2007年7月 Archive

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紀元71年。今回の仕事の依頼主は、解放奴隷のサビナとアティリアという女性2人。彼女たちとそれぞれの夫は解放奴隷であり、そして同じく解放奴隷仲間だったノヴスと一緒に、ローマの北にある広大な屋敷に暮らしています。しかし、ノヴスが近々セヴェリナという女性と結婚しようとしているのですが、セヴェリナには過去3回の結婚歴があり、その3回とも夫が早死にしているというのです。ファルコは調べ始めます。

密偵ファルコシリーズ3作目。
今回仕事の依頼人となるのは、解放奴隷。この解放奴隷については、先日アントーニーヌス・リーベラーリスの「メタモルフォーシス」を読んだ時にも出てきました。このアントーニーヌス・リーベラーリスという作者が解放奴隷らしいんですよね。奴隷とは言ってもローマ時代の奴隷は大抵が戦争捕虜で、高い教養を持つ知識人も含まれていることから、ローマ人貴族の秘書となったり、その子弟のギリシャ古典教育のために家庭教師になるなど、重用されていたのだという説明がありました。お金を貯めて自由を買い取ったり、主人が亡くなった時に遺言で解放されるなど、自由の身になる機会もそこそこあったようです。「奴隷」という言葉を聞くと、どうしても生まれた時から死ぬ時まで、みたいなイメージがあるんですけど、解放奴隷は全然違うんですねー。今回登場する解放奴隷も、ある程度の教養人だし、貯めたお金を元手に商売で大成功したようです。今や大富豪。
今回もひねくれたユーモアセンスの持ち主であるファルコの語りが楽しいんですが、前2作とは違って、全編通してローマ内での展開でした。そして前2作よりもずっとミステリ色が強かったです。果たしてセヴェリナは白なのか黒なのか。セヴェリナが白だとしたら、黒は誰なのか。その方法と動機は。セヴェリナの行動には今ひとつ納得のいかないところもあったんですが、そのファム・ファタールぶりと、それに対抗するファルコの姿が楽しかったです。実際的に見えるファルコなんですけど、実は結構ロマンティックなんですよね~。
可笑しかったのは、ファルコが皇帝の息子にもらった巨大ヒラメ(ターボット)を、アパートの部屋で料理する場面。狭い部屋で焼くわけにもいかず、最初は兄の形見の盾(!)で煮ようとするんですが、深さが足りなくて、結局洗濯用の大きな銅の盥を借りてくるんです。一体どれだけ大きいの? この場面には招かれざる客まで登場して、ちょっとしたどたばた劇。それともう1つ可笑しかったのは、ルシウスという法務官の書記に関する描写。「いかにも切れ者」という辺りはいいんですけど、「馬券屋のおやじみたいな粋なかっこうをしている」ですって! 馬券屋のおやじって... 競馬が貴族のスポーツのイギリスでは、「馬券屋のおやじ」も粋なんでしょうけど、この日本語だと到底かっこよく感じられませんー。でもこんなところに、作者のお国柄が出てくるのが楽しいです。これはやっぱり狙ったものなのかな? それとも無意識...? やっぱり狙ったものなんだろうなあ。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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中古のワープロを買った潤が書く最初の物語は、11歳の夏の冒険の物語。潤が経験した、ちょっぴり不思議な物語。いつものように塾に向かっていた潤は、人気のない荒れた屋敷のところで白いネグリジェを着た髪の長い女の子の幽霊を目撃します。塾の休み時間、早速他の面々に幽霊を見た話をする潤。潤は知らなかったのですが、その屋敷は実は幽霊屋敷として有名で、強盗に殺されたお嬢様の幽霊が出るのだというのです。親友のあげはは、その家にはちゃんと持ち主がいて時々手入れをしているし、そんな伝説は嘘っぱちだと頭から否定します。

「人魚亭夢物語」にも登場していた潤が主人公の物語。潤が弥子に話した「子供の頃の不思議な体験」の物語というのがこれです。
始まりは、夏休みの5人の子供たちの冒険譚。幽霊目撃もあり、夏らしい怪奇風味もたっぷり。親たちの不審な行動が幽霊伝説に重なって、やっぱり伝説は本当だったのか...? と思わせるとことが良かったです。本当はもっと現実的な展開を見せるんですけどね。でも常識では説明しきれない部分も...。
この作品の中で、「ぼくの成績は中くらい。きっとこのまま、作家になったりすることなく、中くらいの進学をして、中くらいの就職をするんだろう。で、中くらいの人生を生きる。ごくごくありふれた人生。」などと考えている潤は、「人魚亭夢物語」では大学生として登場します。どうやら全然「中くらい」の人生ではなくなったようです。(あかね書房)


