「アイヌ神謡集」知里幸惠編訳

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北海道登別市出身のアイヌ民族で、15歳の時に言語学者の金田一京助氏出会ったのがきっかけで、アイヌとしての自信と誇りに目覚めたという知里幸惠さん。その知里幸惠さんが、アイヌ民族の間で口伝えに謡い継がれてきたユーカラの中から神謡13篇を選び、元となるアイヌ語の謡をローマ字で表記、その日本語訳をつけて出したのが、この「アイヌ神謡集」。医者から絶対安静を言われていたにもかかわらず、病気をおして翻訳・編集・推敲作業を続けた知里幸惠さんは、完成したその日に、持病の心臓病のためにわずか19歳で亡くなったのだそうです。金田一京助氏、そして幸惠さん自身の弟で言語学者の知里真志保さんによる解説付き。

アイヌ文学には韻文の物語と散文の物語があり、そのうちの韻文の物語がユーカラ(詞曲)と呼ばれる叙事詩のこと。そしてそのユーカラはさらに、「神のユーカラ」(神謡)と「人間のユーカラ」(英雄詞曲)に分けられ、狭義の「神のユーカラ」は動物神や植物神、自然神が登場して自らの体験を語る「カムイユカル」、広義の「神のユーカラ」は、そこに文化神・オイナカムイが主人公として現れて自らの体験を語る「オイナ」が加わったもの。この本に収められているのは、狭義の「神のユーカラ」13篇。文字をもたないアイヌ民族の間では、口承で伝えられてきたものです。

もう、もう、最初の「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」という言葉から引き込まれました。なんて美しい...! こういった言葉が謡の中で何度も繰り返されて、そのリズムの良さもとても印象的です。アイヌ語で謡われても、きっととても美しいものなんでしょうね。この本は対訳となっているので、ローマ字表記のアイヌ語を自分で読み、その音を確かめることができるはずなのですが... これがなかなか難しく... やっぱり一度きちんとした朗読を聴いてみないとダメかも。ああ、聴いてみたいなあ。
そして内容的にもとても面白いのです。アイヌの神(カムイですね)というのは、神々の世界にいる時は人間と同じ姿をしてるのに、人間の世界に来る時は、それぞれに違う姿をまとうんですね。この本に収められた作品群では、ほとんど動物の姿になっています。神が宿っていても、だからとても強いというのはないようで、普通の動物と同じように時には捕らえられ、食料として調理されてしまうこと。そしてそんな時、神はその動物の耳と耳の間に存在して、自分の宿る動物の体が切り刻まれたり調理されていくのを見てるんです! 世界の民話でも、こういうのは珍しいんじゃないかしら。そして人々は、神々が宿っているという前提のもとに、その動物が自分たちのところに来てくれたと考えて、その体を丁寧に扱って、利用できるものは利用し、感謝して、神々の国に戻ってもらうことになります。(この辺りは、神話的社会によくありますね) もちろん、良い神々ばかりとは限りません。悪い心を起こしたためにその報いを受けて死後反省することになる神々もいます。(これはとっても民話っぽい)
でもどの謡も、読んでいると広い大自然を感じさせるのが共通点。アイヌたちが自分たちのあるがまま生きていた時代。自分たちの文化に誇りを持っていた時代。かつてアイヌたちが自由の天地で「天真爛漫な稚児の様に」楽しく幸せに生きていた時代を懐かしむ、知里幸惠さん自身による序もとても印象に残ります。

で、この「アイヌ神謡集」がとても良かったので、勢いにのって、以前購入していた「ユーカラ アイヌ叙事詩」も読んだんですが... こちらは動物神だけじゃなくて色んな神々の謡が18編収められているし、英雄のユーカラも。こちらにも金田一 京助氏が絡んでるので、「アイヌ神謡集」とは全然重なってなくて、それも良かったんですが... こちらの旧字旧仮名遣いが... よ、読めない...(涙)
一応全部読んだんですけど、理解できたとは言いがたく。平凡社ライブラリーから出てる「カムイ・ユーカラ アイヌ・ラッ・クル伝」でリベンジするべきなのかしらー。はああ。(岩波文庫)

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Commentaires(5)

ああ、四季さん、ほんとにほんとにあのローマ字表記の原語を耳から聞いてみたいです。意味、わからなくてもいいんです。
ただ音で、「銀のしずくふるふる・・・」を聞きたいなあ、と思います。いつかいつか、と願っていたら機会が訪れるかな?
それからあの序文。すごく感動しました。迫害される側のアイヌの人のほうから和人に向かって橋をかけたのだなあ、そして、同胞たちを励ましたのだなあ、と思うとほんとにひとことひとことがかけがえの無い言葉みたいでした。

実は四季さんの読了本から「ユーカラ アイヌ叙事詩」を、わたしも「読みたい本」リストに載せておいたのですが・・・ああ、これはなんとも敷居が高そうな本ですね。平凡社ライブラリーのほうをとりあえず読んでみたいです。

あぁ…四季さん!またしても先を越された^^
読みたかったんです、もう何年も何年も前から。
叙事詩好きの方のレヴューでもなかなかお見かけできなくて(出不精だからなんでしょうけど)、でも私たちの国の叙事詩ですもん、絶対に絶対に読まずしてどうしようと思っていたんですよ。

