「妖精の誕生 フェアリー神話学」トマス・カイトリー

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日々身の回りでおきる様々な現象や出来事を見ると、何か知性のある存在の仕業と思い込みたくなるのが人間の常。深遠な哲学者がその原因と結果の連鎖を果てしなく辿っていくと、最後には「神」とも呼ばれるもっとも偉大な知性にまでさかのぼることになりますが、大抵は、先祖代々受け継いできた信仰が存在を認めているものを直接の原因とみなすことになります。そしてその「先祖代々受け継いできた信仰が存在を認めているもの」こそが、人間と共にこの大地に住む存在であるフェアリー。フェアリーという概念やその言葉の起源、そしてフェアリーの物語がどのようにして生まれ、伝わっていったか。ペルシアやアラビアといった東洋のフェアリー物語に始まり、ヨーロッパのほとんど全土のフェアリーの特徴が国別・地域別に、伝説や民話の紹介を交えて紹介していく本です。

ヤコブ・グリムやゲーテも賞賛したというこの本は、19世紀に書かれた本。オクトパス・ブック社の「魔術と迷信の百科」のフェアリーの項にも「世界中のフェアリーの特徴を調べたい人は、トマス・カイトリーが書いた『フェアリーの神話学』を読むことからはじめるのがいちばんよい。これは百年以上も前に書かれたが、今なおきわめて価値の高い本である」なんて書かれているのだそう。もちろんその本が出版されてから相当時間が経ってると思うんですが、それでも今なお入門書として相応しい本かも。今でこそ、世界各地の妖精に関してまとめてる本が簡単に手に入るけど、19世紀にこういった本があったというのはやっぱり驚きだし... 日本人は割と総括的な本を好むから、井村君江さん辺りがまとめてくれるけど、外国ではもしかしたら今でも全世界のフェアリーを包括的に見る本ってそれほど多くないのでは、なんて思うんですが... どうでしょう。

トマス・カイトリーのフェアリー論で面白いのは、フェアリーを大きく2つに分けていること。それは「ロマンスのフェアリー」と「民間信仰のフェアリー」。
「ロマンスのフェアリー」として紹介されているのは、ペルシアやアラビアといった東洋のロマンス、そしてそれらの東洋のロマンスが伝わったのではないかと考えられるヨーロッパのロマンス。ロマンスと言うと分かりにくいけど、要するに文学の中に見るフェアリーですね。ヨーロッパのロマンスにはギリシャ・ローマの古典や東洋的なフェアリーのほかに、ケルト神話に見られるようなフェアリーも加わって、アーサー王と円卓の騎士、シャルルマーニュと十二勇士、そしてスペインに流布したアマディスとパルメリンもののような中世の騎士道ロマンスが登場します。そしてスペンサーによる「妖精の女王」。こちらのフェアリーは、ほとんど人間と同じ。超人的能力を授けられてはいるものの、結局のところは死すべき人間に過ぎない存在。
そして「民間信仰のフェアリー」は、森、野原、山、洞穴など自然の中に住む精霊や、人間の家に住みつく精霊。「日々身の回りでおきる様々な現象や出来事を見ると、何か知性のある存在の仕業と思い込みたくなる」... というまさにその作用から生まれた存在ですね。妖精を現在のような可愛らしい姿に変えてしまったのはシェイクスピアだ、ということは以前読んだ覚えがあるんですが、ここでも、そんな可愛らしいだけではない妖精の姿が色々と描き出されていきます。

今となってしまっては、それほど目新しいことが書かれているわけではなかったんだけど、なんだかギリシャ人の想像力の豊かさを再認識させられますね。例えば薔薇について。イスラムの教授たちは、予言者マホメットの聖なる肉体から発散した湿気から生まれたとしているようなんですが、ギリシャ神話では、ヴィーナスが裸足で森や草地を走った時に流れた血に染まって赤い薔薇が生まれたとしてるんですよね。ノルウェーやスウェーデンでは人間の声を真似てからかう小人の仕業とされる木霊は、ギリシャ神話では恋に憧れるニンフによるもの。ロマンティックな想像力がたっぷり。
この「妖精の誕生」は、同じく現代教養文庫の「フェアリーのおくりもの」とセットで1冊みたいですね。その2冊でトマス・カイトリーの「フェアリーの神話学」のほぼ全訳となるようです。そちらも読んでみなくてはー。(現代教養文庫)


+既読のトマス・カイトリー作品の感想+
「妖精の誕生 フェアリー神話学」トマス・カイトリー
「妖精のおくりもの 世界妖精民話集」トマス・カイトリー

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