+シリーズ既刊の感想+
「ささやかな魔法の物語 カフェ・かもめ亭」村山早紀
「人魚亭夢物語」村山早紀
「コンビニたそがれ堂」村山早紀
「百年めの秘密」村山早紀
「やまんば娘、街へゆく」「七日間のスノウ」村山早紀

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浙江省の南の町の役所にいるのは、英華という名の鬼仙。英華はかつてこの町の役所で殺された幽霊。しかし修業をして仙籍を得て鬼仙となり、そのまま役所の中に棲み付いているのです。「肌の色雪をあざむく、天人のような美女」の英華のこと、気に入った役人がいれば恋仲になることもあれば、自分を魔物祓いの祈祷で追い払おうとする役人がいれば、それ相応の報復で思い知らせることも。そんなある日、能吏だが堅物の范公明がここの役所に赴任して来て... という表題作「鬼仙」他全6編。

宋から清の時代の中国を舞台にした短編集です。どうやら「緑窓新話」という中国の古い本を種本として書き上げた物語のようですね。6編のうち最後の2編でその「緑窓新話」の中の話を南條竹則さんが脚色しつつ紹介されていて、それがまた面白いんです。
この「緑窓新話」は、「聊斎志異」から遡ること数百年、南宋の風月主人が志怪、小説、史書、随筆、逸話集などから物語を集めて編集した154編の物語集なのだそう。「聊斎志異」ほどの生彩の豊かさはないそうなんですけど、その辺りが逆に宋の好事家の仕事という感じでいいみたい。それはぜひとも読んでみたーい。...と、ネットで古本屋を調べてみたんですけど... 3件ほど該当する本が出てきたんですけど... 上海古籍出版社の中国古典小説研究資料叢書って、日本語じゃあないんですかね...? 中文書っていうのは...? どちらも日本語じゃなさそうな気配が濃厚... そんなの怖すぎて注文できませんーっ。

6編中で私が一番好きだったのは、表題作の「鬼仙」。英華姐さん、とでも呼びたくなるような鉄火肌の英華と、堅物の范公明の関係がいいんです。情が深くて、恋人の一族に重い病気の人間がいれば、よく効く薬を与えたりもする英華なんですが、魔物祓いの祈祷なんてしようとする役人には容赦しません。「この無礼者!何をする!あたしは下等な狐狸妖怪じゃないぞ!」なんて啖呵を切っちゃうし、その後、きっちりと報復が...。范公明も最初は英華を追い払おうとして、逆に英華に命を狙われたりもするんですけど、英華のおかげで悪人が罪を自白したのを見て、悪い妖怪ではないと悟って、きちんと感謝と謝罪をするんです。で、ちょっとした茶飲み友達になっちゃう。(范公明は妻帯者だし、英華はその辺りの仁義を大切にするから、あくまでも茶飲み友達)
あと、「我輩は猫である」ブラック風「犬と観音」も面白かったし、料理の上手な小琴の活躍が小気味いい「小琴の火鍋」も、南條さんらしい美味しそう~な作品でした。やっぱり南條竹則さんの本はもっとガンガン読もうっと。(中央公論新社)


+既読の南條竹則作品の感想+
「セレス」南條竹則
「りえちゃんとマーおじさん」南條竹則
「鬼仙」南條竹則
「あくび猫」南條竹則
「魔法探偵」南條竹則
Livreに「酒仙」「満漢全席」「遊仙譜」「ドリトル先生の英国」の感想があります)

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1年前から契約社員として働いていた服飾雑貨の輸入会社で、念願の正社員に昇格した久里子。しかし2ヶ月も経たないうちに、業務縮小のためリストラされてしまい...。ついこの間、大喜びで報告した手前、クビになったとはなかなか言い出すことができない久里子は、リストラされる前と同じ時間に家を出る日々を送ることに。

