2006年10月 Archive

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ローマ時代の詩人・オウィディウスによるギリシャ・ローマ神話。そのキーワードは、「変身」。神々の怒りによって、あるいは哀れみによって、あるいは気まぐれによって、植物や動物に変えられてしまうエピソードが250ほど、次々に語り手を変えながら語られていきます。下巻の後半になると、トロイア戦争とその後の物語へ。

子供の頃愛読していたブルフィンチの「ギリシア・ローマ神話」に「変身物語」のエピソードがかなり取り入れられていたし、ホメーロスの2つの叙事詩や様々なギリシャ悲劇作品も下敷きになってるので、既に知っている部分も多かったんですが、「変身物語」という作品として通して読むのは、今回が初めて。ものすごい量のエピソードが、語り手を代えながらも途切れずに続けられていくのがすごいです。元々は詩の形で書かれた作品が、すっかり散文調になってるのは残念だったんですが、訳注を最小限にとどめるようにしたという訳文はいいですね。ただ、ゼウスがユピテル、ヘラがユノー、アプロディテがウェヌスみたいに、神々の名前がローマ神話名になっているのがちょっと分かりにくい...。ローマ時代の詩人のオウィディウスがローマ神話名、というかラテン語名を使うのは当然としても、日本人にとっては、やはりギリシャ神話名の方が馴染みが深いですよね。なんで「ゼウス」や「ヘラ」じゃあダメだったんでしょう。

ここに描かれているのは、相変わらず人間以上に人間臭い神々の姿。懲りもせず浮気を繰り返すユピテル、自分の夫よりも相手の女に憎しみをぶつけるユノー、気侭な恋を繰り返す男神たち、自分よりも美しかったり技能がすぐれている女に嫉妬する女神たち。変身物語といえば、アントニーヌス・リーベラーリスの「メタモルフォーシス」もそうなんですが、こちらは未読。こちらには載っていないエピソードもあるそうで、興味をそそります。でもリーベラーリスの作品に比べると、こちらの方が遙かに人間や神々の心情を細やかに描いているみたい。まあ、確かに相当ロマンティックではありますね。(笑) それだけに、文学だけでなく、その後の芸術全般に大きな影響を与えたというのも納得なんですが。
この中では、ピュラモスとティスベのエピソードがシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にそっくりで、特に印象に残りました。そっかあ、シェイクスピアはここから題材を取ったのかあ。(岩波文庫)

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アーサー王伝説の中でも特に有名な、中世英語詩の傑作「サー・ガウェインと緑の騎士」、瑕疵ひとつない大切な真珠を失ってしまったという宗教的な詩「真珠(パール)」、王妃を連れ去られてしまい、竪琴だけ持って荒れ野に隠遁するオルフェオ王の物語「サー・オルフェオ」、そして緑の礼拝堂へと向かう前のガウェインの歌「ガウェインの別れの歌」の4編。14世紀に中英語で書かれた作品のJ.R.R.トールキンによる現代英語訳、の日本語訳です。(笑)

「サー・ガウェインと緑の騎士」に関しては、英語でなら大学時代に読んだんですけど、日本語できちんと読むのは初めてかも。子供の頃に、R.L.グリ-ンの「アーサー王物語」(岩波少年文庫)の中で読んで以来ですね。でも、英語版にも、この冒頭の部分はあったかなあ... トロイア戦争、ローマ建国、ブリテン建国に触れられている辺りにはまるで覚えがないです。トールキンの創作? 緑の騎士の外見の描写も、私が読んだのとはかなり違うから、やっぱり創作なのかも。私が思っていた緑の騎士は「緑色の鎧兜に身を固めた大柄な騎士」なんですが、ここに登場する緑の騎士はすごいんですもん。この表紙の絵もすごいですよね。左がその緑の騎士。これじゃあまるで原始人? 右の小さな人影がガウェインです。「この世(ミドルアース)に常ならぬものすごさ」「巨鬼(トロル)の半分ほどもあろうかというほどの巨躯」という文章が、まるで「指輪物語」みたいで、さすがトールキンの世界になってます。...とまあ、その辺りはいいんですが、散文の形に訳されているのが、やっぱりとても残念。頭韻を日本語に移し変えるのは不可能だと思うけど、やっぱり詩にして欲しかった。うーん。

