「幸福な王子」「ドリアン・グレイの肖像」ワイルド

Catégories: / / / /

  [amazon] [amazon]
町の高い円柱のうえに立っていたのは幸福な王子の像。全身うすい純金の箔がきせられ、目には2つのサファイア、刀の柄には大きな赤いルビーがはめられ、非常な賞賛の的。そんなある夜、一羽のツバメがエジプトに向かう途中、幸福の王子のいる町を通りかかります... という「幸福な王子」他、全9編を収めた短編集。と、
画家のバジル・ホールウォードのモデルとなっていたのは、美貌の青年・ドリアン・グレイ。彼は、ちょうどアトリエを訪ねて来たヘンリー卿に自分の美しさを改めて教えられ、同時に美しさを失うことへの恐怖をも植えつけられ、そして快楽主義者であるヘンリー卿の感化で、背徳の生活へと踏み出すことに。しかしその生活による外面的な変化は全て肖像画に表れ、ドリアン・グレイ自身はいつまで経っても若い美青年のままだったのです... という「ドリアン・グレイの肖像」。

先日再読した「サロメ」が思いのほか素晴らしかったので、そちらを訳している福田恆存さんの訳で読みたかったんですけど、「幸福の王子」はどうやら訳してらっしゃらないようですね... 残念。「ドリアン・グレイの肖像」は福田恆存さんの訳なのですが。

「幸福の王子」は、実は子供の頃に大嫌いだった作品なんです。ワースト3に入ってました。何が嫌いって、幸福の王子の偽善的なところ。自分は貧しい人々を助けて満足かもしれないけど、そのために死んでしまったツバメはどうするの...?ですね。王子の思いやりが素晴らしい、なんて思わなかったし~。で、大人になった今読み返してみても、やっぱり凄い話でした。確かにツバメも納得してやってることではあるんだけど... しかも大人になってから読むと、さらに気になることがいっぱい。宝石や金箔を届けられた人は、その場は有難かったでしょうけど、金箔はともかく、立派なサファイアやルビーはどこから取ってきたのか一目瞭然のはず。疑われることにならなかったのかしら? もしそんなことにならなかったとしても、貧しくても正しく生きてきた生活がそれで一気に崩れてしまったりしなかったのかしら? 幸福の王子は、自分の目に見える範囲のほんの数人を助けたけど、その他の可哀想な人々はどうなるの? 全てに責任が取れないのなら、中途半端に手を出さない方がいいのでは?(千と千尋だね!) やっぱり幸福の王子の行動は自己中心的なものとしか映らないなあー。
そして今、他の作品を読んでみてもそういう物語ばかりでびっくりです。美しい言葉で飾られてはいるけれど、自己中心的な人々が純情な正直者を傷つける物語ばかり。赤いばらを欲しがった学生のために無意味に死んでいったナイチンゲールや、粉屋に利用されるだけ利用された正直者のハンス。死んでしまってなお、酷い言葉を投げかけられる侏儒。そんな物語も、オスカー・ワイルドの手にかかるとあまりに美しいのだけど...。オスカー・ワイルドはどんな気持ちでこういった作品を書いたのかしら。多分これが「童話集」でなければ、私も別にそこまで引っかからなかったんじゃないかと思うんですが...。(笑)

そして「ドリアン・グレイの肖像」は、肖像画がその罪を一手に引き受けてくれるという、今読んでも斬新な設定が楽しい作品。画家のバジルは画家ならではの鋭い目で「ひとりの哀れな人間に罪があるとすれば、その罪は、かれの口の線、瞼のたれさがり、あるいは手の形にさえ現れるのだ」と言うんですけど、ドリアン・グレイがいくら悪行を繰り返しても、外見は18年前に肖像画が描かれた時と同じ。顔つきは純真無垢で明るく、穢れをつけない若さのまま。
美貌の青年にとって、その美貌をなくすことは何よりも耐え難いことなんですけど、そのきっかけを作ったのはヘンリー卿。「美には天与の主権があるのだ。そして美を所有する人間は王者になれる」と言いながら、続けて「あなたが真の人生、完全にして充実した人生を送りうるのも、もうあと数年のことですよ。若さが消えされば、美しさもともに去ってしまう、そのとき、あなたは自分にはもはや勝利がなにひとつ残ってないということに突然気づくーー」なんて言うんですね。このヘンリー卿の言葉がどれも面白いし、その印象も強烈。やっぱりヘンリー卿には、オスカー・ワイルド自身が投影されてるのかしら。彼がドリアン・グレイの悪行にまるで気づいていないのが不思議ではあるんですが... 影響を与えた彼自身は快楽主義者としてではあっても、一般的な社会生活からは逸脱してませんしね。うーん、彼こそが本物だったということなのかもしれないな。あと、彼がドリアン・グレイに貸した本が背徳のきっかけになるんですけど、あれは何の本だったんだろう! 例えばマルキ・ド・サドとか?(笑)
そしてこの作品で特筆すべきなのは美へのこだわり。ドリアン・グレイ自身も美しい物が大好きで色々と収集してるんですけど、彼の存在自体がもう美しく感じられますしね。そして作品そのものもあまりに美しい...。とは言っても、その美しさは天上の美しさではなくて、堕天使の魅力なのですが。オスカー・ワイルドの美意識が全開の作品だと思います。(新潮文庫)


