「河童 他二篇」芥川龍之介

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ある精神病院の患者第23号が誰にでも話す話。彼は、3年前に1人で上高地の温泉宿から穂高山に登ろうとした時に、河童の世界に転がり込んでしまったというのです... という「河童」他、「蜃気楼」「三つの窓」の全3編。

中学の頃以来の再読。「河童」という作品は、一種のユートピア小説に分類されるようです。日本の昔話では「浦島太郎」とか「海幸彦山幸彦」なんかがお馴染みですね。陶淵明の「桃花源記」なんかもそう。芥川龍之介が東大英文学科の卒業論文で取り上げたというウィリアム・モリスも、「ユートピアだより」(感想)なんてユートピア小説を書いてます。でも「河童」は、そういった理想の世界を描き出す作品ではなくて、例えば「ガリヴァー旅行記」のように、現実に対する風刺を中心とする作品。
河童の国では、人間が真面目に思うことを可笑しがり、可笑しがることを真面目に思うんですね。正義とか人道といったことを聞くと河童は腹をかかえて笑い出すし、産児制限についての話も笑いの種となるんです。河童の赤ん坊は、この世に生まれたいかどうか自ら選ぶことができます。生まれる前から、ものすごくしっかりしてる河童の赤ちゃん。芥川龍之介は、自分も生まれるかどうか選びたかったと思ってたのかな...。あと、生まれた最初はとても年を取っていたのに、だんだんと若返っていく河童の話もあったなあー。ミヒャエル・ゾーヴァとアクセル・ハッケの「ちいさなちいさな王様」みたいに。
河童の国での様々なことが語られるんですけど、その中でも特に強烈だったのは、製本工場の話。本を造るのに、ただ機械の漏斗型の口に紙とインクと灰色の粉末を入れるだけで、無数の本が製造されて出てくるというもの。しかもその灰色の粉末というのは、驢馬の脳髄を乾燥させたもので、ものすごく安価なものなんです。芥川龍之介は自身の書いた作品にも、その程度の価値しか認めていなかったのかしら...。
芥川龍之介が自殺したのは、「河童」を書き上げた5ヵ月後。私にはこの「河童」はユートピア小説ではなかったです。現実に対する風刺というより、もうこれはそのまま芥川龍之介自身のことなのでは? 上に書いたことだけでなく、どのエピソードも芥川龍之介自身と重なるようで、読みながらもうなんだか痛々しく哀しくて仕方ありませんでした...。そう思って読むと、「蜃気楼」や「三つの窓」にも不吉に感じられるモチーフが散りばめられていますしね。これは芥川龍之介の叫びだったのでは?(岩波文庫)

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Commentaires(2)

 おはようございます。
 「河童」ずいぶんと昔々の学生の頃に読みましたが、なんだかギャグっぽい作品だなぁというイメージ(笑えるかというと、なんだか笑えはしなかったんだけれど滑稽な風には感じた)しか持っていませんでした。なので、その五ヶ月後の自殺から考えたら、、と改めて読み返すとまた全然印象が違うのかも知れません。
 死ぬ五ヶ月前ともなると何かしら自分自身に関して死の影というのは感じている,もしくはずっと考えているでしょうからねぇ。作品にまったく出ないというのはあり得ないでしょうし。
 いつこちらへお邪魔させていただいても思うんですが、古今のいわゆる文豪の作品って一度四季さんのようにちゃんと体系的に読むとまた違った深みや面白みを感じられるんでしょうねぇ。

樽井さんーーー、大丈夫ですか!!
いや、来て下さってるってことは大丈夫なんですよね?
おはようございます&ありがとうございます♪

私も「河童」は中学の頃に読んだんですけど、その頃は一体どんな風に読んでたんだか…
ああ、笑えないけど滑稽な感じ。私の場合も、それが一番近かったような気がします。
でもね、生まれるつもりがあるか赤ん坊に聞くとことか、すごく強烈だったのはその頃と同じなんですけど
今回は読みながら、もうなんだか本人に重なって重なって…
そしたら、本当にその5ヶ月後に自殺していたとあって、逆にびっくりだったんです。
やっぱりそういう意識が滲み出てるような気がします。5ヶ月前ですものね。
樽井さんが再読されても、きっと学生時代とはまた違う印象を受けると思いますよー。
…これで5ヶ月後に自殺、という情報がインプットされてしまったわけですが。てへ。

あー、体系的。でもね、実は日本文学に関しては全然ダメなんですよ、私…
少しずつ読んでいきます~。(そしていつかは体系的に!)

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