「真珠」は一種の挽歌なのだそう。幼くして死んだ娘になぞらえた「真珠」に導かれて、エルサレムを垣間見る美しい詩。(これは詩に訳されていました) 「サー・オルフェオ」は、ギリシャ神話のオルフェウスの物語のブリテン版。王妃がなぜ突然連れ去られたのかは分からないんですが、王と王妃の愛情、そして王の人望の厚さが清々しい読後感。

アーサー王関連の物語も、色々読みたいんですよね。アーサー王の伝説に関しては、子供の頃からずっと好きだったんですが、例えば「アーサー王の死」や「トリスタンとイゾルデ」みたいな本家本元的作品や研究書ばかりで、アーサー王伝説に触発されて作った作品にはあまり目を向けてなかったのです。それが一昨年、マリオン・ジマー・ブラッドリーの「アヴァロンの霧」を読んで開眼してしまって! と言いつつ、なかなか本格的に手がまわらなかったんですが、ギリシャ神話関連もそろそろ一段落しそうだし(読みたいのはまだあるけど)、今度こそ色々読んでみようかと~。(原書房)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

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先日岩波文庫の「四つのギリシャ神話-『ホメーロス讃歌』より」というのを読んだんですが(感想)、これはその完訳版。デーメーテール、アポローン、ヘルメース、アフロディーテーはもちろんのこと、ディオニューソス、アレース、アルテミス、ヘーラー、ヘーラクレースなど22の神々への讃歌全33編です。...この本、ホメーロスの著作物のようにも見えるんですが、「イーリアス」「オデュッセイア」のホメーロスその人が書いたのではありません。「ホメーロス風」というだけ。作者も作られた年代もバラバラで、詳しいことは分かっていないようです。

でも、岩波文庫にも収められていた4編以外は、どれも短いんですね。一番短いもので、たったの3行、長くても数ページ程度。そのほとんどはただの描写だったり、祈願的なものだったりで、神話的なエピソードを描いたものではないんです。長大な4編との落差にはびっくり。これを読むと、岩波文庫がその4編しか出さなかったのも分かりますー。...とは言っても、面白くなかったわけではないです。色んな神々の詩を読むのはやっぱり楽しいし、しかもこの本の注釈はとても詳細。アポロドーロスの「ギリシア神話」やヘシオドスの「神統記」、オウィディウスの「変身物語」、ギリシャ悲劇はもちろんのこと、ギルガメシュ叙事詩などの東洋の神話系伝承にまで言及・引用されてるのがすごいのです。各讃歌ごとについている解題も勉強になります。

今回一番楽しく読めたのは、「パーン讃歌」。デュオニュッソスの従者とされながらも、ギリシャ神話ではほとんど名前を見かけることのないパーン神が、ヘルメースの子供だったとは迂闊にも知らなかったので、とても面白かったです。詩全体の雰囲気も陽気で楽しくて、目の前に情景が広がるようでした。(ちくま学芸文庫)


+既読のホメロス名義作品の感想+
「イリアス」上下 ホメロス
「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」
「オデュッセイア」上下 ホメロス
「ホメーロスの諸神讃歌」ホメーロス

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両親を事故で亡くして、アガサおばさんに引き取られているヘンリー。アガサおばさんの家は下宿屋で、屋根裏部屋にいたパン屋で働くマーガトロイドさんが、部屋の天井に頭をひどくぶつけて怒って出ていったところです。ケチケチなアガサおばさんの出す食事はほんのちょっぴりなので、マーガトロイドさんのパンを当てにしていたみんなはがっかり。そして、厳しいおばさんのお眼鏡に適って次に屋根裏部屋に住むことになったのは、ハービー・エンジェル。500キロワットの幸せそうな笑顔が印象的な若者でした。
 
