「創造者」J.L.ボルヘス

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1954年から59年にかけて散文や詩の小品を書き、雑誌に発表していたボルヘス。ある日エメセー書店の編集者が訪れて全集の9巻として加えるべき原稿を求められ、その時は用意がないと断るものの、執拗に粘られて、已む無く書斎の棚や机の引き出しをかきまわして原稿を寄せ集めることになったのだとか。そして出版されたのがこの「創造者」。ボルヘス自身が最も気に入っていたという作品集です。

読み始めてまず驚いたのは、何よりも読みやすいということ。「伝奇集」が途中で止まったままだというのに、こちらは一旦読み始めたら、もう止まりませんでした。うわーん、面白かったーー。確かに、ここ数年でダンテの「神曲」も、アリオストの「狂えるオルランド」も読んだし、北欧神話関連も本が入手できる限り読んでいるし、ギリシャ神話関連もそう。ギリシャ悲劇だって、今の時代に読める作品は全部読んだし。ホメロス「イーリアス」「オデュッセイア」も再読したし、ミルトン「失楽園」も... って関係あるかな? 以前よりも理解できる素地が少しは整ってきているのかとも思うのですが。訳者解説を読むと、「伝奇集」や「不死の人」「審問」などの作品には、ボルヘスの個人的な感情の発露がほとんど見られないのに、こちらでは肉声めいたものを聞くことすらできる、とのこと。やっぱりそういうのも関係もあるんでしょうね。
ボルヘス自身、とても気に入っている本なのだそう。「驚くべきことに、書いたというよりは蓄積したというべきこの本が、わたしには最も個性的に思われ、わたしの好みからいえば、おそらく最上の作品なのである。その理由は至極簡単、『創造者』のどのページにも埋草がないということである。短い詩文の一篇、一篇がそれ自体のために、内的必然にかられて書かれている」...ボルヘス自身、全ての作品をできれば5、6ページ程度に縮めたいと語っていたそうです。確かにここに収録されている作品は、それぞれにエッセンス的な濃密さを感じさせますね。カルヴィーノの文学論とはまた違うものだとは分かっていても、どこか通じるような気がしてきたり。
読んでいて一番好きだったのは

文学の始まりには神話があり、同様に、終わりにもそれがあるのだ。(P.67)

この言葉。
ああ、この夏のうちに「伝奇集」を読んでしまおうっと!(岩波文庫)


+既読のホルヘ・ルイス・ボルヘス作品の感想+
「創造者」J.L.ボルヘス
「エル・アレフ」「伝奇集」ホルヘ・ルイス・ボルヘス
「幻獣辞典」ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ

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Commentaires(7)

私もちょうどこの本を読んだところでした。
「伝奇集」や「不死の人」が好みだった私にはこちらの方が読みにくかったです。
いや面白くなかったわけではないのですが。
この作品集には「伝奇集」や「不死の人」でほとんど見られなかった感情の発露がみられ、その点でボルヘスのイメージが少し変わったかもしれません。

「続審問」も買ってきました。でも読むのはもうちょっとあとになりそうです。

わ、おもしろそうですね。
にしても、『伝奇集』、止まったままですとー?!
おもしろいのに…。w
今度わたしが「創造者」読みますから、交換読書会、しません?w

>piaaさん
あ、piaaさんのとこのComing Soonに「創造者」がありましたよね。
感想を拝見するのを楽しみにしていたのです~。アップされたんですね!
後ほど、ゆっくりお伺いいたしますね。ちょうどムーミンも2冊読んだとこですし。(笑)

そうですか、piaaさんは、こちらの方が読みにくかったですか。
やっぱりその辺りは、人によって違うのですね。ふむふむ。
でも、そうですね、感情の発露。
この本からボルヘスに入ったら、ちょっとイメージ変わるかもしれないですね。


>ちょろいもさん
面白かったです~。ものすごくものすごく!好みでした。
でもそうなんですよ、「伝奇集」。前半を読んだところでやめてしまった覚えが…
やっぱりあれですかね? SF系が苦手というのが密かに関係してるんでしょうか。
でも今回ものすごく面白かったので!
勢いづいて「エル・アレフ」を読んでしまいましたよ。
…なぜ「伝奇集」じゃないんだ? とセルフ突っ込み中。
あーでも「伝奇集」も読みますからね! ちょろいもさんは「創造者」をぜひーー!

表紙の写真がうまく撮れてますよね。ちょっとはまりすぎなくらい。
岩波文庫版ボルヘスは、「伝奇集」も鼓直の訳ですが、こっちのほうが読みやすい気がしました。
そして、岩波文庫は「続審問」も出したのか…ついに。
中村健二訳なんで、私の持ってる、ずうっと昔に出た晶文社のと同じ訳なのかなあ。
国書刊行会のボルヘスコレクションの「最後の一冊」として、何年も前に新訳の予告が出たまま、放置状態になってたんですがw

「伝奇集」と「続審問」が、たぶんボルヘスの世界デビューになってて、ラテンアメリカからこのような超衒学的な存在が出現したことが、当時はすごい驚きだったにちがいないです。
全然何の先入観も持たずに(いわゆるボルヘス的迷宮のイメージなしで)、「伝奇集」を読むと、やっぱり衝撃は大きいですから。