「賢者はベンチで思索する」の続編。3編の連作短編集です。てっきりあれで終わりだと思い込んでいただけに、びっくりの続編。あんな終わり方だったのに大丈夫なのかしら、なんて心配したんですけど(と言うほどハッキリ結末を覚えてるわけじゃないんだけど・汗)、いざ読んでみたら、ぜんぜん違和感なく読めました♪(記憶も少し薄れてますが・汗)
今回は3編とも久里子の居場所探しの物語だったような気がします。社会的な居場所と、プライベートな居場所。せっかく正社員になったと思えばリストラされてしまうし、昼間ひたすら暇つぶしをする久里子。ようやく見つかった仕事は、服飾とはまるで関係ない職場だし(服飾の専門学校卒なので)、これでいいのかと悩みは尽きません。そしてもう1つのプライベートな自分の居場所は、前回いい雰囲気になりかけてた彼ですね。でもなんと彼、修業のためにイタリアに行ってしまっていたんです...! ここで彼を兄のように慕う美少女なんかも登場して、その辺りはちょっとベタ。でも感情の揺れの1つ1つが丁寧に描きこまれていて、とてもいい感じでした。
いくら直属の上司に言い渡されたとはいっても、そんなにあっさりと納得しちゃうものなの? なんて納得できない部分もあるんですが... 私だったら、最初に昇格の話を持ってきてくれた部長に相談するけどなー。でもその後の久里子の行動が本当に久里子らしくて、それはそれで良かったかな、なんて思ってしまったりするのも近藤マジックなのでしょうか。(笑)
そして赤坂老人の言葉には、相変わらず含蓄がありました。今回特に印象に残ったのは、怒りや憎しみといった心の働きと冷静な判断を下す頭の働きは別物で、どちらを優先させてもいけないという部分。あとは「今、日本では人を殺す人よりも、自分を殺す人の方がずっとずっと多いんだ」かな。色々問題はあるようですけど、やっぱり素敵な人でした♪(文藝春秋)


+シリーズ既刊の感想+
「賢者はベンチで思索する」近藤史恵
「ふたつめの月」近藤史恵

+既読の近藤史恵作品の感想+
「モップの精は深夜現れる」近藤史恵
「南方署強行犯係 黄泉路の犬」近藤史恵
「にわか大根」近藤史恵
「モップの魔女は呪文を知ってる」近藤史恵
「サクリファイス」近藤史恵
「タルト・タタンの夢」近藤史恵
「ヴァン・ショーをあなたに」近藤史恵
「寒椿ゆれる」近藤史恵
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

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紀元70年のローマ。29歳の密偵・ディディウス・ファルコは、2人組の男に追われて炎天下を走る娘と鉢合わせし、彼女を助けることになります。その娘は、元老院議員である伯父の家に暮らすソシア・カミリア。伯父の屋敷に忍び込んだ2人組の男に無理矢理連れ出され、逃げ出したところだったのです。

なぜか2巻の画像がありませんが... これは皇帝がウェスパシアヌスの頃の古代ローマを舞台にしたハードボイルド、密偵ファルコシリーズ。現在14巻まで出ているようなんですが、なぜか全部手元に揃ってしまってます。(笑) 古代ローマには微妙に苦手意識があるんだけど大丈夫かしら... と、ちょっぴり心配しながら読み始めたんですけど、これがなかなか面白い!
作者のリンゼイ・デイヴィスは、修道士カドフェルのシリーズのエリス・ピーターズと、P.C.ドハティ(未読...)と並ぶ、歴史ミステリ御三家と呼ばれる存在なんだそうです。でも同じ歴史ミステリとは言っても、カドフェルのシリーズとは雰囲気が全然違っていたので、ちょっとびっくり。カドフェルの方は、舞台が12世紀のイギリスなら、そこに登場するのも12世紀の人々。当時の日々の生活がしっかりと伝わって来るんです。でもこちらは確かに古代ローマが舞台でありながら、登場してるのはもっと現代的な人々。古代ローマはしっかり描かれてるし、スラム出身のファルコが貴族や皇帝の仕事をしたりするので、色んな階級の人々の生活が幅広く描かれてるんですが... やっぱりこの思考回路と行動ぶりは現代的でしょ! それがまたこのシリーズの面白いところだと思うんですけどね。
それに「白銀の誓い」の方ではブリタニアに行くんです! 今まで読んだ古代ローマ物ではブリタニアに言及してる作品なんて全然なかったので、これは新鮮。逆にブリタニアの側の作品で、ローマについての話が出ることは時々あったんですけどね。そういえば、ローマからはまるっきり無視されてました。それもそのはず、ファルコ曰く、文明の果つる地、林檎だけはローマよりも美味しいけど、野蛮人の住む地らしいです。林檎ですって!? アーサー王の時代と少しズレてるのが本当に残念だわ。(笑)
ミステリあり冒険ありロマンスあり。歴史的にもこれはかなりしっかりした作りなのではないかと思います。中身が濃くて面白いので、続きも読んでみるつもり~。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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胸の奥が重苦しく、何かを蹴とばしたいような気分だった江藤雄太が見かけたのは、見慣れないコンビニ。ふらっと中に入ると、そこにいたのは銀色の長い髪に金色に光る目のレジのお兄さん。その外見だけでもびっくりなのに、お兄さんはなんと雄太の名前を知っていたのです。しかもそこには、転校してしまった美音から雄太が受け取らなかったメモ帳があったのです... という表題作「コンビニたそがれ堂」以下、連作短編集。