冷たくカチカチのアガサおばさんと、おばさんそっくりの居心地の悪い家が、「エンジェルさん」の登場によって徐々に変わっていくという物語。井辻朱美さんの「魔法のほうき」(感想)で大きく取り上げられていて、あんまり面白そうだったので、図書館で借りてきてしまいましたー。
「つながり道具一式」を持ち歩くエンジェルさんはとても胡散臭い人物。勝手に飾り棚や食器棚をくんくんとかぎ回って、「つながり」「回路」「エネルギー畑」なんて連発してます。それなのに、普段は若い人は沢山食べるし騒がしいからと下宿に入れようとしないアガサおばさんが、エンジェルさんの笑顔にはトロトロなんですよね。この笑顔、魅力的なのは分かるんですけど、読んでるこちらまでトロけてしまうほどではなかったかなあ。エンジェルさんの最初の目論見(?)が上手くいったあたりなんて、「えっ、もう?」と思ってしまったし。もう少しじっくり書いて欲しかった。それに、アガサおばさんが今の冷たくて厳しい人になってしまった理由というのも、普通に読んでいればすぐ分かっちゃう。
でも魂のスイッチを切ってしまった不幸な家を幸せにするために、過去の人間と現在の人間をつないで未来へと結びつけていくという基本的な部分が良かったです。そして、人がそれぞれに香りを発散しているという部分もとても素敵。タチアオイの花やピアノやフルートといった小物も効いていて、可愛らしい話になってました。そして最後は幸せな暖かさ~。エンジェルさんまた別の物語も読みたくなっちゃいました。ということは、やっぱり500キロワットの笑顔には効果があったのかも?(徳間書店)


+既読のダイアナ・ヘンドリー作品の感想+
「屋根裏部屋のエンジェルさん」
「魔法使いの卵」ダイアナ・ヘンドリー

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tarais28.jpg今回のたらいまわしの主催は、きみ駒、ほっこり。のきみ駒さん。今回のお題は「あなたの街が舞台となった本」。副タイトルは「お国自慢大会」! きみ駒さんこのお題を思い付かれたのは、単純に「皆さん、どこの人なんだろう?」って興味を持たれたからなのだそうです。確かに、普段のネットでのやり取りからは、相手がどこの方なのか全然分からないことが多いですものね。
今回は、色んな方のそれぞれの「街」が見られそうで楽しみです! どうぞよろしくお願いいたしますね。

この企画に興味をもたれた方は、右上の「たら本」アイコンをクリック! 初めての方も大歓迎です。どうぞお気軽に参加なさって下さいね。

自分がよく知っている、慣れ親しんだ街が舞台となった物語は、思い入れが5割増しになるように思いませんか?その土地の空気とか温度とか匂いとか、そういうのがダイレクトに感じられるからかもしれませんね。またその街の言葉が、素直に胸に響くからかもしれません。
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ちょっと間があきましたが、またしても井辻朱美さんのファンタジー論を。ファンタジー作品の中における空間や時間について、「場所の力」「時の輪の外へ」「魔法の思考」という3章で読み解いていく本です。
井辻さんのファンタジー論を読むのも、これで4冊目。これが一番分かりやすく面白かったです。書かれた順番に読んでいるので、そう感じるのも当然かもしれませんが、これが一番論として整理されているように思いますね。コンパクトながらも中身は濃くて、第27回日本児童文学学会賞受賞の前作「ファンタジーの魔法空間」に決して劣らないものに仕上がっているのではないかと! 初っ端から「大草原の小さな家」や「赤毛のアン」、名探偵ホームズがファンタジーと書いてあるのには驚いたんですが、井辻さんが考える「ファンタジー」の定義の1つとして、↓こんな文章があり、納得。

「ファンタジーのファンタジー性とは、魔法への言及にかかわる問題ではない、ということだけを言っておこう。ファンタジーとはなにより、<ひとつの(別)世界>になりたがる作品のことだ。」(P.7)
「つまりこういうことだ。アンにせよ、ローラにせよ、ホームズにせよ、ある物語が時代や国を超えて愛されると、テキストだけであることをやめて、 <世界化>しようとする傾向があり、その<世界>の中身はなにもホンモノの周辺知識である必要はないということだ。」(P.9)

