「完全な真空」スタニスワフ・レム

Catégories: /

 [amazon]
実在しない書物の書評を書くという試みは、例えばホルヘ・ルイス・ボルヘスの「伝奇集」初秋の「ハーバート・クウェインの作品の検討」にも見られるもの。そのアイディア自体はラブレー、そしてそれ以前の昔にまで遡ります。しかし「完全な真空」が一風変わっているのは、そういった書評集だけを集めたアンソロジーを目指している点なのです... という、架空の本に対する書評を集めた本。

スタニスワフ・レムの作品を読むのは初めて。SFは苦手だし、あまり読む機会はないかなと思ってたんですが、ボルヘスの「伝奇集」(感想)を読んだ時に、これが楽しめたらぜひレムを、とオススメいただいたので読んでみました。いや、難しかった。古典文学からSFまでなんて幅広い! どんな知性の持ち主なんでしょう、レムという人は。これは私には全部は理解しきれないよ... 知力はもちろん、そこまでの読解力もまだ身についてないです。でも面白かった!
ええと、真空というのは、物質が何も存在しないという状態。なので「完全な真空」というのは、まったくの空っぽということですね。確かに存在してない本に関する書評を書くというのは砂上の楼閣のようなものだし、「完全な真空」と言えるのかも。でもこれのどこが「からっぽ」? いや、確かに「からっぽ」なんだけど。(笑)

まず面白いのは、この「完全な真空」という本そのものも、レム自身によって書評が書かれているということ。これがちょうど序文のように読めるんですけど、こういう構造(こういうのをメタって言うんですかね?)がものすごくソソるんですよねえ。そして他の書評が15冊分。その中には架空のノーベル賞授賞式での演説原稿なんかも混ざってるので、全部が全部書評というわけじゃないんですが。
私が一番好きだったのは「ギガメシュ」。これは、パトリック・ハナハンという作家が、同郷人であるジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」や「フィネガンズ・ウェイク」に対抗するかのように書いたという作品... 「オデュッセイア」は結局のところ古代バビロニアの叙事詩「ギルガメシュ」の剽窃に過ぎないと主張するハナハンは、自分なりの「ギルガメシュ」を「ギガメシュ」として書いたというんですね。ここで説明されているのは、なぜ「ギルガメシュ(GILGAMESH)」から「L」の文字を落として「ギガメシュ(GIGAMESH)」という題名とされたのか(「L」は「Lucipherus」「Lucifer」を表す... 存在はしているのだけれど目には見えない)ということに始まって、言葉遊びのオンパレード。でも単なる言葉遊びと侮るなかれ。これがもう、どこまで広がりを見せるのかと思っちゃうようなもので、すんごいツボです。「ユリシーズ」や「フィネガンズ・ウェイク」というのも、こういう作品なのかな? もしかしたら、私、好きかも? いや、もちろん、読むのは大変でしょうけど。以前から気になってたんだけど、ますます読みたくなってきたーー!
何も無いことを書き続ける「とどのつまりは何も無し」も面白いし(この「完全な真空」とちょっと似た存在ですね)、世界の古典文学をばらばらに解体して読者が好きなように再構成できる「あなたにも本が作れます」も~。コウスカ教授が自分のの出生の確率を太古の昔にまでさかのぼる「生の不可能性について/予知の不可能性について」のしつこさも楽しいです。でも、ここに書かれた書評の元になった本を実際に読んでみたいと思わなかったのは、なぜなんだろう? それはほめ言葉となるのでしょうか。それとも? このまま書かれたら、さぞすごい作品になっただろうな、というのもあるのに。(実際、書きあげるだけの能力はないが、書かないでおくのはもったいないアイディアもある、とのことでした)

いやいや、レムというのは、ものすごい人だったようですね。ボルヘスもそうだったけど、自分と同じ「人間」とはちょっと思えない... 怪物? アイディアの奔流が怒涛のように流れ出してくる人だったんでしょうね。こういう人の頭の中を覗いてみたい。「知性」が目に見えるように蠢いていそうです。今度読む時は、架空の作品への序文集だという「虚数」にしてみようと思うんですが、その前に自分の読書力をもっと鍛える必要アリ。いや、いつまで頑張っても、このレベルまでは鍛えられないかもしれないな。(国書刊行会)

| | commentaire(2) | trackback(0)

Trackbacks(0)

「完全な真空」スタニスワフ・レム へのトラックバック一覧:

URL TrackBack de cette note:

Commentaires(2)

紹介した者としては、楽しんでいただけたようで安心しました。
と言いながら、この「完全な真空」はずいぶん前に読んだきりでブログに感想も書いていません。時間があったら読もうと思いながらなかなか手が出なかったりするんですよね(笑)

レムは超難しいですが、そのわからなさを楽しむ作品でもあります。
この人が書くSFのほうも、一般的ないわゆるSFとは全く違います。
この人の作品を読んでしまうとアメリカのSFがいかにナイーブなものか思い知らされます。
代表作である「ソラリス」はぜひ一度お読みになる事をお勧めします。この作品を読むと四季さんの中のSF自体の概念が変わるかもしれません。

piaaさん、こんにちは!
ご紹介下さってありがとうございました。
もう本当に難しくて、ワケ分かんないとこがいっぱいだったんですけど…
で、あんまり分からないものだから、
piaaさんのブログで感想を探したんですけど、見つからなくて…
また改めて探そうなんて思ってたんですが、書いてらっしゃらなかったんですね。(笑)
でもそうですか、piaaさんにも超難しいですか。
そして、その分からなさも楽しさのうちなんですね!
確かに、よく分からないなりにも、それでも面白い作品ってありますものね。
ペレーヴィンの「恐怖の兜」なんかもそうだったし…
この「完全な真空」もよく分からないなりにも楽しめたので、オッケーというわけですね。(笑)

例えばハインラインの「夏への扉」なんかは大好きですし、全部がダメというわけではないのですが
SFとなると、どうしても手に取るのを躊躇ってしまうんですよね。
だから、どういうSFがダメで、どういうのなら大丈夫なのかも分からない状態で。
レムの場合は、この作品を読んだ限りでは、SF作品とされてはいても
その範疇に収まりきらなさそうな感じですね。
こういう難しいのに取り組むには、結構なパワーがいるので
また時機がきたら読んでみたいです。ありがとうございます!

コメントする(要JavaScript)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.