自分の時間の遣り繰り下手と遅読が恨めしい;;
でも、あぁやっぱり四季さん♪この上なく嬉しいです。

>ぱせりさん
あれ、てっきりぱせりさんはアイヌ語の朗読を聴かれたのかと…
あ、ラジオで流れていたのは日本語の方だったのでしょうか。それでも十分うらやましいですが!
アイヌ語で聴きたいですよねえ。いつの日か叶うといいな。
そして詩が良かったのはもちろんのこと、あの序文も心にずんずん響いてきましたよね。
うんうん、まさに1つ1つがかけがえのない言葉ですね。^^

「ユーカラ」の方は、私にはちょっと歯が立たなかったです…
ただの旧字旧仮名遣いという以上に、なんか難しくて。読書力不足ですね。(涙)
平凡社のでもいいんですけど… 多分収録作品が重なってるんじゃないかなって思うんですよね。
でもこの「アイヌ神謡集」に載ってる作品は、もうこの訳以外読みたくない気もして… ちょっぴり複雑です。


>garnetさん
あ、garnetさんもだったんですね!
私もこの本を初めて手にしてから早何年… というほど長くもないんですが(笑)
数年間寝かせてしまったんですよ。読もう読もうと思いつつ。
ねね、これは読まずにはいられないですよねーー。
叙事詩好きとしても、この国に住む者としても。
と、やっぱりgarnetさんと重なっていたのが私も嬉しいです。^^

ハイネの次にでもいかがですか?
この機会にぜひぜひ!!

「銀の滴」は、典型的な蘇民将来譚になってるのが、すごく不思議。

アイヌ=縄文みたいなイメージがあるせいですが、
考えてみれば、アイヌは非常に密に倭人やさまざまな民族と交流があり(戦争もふくめ)、
そのなかで伝わってるんでしょうね。

「shirokanipe」というのは白銀(シロガネ)のことで、
金属についての技術や知識、市場価値の伝わっているのがわかります。
この話は「長者譚」で、貧富の差がヒトの人生の主要な関心事にもなっています。

東北では、山の神に会った漁師が、神様のお産を助ける、
という形の話がマタギに伝わってるそうです(九州にも同じのがあるらしい)。
アイヌはやっぱりアイヌらしいバージョンに作り替えられてて、
フクロウの鳴き声が、ランランピシュカンと聞こえるのでしょうか。
(かなりの空耳アワーですw)

知里幸惠は、「銀の滴」がいちばん好きだったようですが、
同じタイプの話がかなり広く分布していることを知ったら、
どんなふうに思っただろう。
がっかりする人と(アイデンティティの拠り所が崩れた気がして)、
面白がる人(人類の奇妙な共通性を感じて)がいるように思えます。

アイヌの神謡は、ネットで検索すると、もしかすると動画があるかも。
書籍だと、萱野茂さんの労作、
「萱野茂のアイヌ神話集成」(全十巻)
がCD付きです。
萱野さんらががんばって、アイヌの問題は「政治的に正しい」系になったので、
この本も大きい図書館にはたぶん装備されているはず。
朗読会とか巡回してる人もいるような予感がします。

「ふるふる」と訳してみせたところが、この訳詞の勝利ですね☆
アイヌの信仰で特徴的な、食べるものと食べられるものの主語と目的語が、
ウロボロスの輪のようにリンクしてしまうことの深い象徴性が、
「ふるふるまわりに」という音の中にすでに予兆されているかのように響きます。

overQさん、こんにちは!
私もやっぱり「銀の滴」が一番好きですねえ。
でも同じタイプの話が世界中にどれだけあっても最早驚きません…
…というのが、いいことなのかどうなのかは分かりませんが…(笑)
どこでできた話がどんな風に変化しながら伝わっていったのか
そっちの方が面白いし、ものすごく興味をそそりますね。
そういう意味では、アイヌの方が倭人よりも他民族との接触が多かったのでは?
なんて根拠なく(!)思ったりもするんですけど、実際にはどうなんでしょう。
でもそうですね、知里幸惠さんだったらどうなのかしら!
この神謡集に入ってるお話は、どれも本当にアイヌの雰囲気たっぷりなので
アイヌ独自の文化が織り込まれたお話に、さらに誇りを持ちながらも…
でももしかしたら、内心、ちょっぴりがっかりされるかも…?

>萱野茂のアイヌ神話集成
うわー、そんなのもあるんですか!
とりあえず「銀の滴」だけでもいいんですけど、全10巻!
調べてみると、ビクターエンタテインメントから出てるんですね。
本よりもCDがメインなのかな。…わわ、全10巻で189,000円ですって!
うちの市の図書館は全然大きくないので装備してませんが
どうやら、府立図書館にはあるようです。
そうかー、あるのかー。すごいなー。
動画もあるかどうか調べてみます。でも動画もCDももちろんいいんですけど
もし朗読会があるんなら、それが一番ですよねえ。
子供の頃に北海道に行った時にアイヌのところも見て回ったんですが
覚えてるのは物ばかりで、言葉じゃないんですよね。
今から思うと、何かアイヌ語による朗読もあったような気もするー。
ああもう、全然覚えてない私のばかばかー。
(その頃はユーカラのことを何も知らなかったので、仕方ないんですが)

「ふるふる」、本当に素晴らしいです。
ああ、確かにウロボロス状態… それも含めての音なのかもしれないですね。
この部分だけでも、言葉に対するセンスが素晴らしい人だったと分かりますね。

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