ファンタジー作品についての評論なんですが、例としてノンフィクション作品を取り上げていたり、E. ジェンドリンという現代の心理学者が創始したというフォーカシング心理学が取り上げられているのが、井辻さんの幅の広さを伺わせて興味深いところ。フォーカシング心理学におけるCAS(clearing a space)とは、自分のいる空間を改変することで、自分自身の中身も改変してしまうこと。それは例えば、日常的にお気に入りのカフェに行くという行動もそうなのだそうです。そして実際の行動だけでなく、イメージの中でも有効で、自分が気がかりに思っていることをイメージの中に並べて、それを何かに入れて隠してしまったり、そこから距離を置くことを想像するだけで、その問題に対する感じ方はかなり変わってくるのだそうです。そのイメージ操作のツールこそが、ファンタジーにおける魔法。その魔法に強い力を発揮させるためにも、意識を柔軟にして <現実=一枚岩>という感覚を溶かしてしまう必要があるのだとのこと。
こうやって考えてみると、ファンタジーと一言で言っても実に奥が深いです。こういったことを知った上でファンタジー作品を読めば、今まで気付かなかったことにも気付けそう。ということで、まだまだ読む予定。中で紹介されてた作品も読みたいな。(廣済堂出版)


+既読の井辻朱美作品の感想+
「風街物語 完全版」井辻朱美
「エルガーノの歌」「パルメランの夢」井辻朱美
「幽霊屋敷のコトン」「トヴィウスの森の物語」井辻朱美
「ヘルメ・ハイネの水晶の塔」井辻朱美
「遙かよりくる飛行船」井辻朱美
「ファンタジーの森から」「ファンタジーの魔法空間」井辻朱美
「夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり」井辻朱美
「魔法のほうき」井辻朱美
「ファンタジー万華鏡」井辻朱美

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旅人の語る物語、そしてその中に登場する青い花に心を奪われた20歳の青年・ハインリヒは、その夜、夢をみます。それは泉のほとりに生えた1本の淡い青色の花の夢。ハインリヒがその花に目を奪われていると、花は姿を変え始め、中にほっそりとした顔がほのかにゆらぎます。夢の青い花のことを考えてふさぎがちになった息子の気分を変えるために、母親はアイゼナハから郷里アウクスブルクに住む実の父のもとに、ハインリヒを連れて旅立つことに。

13世紀初め頃の中世ドイツが舞台の物語。この物語の主人公のハインリヒは、実在のほどは明らかでないにせよ、 13世紀初めに行われた歌合戦で、当時の著名な恋愛詩人たちを相手に競ったという、伝説の詩人なのだそうです。
「うるしのうつわ うたかたの日々の泡」のkotaさんが、たらいまわし企画・第25回「『ドイツ』の文学」で挙げてらして(記事)、その後イギリスの作家ジョージ・マクドナルドが影響を受けたと知って、ますます興味が湧いた本。硬質な質感を持つ作品だと仰ってましたが、確かに...。モチーフという意味では水の方が前面に出てきてるし、水のイメージも強いんですけど、なぜか鉱石のイメージが強く残ります。実際に鉱山の場面もあるんですけどね。とにかく、ものすごく美しい作品でした。特に作中で語られる「アリオン伝説」と「アトランティス物語」、「クリングゾール・メールヒェン」、そして水にまつわる2つの暗示的な夢がすごいです。美しくて幻想的。隠者の本を見る場面も良かったなあ...。
主人公のハインリヒが旅をする物語なんですが、旅を描くのが目的ではなくて、ハインリヒの成長を描くための旅。特に内的葛藤があるわけでもなく、常に受身で、しかしその中で自分の学ぶべきものを謙虚に学んでいくハインリヒの姿は、まるでシュティフターの「晩夏」(感想)の主人公のようだなあ... と思ったら、「晩夏」の主人公の名前もハインリヒではないですか! 何か関連が? それともドイツ人にとって「ハインリヒ」というのは、日本における「太郎」ですか?(笑)
年代的には、ノヴァーリスが1801年に29歳の若さで亡くなって、その4年後にシュティフターが生まれてます。

でもこの「青い花」は、未完の作品なんですよね。本には遺稿も併せて収録されていて、それを読むと完成しなかったのが残念でならないほど。今は美しさに目を眩まされちゃってるし(笑)、そうでなくても、一度読んだだけでは理解しきれたとは到底言えないので、折にふれて読み返してみたいですね。作中で語られているノヴァーリスの文芸観も面白いです。(岩波文庫)

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