風早の街の裏通りのビルの隙間、古い赤い鳥居が建っている辺りにひょっこりと立っているコンビニを舞台にした連作短編集。このコンビニはコンビニらしくない赤と灰色で、少し古い雰囲気。手作りっぽいおでんのいい匂いが漂い、「おいしいお稲荷さんあります」という手書きのメニューがレジの傍に立てかけられています。探しものがある人間だけが辿り着けるというお店。
さすが「たそがれ堂」という名前の通り、夕暮れの情景がお得意のようです。しかもどの物語も季節感がたっぷり、季節それぞれの夕暮れの情景が広がります。そして夕暮れ時という時間帯のせいなのか、とても切ない物語が多いのです。特に後半。ありがちな展開だと思いながらも、すっかり作者の術中にはまってしまった話も...。(笑)
店主のお兄さんは、お茶目なきつねの神様。時にはミュージシャン志望と間違えられるような、イケメンのお兄さん。お稲荷さんだなんて、日本の昔ながらのモチーフを使いながら、現代を象徴するようなコンビニと結び付けているところが、また面白いです。(ポプラ社)


+シリーズ既刊の感想+
「ささやかな魔法の物語 カフェ・かもめ亭」村山早紀
「人魚亭夢物語」村山早紀
「コンビニたそがれ堂」村山早紀
「百年めの秘密」
「やまんば娘、街へゆく」「七日間のスノウ」村山早紀

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ヘンリ・ライクロフトは、純粋に作家として暮らしたいと思いながらも、長い間、貧乏のためにブック・レヴューや翻訳や論文といった詰まらない下請けを引き受けることを、余儀なくされていました。しかし50歳の時に知人から年間300ポンドの終身年金を遺贈され、突如悠々自適の生活を送ることができるようになったのです。ライクロフトは早速ロンドンの家を引き払い、イギリス中で最も愛しているデヴォン地方へ。そして5年余りの穏やかな生活を経て急逝。ライクロフトの死後、デヴォン地方に移ってからの日記らしき原稿ノートが出てきて、ギッシングがその遺稿を整理して出版することになります。

長年の貧乏暮らしから、思いがけない遺産相続を境に生活が一変したヘンリ・ライクロフトという作家の遺稿を出版した、という形式の小説。先日読んだ「読書の腕前」(感想)に、「およそ読書人と呼ばれる人の本棚に、これがないことはありえない」なんて書かれていた本です。引用されていた文章に惹かれるものがあったし、南イングランドの美しい自然の中で散歩と読書に明け暮れる日々だなんていいなあ、と読み始めたら、これが本当に良かった! 何が良かったって、私にとって一番良かったのは、ヘンリ・ライクロフトという人物の存在感ですね。いやね、読み始めてかなりの間、実在の人物のことを書いているのかと思い込んでいたんです。でもそう思って読んでもまるで違和感のないほど、造形がしっかりと立体的。多分周囲の人には、それほど個性的に感じられない、どちらかといえば全然目立たない人物のはずなのに、過去の出来事や現在考えていることを通して、ヘンリ・ライクロフトという人物像や人生観が浮かび上がってくるようで、これがすごく良かった。
もちろん、自然とのふれあいや本の話もすごく楽しかったです。こんな風に季節の移り変わりを敏感に感じながら、好きなだけ本を読む生活ってほんと羨ましいー。万事心得た家政婦さんがいるので、日常の瑣末なことには全然煩わされないで済むんですよね。その分ライクロフトは、毎日の散歩の中で見かけた花の名前を本で調べて、その美しさや香りを十分楽しんでます。「私は昔ほど本を読まない」という言葉も印象的でした。そうそう、そうなんだよね、今はどんどん新しい本を読んでる私もじきに読み方が変わって、好きな本だけを毎日読み返すようになるはず...。その日が来た時、ライクロフトみたいに自然に親しみながら毎日を心穏やかに暮らせるといいなあ。でも南イングランドじゃないし、今ひとつ雰囲気が出ないかもしれないな。(笑)(岩波文庫)

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