「ローマ人の物語 賢帝の世紀」24~26 塩野七生

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この巻で取り上げるのは、紀元98年から161年まで、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの3人の皇帝の時代。20年の治世であらゆる分野で多大な業績をあげたトライアヌス帝ですが、同時代のタキトゥスは「まれなる幸福な時代」という一行を残したのみ。同じくこの時代を生きたスヴェトニウスも何も書かず、しかし同時代のローマ人も「黄金の世紀」と呼び、後世「五賢帝時代」と呼ばれるようになったこの時代。賢帝とは何であったのか、どのような理由でローマ人は賢帝と賞賛したのか、ということを見ていく巻です。

これまでタキトゥスの「歴史」「年代記」「アグリコラ」「同時代史」を元に自分なりの解釈をしつつ書き進めてきた塩野七生さんですが、ここにきてタキトゥスが何も書いていないので、相当戸惑ったようです。タキトゥスの没年は120年とされているので、117年までのトライアヌス帝の治世についても書こうと思えば書けたはずなのに、実際に書いているのはドミティアヌス帝の暗殺まで。同時代人のスヴェトニウスも「皇帝伝」でドミティアヌス帝までしか触れていないし、200年後にその続編を書こうとした6人の歴史家たちが書いた本も、書き始めはハドリアヌス帝から。1 年半ほどの治世しかなかったネルヴァはともかく、あらゆる分野で多大な業績をあげているはずのトライアヌスが全然書き残されていないなんて!
でもそんなトライアヌス像が、塩野七生さんによって鮮やかに描き出されていきます。ここに描かれているのは、初めての属州出身の皇帝だからと、黙々と人並み以上にがんばってしまったトライアヌスの姿。賢帝と言うにはあまり華がないように思えるトライアヌス帝なんですが、それでもトライアヌス円柱と呼ばれる戦勝記念碑に刻まれた浮き彫りに見るダキア戦記や(この円柱の全貌を見てみたい!)、当時建設されたという橋の図面からも、その有能さが分かります。
そしてトライアヌスの次は、トライアヌスが代父となっていたハドリアヌス。この人物の治世は21年。でもその21年のうち、本国イタリアにいたのは7年だけなんですね。皇帝の位についた当初こそローマに留まっていたものの、45歳から58歳までの13年間のほとんどを視察の旅で属州を巡行。常に皇帝としての義務を果たしつつ、トライアヌスが拡大した帝国内をくまなく巡察し、既存の公共施設を修理、国境の防衛線を強化、地域ごとの問題を解決、さらには徹底した法の整備まで。疲れを知らないその働きぶりに、即位直後の危険分子との粛清というマイナスイメージもいつしか払拭されることに...。この巻で興味深いのは、ハドリアヌス帝後半でかなりのページが割かれているローマ人とユダヤ人の意識の違いについて。ユダヤ人についてもある程度は知っているつもりでしたが、まだまだでした。これほどの意識の差があったとは正直びっくり。
そして取り上げられている3人の賢帝のうちの最後は、アントニヌス・ピウス。晩年首をかしげられるような行動が多かったハドリアヌスの神格化を1人訴えていたことから、ピウス(慈悲深い)という名前がつけられたというこの人物は、様々なことに目を配りつつも現状維持で賢帝となった人物。何もしていないので、あまり書くべきことも多くなくて、割かれているページも50ページ足らずなんですが、それでもその人柄の良さと頭の良さは十分伝わります。しかし逆に大改革を推し進めるためには、アントニヌス・ピウスではなくて、ハドリアヌスのような性格が必要だったということもよく分かります。

今回一番印象に残ったのは「ローマの皇帝たちの治世は殺されなくても二十年前後しかもっていないが、それも激務によるのかもしれない」(24巻P.248)という言葉。確かに長くても大体20年前後ですね。やっぱりそれだけローマ帝国の統治は大変だったんだなあー。と、納得。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず」1・2 塩野七生
「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」3~5 塩野七生
「ローマ人の物語 勝者の混迷」6・7 塩野七生
「ローマ人の物語」8~10 塩野七生 「ガリア戦記」カエサル
「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前」8~10 塩野七生(再読)
「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以降」11~13 塩野七生
「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ」14~16 塩野七生
「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」17~20 塩野七生
「ローマ人の物語 危機と克服」21~23 塩野七生
「ローマ人の物語 賢帝の世紀」24~26 塩野七生
「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」塩野七生

+既読の塩野七生作品の感想+
「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」塩野七生
「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」塩野七生

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