン

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