「にいさん」いせひでこ

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オランダの貧しい牧師の息子として生まれたヴィンセント・ヴァン・ゴッホとその弟のテオ。「とうさんのような人になりたい」と語る兄と、にいさんのような人になりたいと思う弟。学校を出た兄は画廊に勤め、絵に囲まれて働く喜びがあふれる兄の手紙に、弟も16歳になると迷わず画廊に就職。しかし牧師である父のようになりたいという思いも捨てきれなかったのです。兄はやがて解雇され、様々な職につくもののうまくいかず何度も挫折を経た後、やがて絵描きになる決意を固めます。

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホとその弟のテオの物語。まずこの絵本で目を奪われるのはその色彩。表紙の黄色も印象的ですが、中はもっとすごいです。これほどまでに深みのある青とそして鮮烈な黄色の対比とは...。
伊勢英子さんは1990年からずっとゴッホの足跡をたどる旅を続けているのだそうで、エッセイ「ふたりのゴッホ」、絵本「絵描き」、実の妹さんと共訳したという「テオ もうひとりのゴッホ」を経て、どうしても描きたかった物語がこの絵本として結実したとのこと。その思いがすごく伝わってくる絵本です。ゴッホから弟に宛てた700通近い手紙から伊勢さんが感じたという「誠実に生きようとすればするほど、節度のない過剰な人間と見なされて居場所を失っていった彼の生きづらさと、白い画布以外に自分らしく生きられる場所がないという痛切な叫び」が、こちらにまで痛いほど伝わってきます。天才肌の芸術家と一緒に暮らすというのは、本当にものすごく大変なんでしょうね。しかもそれが実の兄ときた日には... 兄を愛しながらも困惑し続けたであろうテオ。テオの送る金でゴッホは旅を続け、パリのテオのアパートに押しかけて、アパートを絵の具だらけにしながら習作で埋め尽くし、客が来れば誰彼構わず議論をふっかけて、テオの生活をめちゃくちゃにしてしまいます。そしてアパートを出てからも、金や絵の具や筆、キャンバスを無心し、借りた金を自分の描いた絵で返すという身勝手さ。しかしその絵は決して売れることがないのです。自分の欲求に素直に生きることしかできない兄に対して、「ぼくはきみのエゴイストぶりにあこがれながら、そのすさまじさをにくんだ」という文章が心に突き刺さるようです。
この青や黄色の色の強さは素晴らしいですね。命がこもってるようです。私が見ているのはあくまでも絵本であって、原画ではないのに、それでも魂を吸い取られるような気がしたし、物語の中にも引きずり込まれました。これで原画だったらどうなってしまうんだろう? 強烈に伝わってくるものがある絵本です。(偕成社)


+既読の伊勢英子作品の感想+
「ルリユールおじさん」「絵描き」いせひでこ
「旅する絵描き パリからの手紙」伊勢英子
「グレイがまってるから」「気分はおすわりの日」伊勢英子
「マキちゃんの絵にっき」「ぶう」伊勢英子
「カザルスへの旅」伊勢英子
「はじまりの記憶」柳田邦男・伊勢英子
「1000の風 1000のチェロ」「雲のてんらん会」いせひでこ
「空のひきだし」いせひでこ
「むぎわらぼうし」竹下文子・いせひでこ
「大きな木のような人」「ルリユールおじさん」いせひでこ
「にいさん」いせひでこ
「ざしき童子のはなし」「よだかの星」「風の又三郎」「水仙月の四日」宮沢賢治・伊勢英子

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Commentaires(2)

四季さん、おはようございます。
いせさんはゴッホの足跡をたどる旅を続けられているんですね。
>原画ではないのに、それでも魂を吸い取られるような気がしたし、物語の中にも引きずり込まれました。
強烈に読んでみたくなりました!
そうそう、いせひでこさんに目の障碍があることをつい最近知ったのですが、本当にびっくりしたんです。
作品を少しずつ大切に読んでいきたい方の一人です。

はぴさん、こんにちは~。
伊勢さんのゴッホを辿る旅は、この絵本で完結かもしれないです。
それだけの渾身の力が籠もってることを強く感じる作品でしたよ。
もうほんと、読み進めるのがツラいほどでしたもん。すっかり魂を持っていかれましたし…
そうそう、右目の視力を失ってらっしゃるんですよね。
左目だけでももちろん見えることは見えるけど、かなり負担がかかりそうですよね。
でもそんなことを感じさせないです。
いや、むしろそういう出来事があったからこそ、生まれた作品なのかもしれないですね。
「ルリユールおじさん」や「大きな木のような人」も大好きなんですけど
これは、またそちらの作品とは全然違ってました。
はぴさんも、ぜひぜひ!

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