「ブリタニキュス/ベレニス」ラシーヌ

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皇帝ネロンが寝ている部屋の戸口で番をするかのように待っていたのは、ネロンの母・アグリピーヌ。自室に戻るように言われたアグリピーヌは、自分が日一日と邪魔者にされつつあること、ネロンがとうとうブリタニキュスに向かって牙をむいたこと、そしてブリタニキュスの恋人・ジュニーをかどわかしたことを、腹心の侍女に向かって訴えます... という「ブリタニキュス」。
ベレニスに密かい会いにきたのは、コマジェーヌの王・アンティオキュス。彼は以前からベレニスを愛しており、しかしベレニスと皇帝ティチュスが相思相愛のため、口を閉ざしたまま、この5年間ローマに滞在していました。しかしティチュスが皇帝に即位し、とうとうベレニスを妃にするつもりだということを聞き、ベレニスに別れを告げに来たのです... という「ベレニス」。

ラシーヌの、古代ローマを舞台にした悲劇2つ。「ブリタニキュス」では、皇帝「ネロン」なんて名前になってますけど、これはネロのことです。それまでは一応善政を敷いていたネロが暴虐と狂気の道へと突き進むターニングポイントとなった物語、でいいのかな? 既に実の母・アグリピーヌの存在を疎ましく思ってるし、妻・オクタヴィーとは上手くいってないし、義弟のブリタニキュスとジェニーと仲を妬んでるんですね。で、ジュニーをかどわかすんですけど、このジュニーにすっかり心を奪われてしまって...。ネロンがジュニーに惹かれたのは、ただ単にブリタニキュスとジュニーの関係への羨ましさからなんですよね、きっと。もしジュニーの心が手に入ったら、その途端、どうでも良くなっちゃったんじゃないかなあー。ここに描かれてるネロって、なんだかただ単に愛情不足で育ってしまった子供みたい。やっぱりあのお母さんが普通のお母さんじゃなかったというのが不幸の始まりかも。帝王教育はしてくれても、何かあった時にぎゅっと抱きしめてくれるようなお母さんじゃないですものね。(と勝手にイメージしてますが)

そして「ベレニス」は、ローマ市民が異国の女王であるベレニスの存在を認めないという理由から、相思相愛であるベレニスとティチュスが別れなければならなくなるという悲劇。物語の中心となるのはこの2人なんですが、キーパーソンとなるのは、ベレニスに密かに思いを寄せ続けていて、しかもティチュスからの信頼は厚いアンティオキュス。
ベレニスが愛しているのは、ティチュスという1人の男性。相手が栄えあるローマ帝国の皇帝であるということは、彼女にとっては二次的な問題でしかないんですが、ティチュスは彼女を愛しながらも、ローマ帝国のことを頭から振り払うことができないんですね。そういう誠実な男性だったからこそ、彼女も惹かれたというのはあるんでしょうけど...。ただ愛し愛されることだけを望んできたベレニスにとって、自分がローマ帝国と天秤にかけられることはその誇りが許さなくて。そして相思相愛の2人の前に今まで沈黙を守ってきたアンティオキュスは、動揺する2人を前にとうとう心情を吐露してしまうことに。
3人が3人ともそれぞれに相手のことを誠実に真っ直ぐに愛しているのに、一旦その愛情が捩れて絡まり合ってしまうと、結局は苦悩しか生み出さないんですねえ。3人の思いがそれぞれ切々と迫ってきます。そしてティチュスの「ああ、父上がただ、生きていて下さったなら!」という言葉。ラシーヌの悲劇は4つ読みましたが、これがダントツで好き。緊迫感たっぷりで、素晴らしいー。おそらく実際に演じられる舞台でも観客を呑み込まずにはいられなかったのでは。そして、この作品を読んで、とても読みたくなったのが「ローマ人の物語」のティトゥス部分。思わず「危機と克服」の巻を読み返してしまいましたよ。テイトゥスとベレニケのことについてはほとんど何も書かれてなくて残念なんだけど、そのお父さんのヴェスパシアヌスは、やっぱりかなり好き♪(岩波文庫)


+既読のラシーヌ作品の感想+
「フェードル/アンドロマック」ラシーヌ
「ブリタニキュス/ベレニス」ラシーヌ

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