「色で読む中世ヨーロッパ」徳井淑子

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コンピューター・グラフィックスを駆使して制作された映画「シュレック」は、実はヨーロッパ中世文明がはぐくんだ色のイメージを見事に使っている映画なのだそうです。シュレックの醜さを強調しているのは、やや黄色味を帯びた緑の顔の色であり、夜になると醜く変身してしまうフィオナ姫も同様。しかし昼間の美しいフィオナ姫は、深く落ち着いた緑色のドレス姿。このように相反する美醜をいずれも緑で表現しているのが、中世ならではの色の世界。中世の緑色は、春の自然の美しさを表し、青春と恋愛を示す色であると同時に、混乱と破壊を示す悪魔の色。こういった中世ヨーロッパの人間が共有した色彩に対するイメージや、それぞれの色に付加された意味合いを知ることを通して、中世の人々の心の世界と社会のありかたを探っていく本。

本来中世とは西ローマ帝国が滅亡した5世紀後半からビザンティン帝国が滅びる15世紀半ばまでを示す言葉ですが、本書が対象としているのは12世紀から15世紀まで。ロマネスク様式からゴシック様式となった聖堂に色鮮やかなステンドグラスが作られ、美しい写本が次々と制作され始めたのが12世紀後半で、その頃から世俗の文学作品や造形芸術の創作にも色が登場してきたんですね。
中世で最も美しく鮮やかと考えられていたのは赤であり、最も汚い色は黄褐色。最も目立たない色は淡紅色。白や赤、青の色のイメージがいいのは分かるけど、緑や黄色は負のイメージが強い、というのは意外でした。確かに黄色には「嫉妬深い」なんて意味もあるし、まだなんとなく分かる気もしますが... 実は犯罪者の烙印の色であり、人を蔑視する色であり、ユダヤ人を区別する色でもあり。ヨーロッパでは長い間忌み嫌われてきた色なんだそうです。黄色は金色に通じるかと思ってたんですが、銀が白に通じても、黄色と金色が同一視されることはないのだとか。でもでも、緑は新緑の色じゃないですか! そりゃあ「green」にだって嫉妬とかそういう負の意味はあるし、他にもアーサー王伝説に登場する緑の騎士とか、妖精関係とか、ちょこちょことありますけどね。でも五月祭や聖パトリックの祝日なんて緑の日じゃないですか。ロビン・フッドとその一味だって緑の服が定番だし! でも陽気な青春の色であり、恋と結婚の色であり、生命の誕生と再生の色である緑ではあっても、同時に移ろいやすい未熟な色であり、混乱と破壊、淫乱と怠惰の色でもあるのだそうです。しいては悪魔の色。(そこまでとはね) まあ、染色で緑色を出す難しさも絡んでいたようなんですけどね。青に染めて次に黄色で染める、という二重の工程が必要なので高価だったというのもあって。(自然の色から、すんなりと緑を染めることができないというのは、志村ふくみさんの本にもありました)

色のイメージを知ることによってその暗示するところを知るという部分では、たとえばアーサー王伝説のうちの1つ、トリスタンとイズーの物語には、「金髪のイズー」と「白い手のイズー」が登場するんですけど、金色はそれだけで美しく高貴な人物であることを示すもの。でも「白い手のイズー」の白は、その美しさと同時に、形ばかりの妻という「白い結婚」を示唆するものでもあり... そういうのもすごく興味深かったですし。あと、色の組み合わせも。たとえば黄色と緑はどちらも負のイメージが強い色で、その2つを組み合わせると否定的な意味は一層強力になるんですが、たとえば物語や絵画に登場する騎士が黄色と緑の紋章を使っていたら、それは常軌を逸する人物だという暗示。そして黄色と緑の衣服といえば、道化服のミ・パルディ。ミ・パルディというのは、たとえば右半身が緑で左半身が黄色、というような全く違う2色使いをした服のことで、これは道化師の服の定番なんですが、道化が着るだけでなくて、一般の人々も政治的な意図で着用することがあったようなんです。たとえばシャルル6世妃となるイザボー・ド・バヴィエールをパリ市に迎え入れる時、市民はみんな赤と緑のミ・パルディを着たのだそうです。赤と緑はクリスマス... じゃなくてシャルル6世の色であり、王への恭順と王妃への歓迎を表すもの。即位式の時なんかも、王の色を2色身にまとうことによって王への恭順の意を示したんだそうです。でも他国の権力者を迎え入れる時は、パリ市の紋章の色を身につけて歓迎の意を示したり。
なぜ2色かといえば、2色使いが流行ってたかららしいんですが(笑)、そもそも沢山の色を使うことは気紛れを表すことで、よくないんですって。品も良くないし、人格も疑われるんだとか。そして同じ2色使いでも縞柄になってるとまた大変。これは娼婦のしるしとなり、身持ちの悪さを表してしまうのだそうで...。

そんな話が満載の本で、すごく面白くてメモを取りまくってしまいました。こういった知識があれば、中世の文学作品だけでなく、絵画作品も一段深く理解し楽しむことができますね。というかそういう作品に触れる時にはこういう知識も必須なんだなあ。読んで良かった!(講談社選書メチエ)

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