「創造者」は逆に、ボルヘスという人のイメージ…とりわけ、これほど本を愛し、本に愛された人が盲目になってしまうこと、ために、バベルの図書館は、キリストのいう神の神殿のように、心の中に移されるということ…を知って読むと、感動は深いです。

私がボルヘスで一番おすすめなのは、「七つの夜」という晩年の講演集。
本を読むということが、人にとってどういう行為なのか、実際に生きて示してくれる…文字通り、文学の「先生」であるボルヘスがここにいます。
もう「続審問」のような衒学ぶりは発揮できず、書物は完全に内面化され、空想と現実はシームレスになっています。
音と文字の差異もあいまいになって、イメージとヴィジョンは交換可能なものと化していたかも。
「赤」という色がどんな色だったか、よく思い出せない…というような話が、象徴的でもあり、そのまま生の哀切さもあって、心に残りました。
私も最近、京都を離れて、京都が現実ではなく、内面のうちに実在する魔法都市になってきていますが(;・∀・)

ボルヘスは、見えなくなってからも、本棚のどこにどの本があるかわかっていたそうですが、実際には、現実の本棚よりかはるかに巨大な図書館を、我知らず構築していたかもしれません。
行ってみたいなあ、ボルヘスの内面の図書館。

overQさん、こんにちは~。
ほんとこの表紙の写真、いいですね。
ホテルで撮ったとのことですが、これ以上の場所が思いつかないぐらい。
すごいなあ、ボルヘスだなあ、なんて思いながら見てしまいます。

「続審問」の「続」というのがすごく気になってたんですけど
「審問」という作品があるわけではなさそうですね?
晶文社で中村健二訳といえば、「異端審問」と同じ作品のことなのでしょうか?
それでいえば、平凡社の「エル・アレフ」と白水社の「不死の人」も同じ??
なんだかわけわかんないんですけどー!!

「七つの夜」、読みたいです! でも市内の図書館に置いてないのですー。
市外の図書館で探してもらうこともできるんですけどね。
なんか最近期限付きで読むのがしんどくて。(市外の本だと延長もできないので)
これは自分で買ってしまうしかないかもーー?

>本を読むということが、人にとってどういう行為なのか、実際に生きて示してくれる…

これはじっくり読みたくなりそうですね。お勧めありがとうございます。探してみます。

「バベルの図書館」は、ボルヘスの内面に構築されていたのですね。
以前一度読んでるのですが、あまり覚えてない…
もう一度伝奇集を最初から読む時には、その辺りも心に留めておかなくちゃ。
そしてoverQさんも、内面に魔界都市京都を構築されてたんですねー。
(あれ、魔法? 魔界ではないですか? 笑)
離れてみて、初めて見えてくるもの、というのもあるんでしょうね。
実際に京都にいた時と、視点が微妙に変わったりするのでしょうか?
よく思い出せないものは、きっと本当の意味では必要ないもの…
ボルヘスの内面の図書館にもoverQさんの内面の京都にも行ってみたいですが
私なんぞはまだまだ修行が足りなさすぎて、翻弄されるだけで終わってしまいそう。
もうちょっと自分の足場を固めてから行きたいです。(笑)

今更なのですが、たまたま通りすがってしまったので。
「伝奇集が途中で止まってしまっている」そうですが(今もそうなのかは分かりませんが)、
日本語訳がひどいというのもあると思われます。

ボルヘスによるスペイン語の原文は、一語一語が美しく吟味されていて、難しい内容が完全には分からないままでも頭に入ってくるといいますか、概念の流れが整理されていて、決して難渋な印象ではないのですよ。ある意味で「一見軽快だが実は凄い」タイプの文章といえます。しかし鼓直訳はどれもこれも、流れるような観念の連鎖を殺してしまっており、はっきり言って日本語としてのレベルが高くありません。原文を読まないと意味がよく解らん所も散見されます(もちろんひどい誤訳もあります)

なので、現状の日本語版伝奇集を読んでもボルヘスを読んだ事にはならないといわざるを得ないかと。
ちなみにボルヘスの小説作品はどうにも翻訳の酷いのが多く、新訳の「エル・アレフ」とかビオイとの合作「イシドロ・パロディ」なんかも相当ダメな感じです。「幻獣辞典」ぐらいですかね。ボルヘスらしさがちゃんと生きて届いてるのは。

るていさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

その後「伝奇集」は読了したのですが
内容を楽しむ以上に、読み終えた充実感が大きかったかも…(笑)
そうですか、やはり日本語訳に問題が。
そしてスペイン語の原文では「一見軽快だが実は凄い」タイプだったとは!
てっきり原文でも難解なのかと思ってました。(笑)
原語で読めるといいでしょうねえ。
そういえば、大学時代にスペイン語が第二外国語だったのですが…
それから一体何年経過したことやら… すっかり忘却の彼方です。

ああ、あの「幻獣辞典」のあの雰囲気がボルヘスらしさなのですね。
なるほど。仰ってる意味が分かる気がします。
ありがとうございます♪

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