+既読のオスカー・ワイルド作品の感想+
「サロメ」ワイルド
「幸福な王子」「ドリアン・グレイの肖像」ワイルド
「ウィンダミア卿夫人の扇」ワイルド

| | commentaire(7) | trackback(0)

Trackbacks(0)

「幸福な王子」「ドリアン・グレイの肖像」ワイルド へのトラックバック一覧:

URL TrackBack de cette note:

Commentaires(7)

ドリアングレイとは懐かしい。留学したての頃に文学の授業で読まされました。現在映画製作中のようですね。ドリアン役はナルニアの「カスピアン王子の角笛」でカスピアン役をやったベン・バーンズだそうですが、なんか、イメージ違うような気もしています。ベン・バーンズは健康的過ぎるというか…。

おお、懐かしいですか~。
私も今回再読なんですけど、いつ読んだのか覚えてないぐらい久しぶりで新鮮でした。
あ、でも読んだのは今回も前回も日本語です。(笑)
Johnnycakeさんは、留学してらしたんですね。それでオーストラリアにいらしたんですか?

ええー、映画化! そうだったですか。知りませんでした。
いや、確かにベン・バーンズは美青年ですけど… うーん…?
そうですよねえ、健康的すぎますよねえ。
もっと影のある… というか何ていうか、どこか凄みを感じさせる美貌の男性、いませんかね。
若くて綺麗なだけじゃちょっと難しい気がします… せめてあと5年後?(笑)

「幸福の王子」私も子どもの頃、大嫌いでした。
フツーに貧乏な人が宝石を持っていて「換金して下さい」と言っても、
あからさまに怪しくて、疑われない方がおかしいですよね。
王子の偽善者っぷりに激怒していた記憶が甦ります。
そして、恥ずかしながら私、
「幸福の王子」ってグリム童話かと思っていました!
グリムもあまり好きではないので、同じ傾向でまとめてました・・・。

おおー、菊花さんも大嫌いでしたか。お仲間!(笑)
あ、グリムだと思ってたっていうの、すごく分かります。
私もグリムはイマイチなんですが、どちらも同じ匂いがしますよね。
イギリスとドイツで同じ匂いっていうのも妙な話なんですけど
でも私も子供心に、すごくグリムっぽいなと思ってたんですよ。
確かに同じ傾向です!!

今回改めて読んだら印象は変わるかしら?なんて思ったんですけど
やっぱり変わりませんでしたよ。
もっと行間の諸々を汲み取るべきなのかもしれないですけど…
まあ、これはこれでいいとします。(笑)

「ドリアン・グレイの肖像」、私の文庫本には、ヘルムート・バーガーの映画の写真が印刷されていました。それを見た高校の先輩がさも知り合いのように、『ヘルムートじゃん』と言ったことが忘れられません。彼の「ドリアン・グレイ」が見たかったです。

そうなんです。2年の留学予定がいつの間にか永住になってしまったという…。

もっと影のある… というか何ていうか、どこか凄みを感じさせる美貌の男性、いませんかね。
若くて綺麗なだけじゃちょっと難しい気がします… せめてあと5年後?(笑)

おっしゃる通り凄みがないといけませんね。ベン・バーンズは美青年ではありますが。

他の方もおっしゃてますが、私も「幸福の王子」ってグリムだと思ってました。
サン・スー・シー宮殿ってドイツの宮殿じゃ?

>きゃろるさん
あ、ヘルムート・バーガーもドリアン・グレイをやったことがあったんですねー。
その映画については、全然知らなかったんですが
ヘルムート・バーガーといえば、私の中ではルートヴィヒ!
あの視線の妖しさからいけば、ドリアン・グレイもなかなか良さそうな気がします。
わあ、ちょっと観てみたくなっちゃいますね。


>Johnnycakeさん
ふふ、永住したくなるような出来事があったというのが素敵です~♪

ベン・バーンズ見たさに「カスピアン王子のつのぶえ」を観にいった私なんですが
やっぱり映画を観なくてもポスターだけで十分じゃなかったかしらなんて思ってしまって…
ほんと美青年なんですけどねえ。何か足りないんですよねえ。

おお、「幸福の王子」グリム説?!
そうか、サン・スー・シー・宮殿のせいだったんですね。
もしかしたらオスカー・ワイルドもグリムを意識してたのかもしれないですね。

コメントする(要JavaScript)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.